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カイゼンの方法は、自分の体から学べ

 2月は、顎関節症(がくかんせつしょう)だった。1ヶ月の付き合いで済んだが、記憶に残る印象的な出来事だった。あまりにも印象的なので、noteに書き残しておく。

 口を大きく開いてみる。指は縦に何本入る?多くの人は3本が余裕で入るだろう。2本しか入らない人は口腔外科に行った方が良いかも知れない。

 2月7日、旅先で朝起きたら、口が開かなくなった。最初は開いていないことにも気が付かなかった。

「あれ? 口ってこんなに開かなかったっけ?」

 測っていないが、たぶん縦に指2本も入っていなかったに違いない。その日は咀嚼しているうちに開くようになって、胸をほっとなでおろした。

 ただ、毎朝口が開かないところから始まるようになった。口が開かないというのは、実に恐しい体験だ。もちろん病院に行くことにした。だが、これは、何科なのか?

 正解は、口腔外科(こうくうげか)。40年生きていて、はじめて聞く科目だった。家から一山越えたところに、「○○歯科口腔外科」と口腔外科をカンバンに掲げているところがあったので、すがる思いで予約をねじ込ませてもらった。

 医師は、あんまり口を触ることもなくヒアリングで原因を探り当てた。

「良くなって、朝起きたらまた悪くなっている、ということは夜に何か起きている。…歯ぎしりだね。」

 歯ぎしり? まさか! 家族に指摘されたこともない。しかし、そういう目立たない歯ぎしりもあるそうだ。

 歯ぎしりの原因は? 私の場合はストレスのようだった。実は7日、旅先で間に合わせようと必死な思いで作っていたのがデブサミのスライドだったのだ。その結果、顔を右に向けられないくらい、首と肩を痛めていた。もちろん、スライド準備だけの話ではなく、仕事の波に揉まれている日常が原因となっているのは疑いようもなかった。

 痛み止めの薬をもらって、またもやほっとした。早く直したいので、ネットでいろいろと調べると、顎の運動の仕方が溢れていた。もちろん、片っ端から試す。そして、これが良くなかった。一番やってはいけないのが、大開口運動。要は、口を大きく開くという運動。私は、大きくあけると痛みもあるのに、我慢して繰り返した。

 そして、ある日突然、全く開かなくなった。またしても、口腔外科に駆け込んだ。頬にある筋肉(咬筋と呼ぶ)が強張って、微動だにしない感じ。筋肉を弛緩させる薬が一つ増えた。

 顎関節症に初めてなった人に贈る教訓はただ一つ。

痛みがあるときは、口を大きく開けるな

 当たり前だって? そうです、当たり前です。しかし、ネットを見ればいろいろと教えてくれるのですよ。口を開けないままで居ると、顎の関節が癒着して開かなくなる、とか。こんな情報、本当にあった恐ろしい話でしかありませんよ。

 薬を2週間継続。その間マウスピースを作り、夜寝るときにはめて寝るようになった(これはいまもつけて寝ている)。もちろん、違和感しかない。何よりも、この必要以上にピッタリ、カッチリはまるマウスピースは、本当に外れるのだろうなと、余計な恐怖心が湧いてくる。

 結果的に、マウスピースで歯ぎしりを防いたのは効いたようだ。絶望的に開かなかった口がだんだんと開くようになった。だが、ぎりぎり指が3本入る(むしろほぼ入らない)ところから先へいけない。にもかかわらず、医師は、もう治療は終わりと言う。まじか。どう考えても、もっと開いていたのだけど。突き放された感じがして、とてつもなく心細くなる。

 教えてもらった運動の仕方は、奥歯かみしめてから下顎を突き出し、それから口を開くというもの。ここで開いたときに、やはり縦に指3本はいるかどうかが勝負。痛みを感じたら、それ以上やらない。結論として、この運動は顎の複雑な動きに対応したもので、実に効果的と思われる(たぶん)。

 あとは、頬の動きを自分の指で確かめ続けること。実は、顎の動きは異様だ。開いていくと、頬の上あたりで関節が外れるような動きをする。と同時に、頬に硬い何かが突き出てくる。

 他の人は知らないが、これが私の正しい顎の動き。この動きを指で触って知っていたのが良かった。そういう動きにならないうちは異常な状態だと判断できる。

 何ひとつ良いことがなかった大開口運動だが、これをやっているときに頬を触って顎の動きを掴んでいた。指に記憶が残っていた。だんだんと、その動きに近づいて行くのが楽しくさえある。

 3月7日。顎関節症発症から、1ヶ月。まだ引っ張る感じはあるが、相当違和感がなくなった。まだ顎はゆっくりとした動きだが、指が余裕で3本入るところまで開く。どうも3ヶ月くらいかかる人もいるようだ。

 ということで、この印象深い出来事から学んだことをいくつか。

 まず、世の中のケーススタディが自分の症状、状況にあっているかどうかは分からない。むやみに試せば良いわけではない(普段よく話す内容だ!)。

 次に、ちょっとずつ良くなることを大事にする。恐怖と焦りから、頑張って、必要以上に、痛みも乗り越えて、なんとかしようとムリを重ねてしまう。結果、逆に強烈な反作用を招くことになる(人の体と組織は似ている)。理想に向かってムリを強いるのが、正義なのではない。

 最後に、変化を確かめる。ちょっとずつ良くなるのを大事にすると言っても、良くなっているかどうかが判断できなければまた不安になる。だから、計測が大事。結果を確かめ続けていくと、小さな変化を感じ取れるようになる。そうなると気持ちを楽にしてくれる。もう一つ加えると、計測にあたっては理想の形を知っておきたい。

 世の中は学びに満ちている。ただ、そのことに気づいていないだけだ。私は、自分が自分の咬筋の動きが大好きなことも学んだ。

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