#アートとパリテ

中村愛音(歌い手、作曲家、パフォーマー)

2020年3月18日ニューヨークシティ。私はパフォーマンス作品を録画した。私の前にはビデオグラファーひとり。疫病流行の始まりのがらんとした街の中でも、エレベーターの工事をする人々の物音が響いていた。1月から明らかに受ける視線が変化していた。そのうちに唾と暴言を吐かれたりすることが増えた。録画のその日も、地下鉄で怖い思いをした。4年暮らしたニューヨークへの想い、このように暮らしが終わるかもしれないことへの悔しさ、様々な感情をぐちゃまぜに持ちながらも、テイクツー。私は「やさしさ」を選んだ。私の声が私の体を癒した。

この作品は、蓮池の前でメロディと言葉が浮かんだところから創作を始めた。「文化」という、人が定義し作ってきた物差しがあるならば、「文化」をひとまず置いておいて、蓮池の蓮のみを感じて作品を作ることはできるだろうか、そんな疑問と思いを込めた。日常の景色の中に、お寺もある、家庭もある、生活も仕事も。その日常の中に、「不浄」という言葉や、年長男性主体または優先の制度と芸能、国民と外国籍の人々の明らかな差別、ジャーナリズムと政治の癒着、多くの暴力性が存在していることも知る。矛盾と複雑性の中に生きながら、目をつぶるようにやり過ごすこともできる、その方がうんと楽かもしれない。でも私は、一つ一つ選択することはできるだろうか、改善に参加することはできるだろうか。最近私は、ある機関に、男性主体の機関の構造についての不安を伝えた。その後に押し寄せて来たのは更に大きな不安。ジェンダーバランスについて意見を伝えても、この人はこれからも私をサポートしてくれるだろうか、これまで築いてきた道を将来に繋げて作っていかれるだろうか。この不安こそが、性差別が無くならない理由なのだと思い知った。どこの地域にあっても、私の体は完全には自由にならないことも知った。北米で私は言葉と芸術の自由を獲得したが、オリエンタリズムの目からは自由になることはないことも知る。私は、芸術家として、女性作曲家として、どんなスタンスを選ぶのか、それを自分で確認しながら、前に進むしかない。

なにがあっても前に進むには、第一に、こころとからだと精神の健康が必要だ。「わたし」を大事にしながら、多様なセクシュアリティ、ジェンダーの人々が笑って生きられる世の中をつくりましょう4月8日、パリテ・カフェ京都にてパフォーマンスとお話をします。

Aine E Nakamura www.evaaine.com


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