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育休旦那と下がり続ける自尊心

 年収1,000万超えの夫が育休検討時に懸念するもの、それは収入激減だ。もちろん他にも育休検討時に様々不安に思うことはある。しかしながらそれらの不安たちは収入激減と同じく事前に何かしらの対策は立てられる。
 けれども育休前に想定ができず、対策を立てられないことが一つある。それは何かというと自尊心の消失だ。育休を取ったことがない皆様には中々に想像がし辛いことかと思うので、今回はどうしてそんなことが起こってしまうのかをお伝えしたい。

ビジネスの世界から子育ての世界へ

 ハードワークに取り組む夫の皆様は「ビジネスの世界」で日々を全力で生きているかと思う。お客様の要件に沿って製品やサービスを提供し利益を得る世界だ。けれども育休が始まると「子育ての世界」へとあなたは足を踏み入れる。今までいた世界とはまるで勝手が違うことには戸惑い、気付けば手痛い失敗を重ね、仕事で築き上げた自己評価が失われ始めるのだ
 ビジネスの世界と子育ての世界は一体何が違うのか?子育ての世界の何が厄介なのか?特にインパクトの大きな差異が三つあるので順を追ってみていこう。

①日々変更されるルール

 子供の成長は指数関数的だ一カ月前は寝ているだけかと思ったら、翌月にはハイハイをスタート、その翌月には物を掴んで投げ始め、その翌月には掴まり立ち…といった具合に子供は日々成長するため、それに沿ってルール変更が日々行われる。例えば絵本対応。子供が自分で物を掴めない時は親が絵本を手に取って読み聞かせるのが正解だ。けれども子供が自分で絵本を掴み始めたら、子供が自分でめくり終えるのを待つことが正解だ。(※無理に読み聞かせたり、絵本めくりの邪魔すると泣いて暴れ出す可能性が高い)。
 例え話で説明してみよう。あなたはサッカーが大好きだ。試合に出るため練習と勉強を重ね続け、いよいよ待ち望んだその日が来た。試合会場に入り、キックオフの合図と同時に颯爽とボールを蹴ったところ、突如として審判からファウルを出されてしまう。何もルールを破っていないと審判にクレームを入れたところ、今日この日からバスケットボールのルールで試合を行うと告げられ、あなたは茫然と立ち尽くす。いつの間にルールが変わったんだと。そんなイメージだ。ちなみにファウル時には子供の泣き声が待っており、心が凹まない方が珍しい。

②ヒアリングできない要件

 一言でお伝えすると、子供が言葉を話せないため要件が分からず何事も失敗する可能性が高い、ということだ。
 これも例え話で解説したい。あなたはレストランの新米ウェイターだ。そこにお客様がやってくる。身なりも綺麗で相当なお金持ちに見える初老の紳士だ。どうやらオーナーと旧知の仲らしく、丁重に扱う必要があるらしい。そのお客様はおもむろに座ってこう口にする。「君は新人かね?当ててみたまえ。私の要望を」。それを聞いたあなたは困惑するが、何しろお客様は神様だ。オーナーとの関係性もあり、ないがしろにするわけにはいかない。あなたはオススメのメニューを必死に考え提案するものの首を横に振るばかり。それで困り果てたあなたのところに先輩ウェイターが駆け寄ってきてこう言うのだ。「バカ!この御方は必ずオーナーと同席されるんだ!お越しになったと早くオーナーに連絡しろ!」といった具合に。料理の提案を待っていたわけではなく、オーナーとの同席を希望していたというわけだ。
 これはビジネスの世界で中々に見かけない。何故ならばビジネスの世界では、「お客様の要件をヒアリングして定義した上で、それ満たす成果物(モノやサービス)を作り提供する」という大前提があるからだ。しかしながら、子育ての世界では一番最初の「ヒアリング」が不可能となり、五里霧中の中で対応を進めることとなる。結果がどうなるかは火を見るよりも明らかだ。新米ウェイター同様、多くの場合は要件を満たせず子供の涙を見ることになる。心が沈まない方が珍しい。

③支払われない報酬

 ビジネスの世界ではお客様に貢献すれば報酬が払われる。しかしながら子育ての世界ではどれだけ貢献しても報酬はない。先程の新米ウェイターになった気持ちで読み進めて欲しい。
 あなたはレストランで働き始めてから一カ月間が過ぎた。月末のお給料の振り込みが待ち遠しくてたまらない。このお金で何を買おうかなと期待に胸を膨らましながら銀行口座を確認してみたところ、レストランからの振り込み履歴が見当たらない。怪訝に思いレストランのボスに問い合わせたところ驚愕のお返事が届いた。「入社前に伝えられなかったかね?一人前と認められるまでは無給の教育期間だと。君を一人前にするために先輩方がどれだけの時間を割いているか分かっているかね?君のために割かれた時間を全て人件費に換算すれば君のお給料が支払われないのは至極当然のことだろう。早く一人前になってくれることを願っているよ。」と。
 がっかりしたものの、あなたは決意を新たにした。自分はまだまだ未熟だ。もっともっと修行を積んで貢献するぞと。それから半年、必死に働いた。仕事も先輩並みにこなせるようになった。けれども口座を確認しても振り込まれた履歴はなく、そろそろ貯金が底をつきそうだ。不審に思い改めてレストランのボスに問い合わせたところ衝撃の返事が届いた。「確かに君は以前に増して貢献できるようになった。けれどもそれはマイナスがゼロになっただけ。まだ当レストランには利益をもたらしていないのだ。そうである限り、どれだけ貢献したとしても君の報酬はゼロだ。分かるかね。給料について不満を口する暇があるならもっと研鑽を積みたまえ。」と。
 こんなブラックな労働環境のレストランが実際にあれば労働基準法違反で一瞬にして店を畳むことになるだろう。けれども、子育ての世界には労働基準法違反はなく、無報酬がまかり通るのだ。子育ては子供に貢献することが当たり前であり、貢献できなければ子供の泣き声が待ち受けているだけの世界だ。心が沈まない方が珍しい。

心を砕くハードシングス

 お分かりになられただろうか。ハードワークであることはビジネスも子育ても全く変わらないものの、上記三つの厄介な特性があるが故に、どれだけ努力を重ねても失敗の連続になる可能性が極めて高く、結果として自尊心が低下するのは当然の帰結であると言えよう。もちろん自分もその一人だ。
 もちろん①~③の特性全てが抗えないものではない。①のルールに関しては「誰よりもルールを把握している妻のアドバイスに耳を傾けること」、②のヒアリングに関しては「常日頃から子供を観察して言外の要件を把握すること」、③の報酬に関しては「子供が時折見せる笑顔や成長する姿を間近で見れることは幸せ」といった具合に、子育ての世界の特性を掴み対応が出来ないわけではない。自分もそうやって何とか日々を乗り越えている一人だ。けれども、どれだけ努力を重ねたとしても、どれだけ改善を重ねたとしても、ビジネスの世界に在籍していた頃に比べて自尊心が著しく低下しているのは否めない。リーマンショックも真っ青の下落率だ。

心が落ち込む日々

 そんな風にして心が落ち込んでしまってからというもの「どうして自分は妻の期待に応えることが出来ないんだろう」「どうして自分は家庭の中で評価されないんだろう」といった風に自分の存在価値に疑問を抱き続け、何をしていても楽しめなかったり、何に対してもやる気が出ない日々が続いた。色々なことが気掛かりになって理由もなく泣いてしまったり、夜に寝付けない不安な日々を過ごし続けていた。

挽回に向けて

 けれどもそこで諦めるわけにはいかなかった。きっと自分よりも子供と向き合って育児に奮闘し続けている妻のためにも、そして生まれてきてくれた子供のためにも、そして育休を取って家族に貢献すると決めた自分自身のためにも、下を向いて嘆き悲しんでいるわけにはいかなった。そんな自分を許すわけにはいかなかった。
 だからこそ自分は覚悟を決め、落ち込んだ自尊心を取り戻すために試行錯誤を繰り返した。どうすれば自分の心が上向くのか、どうすれば自分に対して大丈夫だと言えるのか、どうすれば自分に自信を持てるのか、インターネットで専門家の記事や体験談を検索しては読み漁り、図書館で育児や子育てに関する本をひたすらに借り目を通し、その中に書かれていたものを一つ一つ実践して確かめていったのだ。結果、その中のいくつかが功を奏して少しずつ自尊心を回復させることができ、今ではこうやって育児に専念しつつもnoteを綴り続ける日々を送ることが出来ているのだ。朝起きて気分が優れなかったり、食欲が湧かなかったり、疲れやすくだるかった暗く重い日々とは別れを告げることが出来たのだ。

回復への道

 どんな風にして心を回復させていったのか、どんな風にして自分を取り戻していったのか、少し長くなりそうなので別記事へ切り分けて紹介したいと思う。どうか自分と同じく育休を取られる皆様の心が失われないことを願いつつ、どうか仕事の世界から育児の世界へと飛び込んだ皆様が健闘されることを願いつつ、今回はここで筆を置くことにしよう。

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年収一千万円超で育休約二年の恐らく日本唯一の旦那。ちなみに本職は事業開発。2021年5月1日から復職予定。子育ての合間を縫って綴ったnoteは50万PVに到達。(フォロワーの皆様が10,000名に到達の暁には実名に切り替える予定です)