棒たらのおつまみ
おともだちのおじいちゃんとおばあちゃんに棒たらのおつまみをもらった。棒たらを開いて裂いたものに、お醤油やみりんなどをしみこませたものらしい。最近はそれをちびちびとつまみながらビールを飲んでいる。
おじいちゃんとおばあちゃんは保育園に向かう道の途中に住んでいる。それはすっごく狭い商店街で、でも車も自転車もひっきりなしに通っていて、少しあぶない道。道路に面した家と、白線の狭い間に椅子を出してきて、おじいちゃんは毎朝道行く人を眺めている。いつからだったか挨拶するようになり、話すようになり、最近はおじいちゃんが毎日待っていてくれるようになった。
知らない土地で子育てをする中で、誰かが毎日気にかけてくれるのは本当にありがたいことだ。
「おう、おはよう」
「おう、今日はちょっとおそいじゃないか」
「おいぼうず。また眠そうな目をして」
ベビーカーの中の3歳児をわしゃわしゃと撫で、抱っこひもの1歳児にハイタッチをするのが日課だ。
「おう!来たぞ!」
おじいちゃんが玄関から家の中に呼び掛けると、おばあちゃんがにこにこと出てくる。
「ほら、帰る道でお腹すいたらかわいそうだからね。バナナおたべ!冷たく冷やしといたから!」
そして狭い道で子供たちはもしゃもしゃとバナナを食べる。1歳娘は大きな口をあけバクつき、3歳息子は果物がそんなに好きなわけではないのだが、二人の前でにこにこしながらバナナをほおばる。
そしてそんな子供らを2人は嬉しそうに見守っている。
本当は最初食べ物をもらうのが怖かった。だって見知らぬ人だから。でも一歩踏み込んでみたらそこにはあったかい世界があった。
最近はわたしにも食べ物をくれる。それはサツマイモの弦を炊いたものだったり、棒たらのおつまみだったり。お酒が好きなことを知っているので、おつまみがメインだ。今まで食べたことがないものばかりで、二人の優しさがうれしくて、ついつい飲み過ぎてしまう。
この土地もきっともう数か月でお別れなのだと思う。でもきっといつまでもわたしは彼らのことを忘れない。
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