人は皮膚から癒される-1
衣食住に困らない。映画、音楽、アート、スポーツ、楽しい娯楽がたくさんある。大好きな人に、いつでもどこでも繋がれる。選択肢は無数にあって、自分の人生を自由にデザインしてゆける。
現代の満ち足りた生活。
なのにときどき、行き止まりに来てしまったような、一人ぼっちのような、どうしようもない息苦しさを感じることはないですか?
私はありました。あります。そういうときは波が過ぎるのをじっと待ちます(待ち切れずに手軽な快感に手を出すときもあります)。
我慢できないので自慢してしまいますが、
「皮膚は人から癒される」を読み、私はこのときどき感じる閉塞感の正体が分かりました。
「私今まで以上に幸せに生きていけるわ」と自信満々です。
題名通り、この本にはスキンシップの優れた効果や意外な皮膚の機能が書かれています。ですが一番の学びは「皮膚はただの器官ではなく、社会の在り方に大きく関わっている」と深く納得できたことでした。
もう読んでいて知的好奇心と心の古傷のようなものが刺激されっぱなしで、早く言葉にして消化したくてしたくてソワソワしているのですが、なにせその量が多すぎるので、小分けに書いていこうと思います。
今日はこの本から学んだ「幸せに生きるためのトップ・シークレット(と怪しげな呼称をしたいくらいの感銘を受けた)編」としてご紹介しますね。
拙いなりに、少しでも伝わったら嬉しいです。
日本人は間人主義
■個人主義でも集団主義でもない日本人
西洋型の個人主義に対して、日本は集団主義だとよく言われます。
ですが社会学者の濱口惠俊は、日本は「集団主義」ではなく「間人主義」であると言います。
例えば個人を犠牲にして集団の利益を優先するのではなく(=集団主義)、それぞれが自分の領域を超えて協力し合うことで集団が目標達成に近付き、それが翻って自分の欲求も満たしてくれる(=間人主義)ということです。
個人主義と比べるともっとよく分かります。
個人主義は個人の力と責任で目標を達成し、社会を生き抜くことを良しとします。そのためには個々人が強い自我を確立することが必要です。
ですが間人主義ではそもそも社会生活を個人の力と責任だけで営むのは不可能であり、相互依存こそ人間の本態だと考えます。そうした依存関係を前提にした上で自他を活かし、個人と集団の充実を図っていこうとするのが間人主義です。
必要なのは各個人が独立することではなくて、目の前に知らない人がいたらとりあえずは敵か味方かをジャッジせずに信頼し、社会を回していこうとする姿勢なんですね。
このときアイデンティティは個人の中にありません。ではどこにあるかというと、人と人との間に身を置く相対的な自分の中です。
親しい人や属している組織など、自分の周りをゆるく取り囲む要素にアイデンティティの一部を任せているのです。
これを踏まえると、よく言われる「日本人は主体性がない」「アイデンティティがない」というのも正しいようでピントがずれていることが分かります。
だってアイデンティティの所在が違うから。絶対的な自分の内側ではなく相対的な間柄で見出されるのが日本人なりのアイデンティティであり、相対的な間柄で主体性を発揮するのが日本人だからです。
このようにアイデンティティが人間関係の中で育まれる日本人にとって、対人関係の悩みは自己の価値そのものに直結する死活問題です。
■心理学で日本人を救えるか
対人関係の悩みを考えるときにはよく心理学が用いられます。
西洋で生まれた心理学では、対人関係の悩みを解決する鍵もやっぱり「個人」の中にあると考えます。何よりもまず自己を確立して肯定感を高めること、そして同じように相手の確立された自己も尊重すること、それから個と個の対等な関係を構築していくことに主眼が置かれるのですね。
もちろんこのアプローチは日本人にとっても問題解決の一助となることでしょう。ですが、間人主義の立場から言えば本質ではありません。
人と人との間にいる相対的な存在が自分だと考えるのならば、むしろ他者との間で自己肯定感を育むことで、人間関係に良い循環が生まれるのではないかと言えるのです。
例えば他者に一歩踏み込んだ親切をすること。ボランティア活動も良いですね。そうして感謝される体験を通して自己の存在感を見出すこと。間人主義の日本人にとっては個人を確立することよりも人との繋がりの中に自分を見出す方が重要なのです。
■おまけの提案
言ってみれば自分は水で他者や環境はインク。どんな色が混ざるかによって如何様にも変化していく。例え混じったインクが一滴だったとしても、それも自分を構成する大切な要素。
そう思うと日々の人間関係やちょっとした出会いも愛おしく感じませんか?この人も、この人も、私の構成要素の一部。私もあの人たちのアイデンティティの一部。
私は間人主義の概念を知ったときにとても幸せな気持ちになりました。何か大きなものにくるまれているような、無防備に身を委ねているような、大自然を前に肩の力が抜けてしまうような。まどろむような幸せを感じました。
だから、あなたにも提案です。
いっしょに人と人との間に身を置くことを楽しみませんか?自他の峻別よりも、とりあえず他者を自分の世界に招きませんか?自分だけの力で社会を生き抜く重責から離れて、頼り頼られの中で自由に漂いませんか?
私はそうしたいと思っています。このマガジン「偏愛読書記録」も、SNSという限定的な交友スペースではありますが、自分の感情生活を共有することで社会やあなたを形作る一部分になりたいという気持ちで書いています。
誰かと「何か最近面白い本読んだ?」という話になること、あるじゃないですか。そのときの「この間こういう本を読んでね、こういうことが書いてあってね、こう思った。あなたはどう思う?」と話を聞いてもらっている感じです。そのテンションでこのマガジンもお送りしております。
とはいっても繋がりと柵(シガラミ)はコインの裏表なので個人主義が心地良い人もいると思います。ですが私のように間人主義がしっくりクる人も多いはず。
あなたはどうでしょう。
この問いがあなたを形作る一要素になりますように。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?