ぜひ読んでみてください。 yawn00100@gmail.com

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最近の記事

前世

「前世を見てもらったの」 「うん」 「私の前世は未来人で、もう死んでるんだけど、これからずっと後に生まれてくる人なんだって」 「全然わかんないけど、きっとあるよね、そういうことも」 「そう。私もそう思う」 「それで?」 「うん。それで、私の前世の最後の食事がマスカット丼なんだって」 「マスカット丼」 「白いお米に、マスカットを乗せた丼ぶり」 「未来では、それが流行ってたんだ?」 「それがそういうわけじゃないみたいで、私の前世も「なんだこれ」って思いながら食べて、それからすぐに

    • 「蛇はな、スパッと切ると二つに分かれる」  ボクさんは蛇の喉元を握ると、「尻尾持っとれ」と僕を見上げて言った。  僕はボクさんの言葉の意図が分からなくて、喉元を締め付けられている蛇をただ見ていた。 「二つに切るとな、切ったとこから頭と尻尾が生えて、二つに分かれて動き出す」  ボクさんはそう説明をし直して、もう一度尻尾を持つように促した。僕は蛇に触ったことがなかったから、ランドセルの中から国語のテスト用紙を出して、その紙の上から蛇の尻尾を押さえつけた。僕がランドセルをガサガサや

      •  長机で隣に座るエイダは、白い紙に魚の目玉を書いていた。首を経由して丸まった背中の先にくっ付いている彼女の頭は、紙に触れてしまいそうだった。 「できればその魚をしまってほしい。とても臭いから」  私が言っても、エイダは「もう少し」と行って、目玉を書く手を止めなかった。  どうせなら、アルミのトレイに氷を並べて、その上に魚を置いてやれば良いと思う。机の上にそのまま横たえられた魚は、私からすれば、見る見る内に腐ってしまうような気がするのに、彼女はきっと、そんなことは少しも気にして

        • ユキ&橘 ゾンビ

          私達が中学三年生のときの話     携帯電話でブックマークしているサイトを見て回っていたら、ユキがブログに投稿をしていた。最近テレビCMでよく見る新発売のガムを買ったらしく、その投稿にはユキの部屋で撮られたガムの写真が添付されていて、文章は「美味しい」の一言だけ。ユキがそういう投稿をするときは、チャンスだった。  ユキに電話を掛けると、すぐに繋がった。 「ガム美味しい?」 「美味しい」 「いま暇?」 「暇」 「私も」 「家行くわ」  電話を切って、ホクホクする気持ちが顔に出な

          水鉄砲

          「ぶん殴ってくれ」と言われたから、 「お前の顔に水鉄砲撃たせてくれたら、殴ってもいい」と言って、二人で水鉄砲を買いに出掛けた。部屋を出て、商店街に向けしばらく無言で歩いたところで、 「水鉄砲どこにあると思う?」と聞いた。 「分かんない」と背中に返事があった。  町の地図を頭の中に広げ、水鉄砲の在り処を探しながら、足は止めず歩いた。商店街の中、店の看板や軒先のテントの文字に目をやり、ヒントを探していた。店頭に特撮映画の大きなフィギュアが飾られている店に入り、一階と二階を見て回っ

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          プロタゴニスト

           ジルが幼い頃、その食卓にはいつも星型の食べ物があった。星型の椎茸、トマトスープに浮かんだ星型の人参、ときには輪切りのトマトが星型にくり抜かれ、ぐじゅぐじゅになって出されたこともあった。  ジルの母親の紀子は、ジルが嫌いな食べ物のうち、それがくり抜けるものであれば何でも星型にくり抜いた。そして星型にくり抜かれた食べ物の端切れはみんな、父親のエリックの皿やお椀に盛られた。  その日、エリックの皿に盛られていたのは大根の煮物の端くれだった。 「明日は遠くに行きたいな」   ジルや

          プロタゴニスト

          No Time to Waste

          全ての炎が消えてもこの身が焦がされるのはどうして

          No Time to Waste

          口渇

           酒を飲んだから、歩いて帰っていた。酔に任せて足はすんすんと前に進み、ふと気が付いたときには、繁華街の喧騒から随分遠く離れていた。足の裏に少しの痛みを感じたが、家に着くまで歩くのには問題なさそうだった。コンビニの灯りが見えたとき、酒を買って飲みながら歩こうかと考えたが、愉快な夜の余韻に水を差すように思われ、それはやめることにした。しかしいくらか喉が乾いていたので、缶コーヒーでも買って、煙草を吸いながら歩くのも悪くないと思った。缶コーヒーであれば、わざわざコンビニへ寄らずとも、

          口渇

          おばけ

           初めておばけを見たのは、小学五年生のときだった。夜の十一時頃、私は自転車に乗って、繁華街と繁華街を繋ぐ橋を通っていた。その自転車は蛍光色の緑で、おじいちゃんがどこかから貰ってきて、その手でスプレーを使って染め上げたものだった。  橋の歩道を歩く二人組の男性の脇を通り抜け、その視線を背中に感じていると、橋の欄干に何かがとまっているのが見えた。私は初め、それをアオサギだろうと思った。そんな風にしてアオサギが橋の欄干にとまって、夜を川を眺めている、あるいは風を待っている姿をそれま

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          その目の遺伝子

          あなたの目の遺伝子が欲しい」と言われ、私はその意味について考えた。 「私にあなたの子供を生んで欲しいってこと?」  彼は何も言わず、ただ首を横に振った。 「私はどうすればあなたに目の遺伝子をあげられるの?」 「それは僕にもわかりません」  彼は迷いなく、きっぱりと答えた。  彼と会うのは四度目で、初めて会ったのは二ヶ月程前のことだった。ホテルの扉を開け、彼と目を合わせると、彼は目を泳がせながら「どうぞ」と言い、私を部屋に招き入れた。錦鯉の描かれた壁の前に小さなソファがあり、そ

          その目の遺伝子

          波の知らせ

          砂の上にラジオカセットを置くと、小さく砂の潰れる音がしました。私はラジオカセットの隣に腰を下ろし、三角座りをして海を見ました。遠く向こうに目をやると、海の深い紺色と空の淡い紺色の境、水平線が見えました。風のない夜でした。私と海を遮るものは何一つなく、波は私の目の前に打ち寄せていましたが、その水が私の足元まで届くことはなく、繰り返し打ち付けられる水の音だけが微かに私の身を震わせました。  足元の砂を見ていると、私はその中に白い貝殻を見つけました。砂に埋もれた貝殻を掘り出すと、そ

          波の知らせ

          雨宿り

          その生物をなんと呼ぶのか、そもそも名前があるのかどうか、彼女は知らない。大きさや形は人とよく似ているが、人ではないし、人であったもの、あるいはこれから人になるものでもない。  全身真っ黒で、顔はのっぺらぼう、首から下にはこぶし大の三角形のイボみたいなものがたくさんある。その三角形のイボに触れると冷ややかな粘つきを感じ、手を離そうとすると、手の平にくっついて少しだけ伸びる。離した手には何も付いていない。  秋晴れの空に黒い花火が上がって、その火花の散った先で、彼らは生まれる。で

          雨宿り

           室外機が子供の咳みたいな音を立てた。卵のパックから一つを手に取って、掌で転がしてみた。少しだけざらついた手触りがある。賞味期限が切れてから、二週間以上経っているその卵の、殻の中はどんな風になっているんだろう。賞味期限が切れていることに気が付いてから、室外機の上に置きっぱなしにしていても、それを狙う動物は現れず、外見上の変化もなかった。  ベランダの椅子から立ち上がって、卵を放り投げた。アパートの前の坂の下、夜の暗がりの中へ卵は消えた。卵が割れる音は聞こえなかった。    初

          発火の後遺症

           優しい言葉をくれた人がいた。でもその人が優しい人なのか分からなかった。  ずっと言ってほしかった言葉があったのに、その言葉を忘れてしまった。  いつも、これしかないんだと思いたかった。選択の余地がないように。  お前は瓶詰めした煙に名前を付け、ラベルを貼り付ける。それぞれの出来事を、一から思い返さなくていいように。  いつか瓶の蓋を開け、その頭上に雲が出来たら、そこから降る雨にその体を濡らせばいい。  その雨に体を濡らせばいい。 

          発火の後遺症

          2022.1.16文学フリマ京都

          本日、京都で開催された文学フリマに出店してきました! このような即売会形式のイベントに参加するのは初めてで、どう立ち振る舞っていいのかわからないまま時間が過ぎていってしまった、というような感覚がありますが、結果的には僕の書いた本を10人もの方に購入して頂くことができ、「俺の書いた本が本当に見知らぬ人に読んでもらえるのか!?え?」ってな具合です。最高にハッピーです。購入時に素敵な言葉をくださった方もいらっしゃいました。本当にありがとうございます。 実を言えば、イベントが始まっ

          2022.1.16文学フリマ京都

          雨の予感

           玄関の鈍い金色のドアノブに手をかけると、雨の予感がした。そしてドアノブのレバーを下げて扉を押すと、雨の降る音が聞こえた。アパート一階の廊下に出て、胸の高さほどある塀の向こうの空に目をやると、灰色の雲を背にして垂直に落下する雨の線が見えた。  昨日も一昨日も、玄関のドアノブに手をかけた瞬間に雨を予感した。扉を開けて外に出れば、きっとそこでは雨が降っているだろうと。  しかしそれらの予感は当たらなかった。廊下は薄暗く、灰色の雲が空を閉ざしていたが、空を見据えても、そこに雨はなか

          雨の予感