見出し画像

コートでドレスでトランスフォーマー

ひとつで2倍おいしいコンセプトに、とことん弱い幼少期から思春期を過ごした。

レストランのデザートメニューなんかに「ハーフサイズ2種の盛り合わせ」なる文字を見れば迷わず注文したし、宅配ピザのチラシにハーフ&ハーフの写真を見つけては密かにときめいた。

ファッションビルのセールでリバーシブルの上着なんて見つけようものなら、とりあえず試着。似合っているのかどうかよくわからないまま、二面もあるんだしどっちかは似合うだろう、という不思議な確信を持って貴重なお小遣いを何度か泡にした。

膝から下の部分をジッパーで取り外せばあら不思議、ショート丈に変身する!という構造に惹かれて買ったパンツは、とうとう長い丈のままでしか履かなかった。

襟のつけ外しが自由にできる点を気に入って買ったブラウスの襟は、ずっとついたまま。

スタンドカラーの中にフードをしまえる軍物ジャケットのフードもほとんど出ない(洗濯後に乾かす時だけ出すけど)。衣服のうわべギミックに弱すぎる見本のような人間、それは私。

リバーシブルのショルダーバッグは裏返しで使うことすらないままタンスの肥やしと化し、数年後に手放した。まあ、あれは表が茶色で裏がカフェオレ色という、わざわざリバーシブルにする意義を疑うような配色でもあったんだけど。近年の話では、某ファストファッションメーカーと有名デザイナーのコラボ商品のヘルメットバッグも、裏返したのは2回くらいかな...

ほかの人よりもずいぶん時間をかけて、こういう中途半端な服や小物は結局どっちも似合わないのだということを知る。食べ物に関しては、今となってはハーフ&ハーフや品数がやたらと多いのを嫌い、単品メニューを好むまでに変わってしまった。

さて、コートドレスである。

デニム地やウールやコットンの厚地で仕立てられたワンピースで、前の合わせがシャツのごとく全開になり、羽織ってコートとして着るのも可能、という代物。ハーフ&ハーフ好きだった私が見過ごすわけもなく、これまでの人生で何着も何着も手に入れてきた。もういいかげんに2倍おいしい呪いからはのがれたと思っていたのだけれど、まだ惹かれてしまうコートドレス。

そして中でも一番のお気に入りに関しては、コートとして羽織ったことは実はない。コートにもなるんだよね〜と頭の片隅で思いつつ、常にワンピースとして扱っている。

普段は地味で普通の感じだけど実はスーパーヒーローに時々変身する、という感じに近いのかも知れない。潜在的可能性を含んだ服を着ている、というひそかな喜び。

あ、そうか、これってリバーシブルの服みたいに同じアイテムとして色が変わるんじゃなくて、アイテム自体が「ワンピース」から「コート」に変わるから、ハーフ&ハーフとはまたちがうんだ。「トランスフォーマー」って言う方がいいのかな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?