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東京マウス・バンディット

江戸、それは数え切れないほどのモノと人、そして災害と犯罪。これらの「華」に溢れる魅惑の街だ。

今日も一人の男がその「華」を掴もうとしている。

「これはこれは。今日はどんな仕事で?」

一人の少年が男に話しかけた。

「おう、忠信か。ちょっと浅田のお屋敷にお邪魔するだけさ。賭場で知り合った兄ちゃんがな、脚気で困ってるそうなんだよ。湯治にでも行かせてやりたくて。ちぃとばかり援助してやろうと思ってな。」

「全く、相変わらずですね次郎吉の旦那。気前が良いのか金遣いが荒いだけなのやら。」

「おい、今は仕事中だぞ。本名で呼ぶな。次郎吉なんて奴はここには居ないぜ。」

「はいはい。そうでしたね、天下の大泥棒、鼠小僧さん。」

そう言われて彼、鼠小僧は屋敷へ向かった。

浅田家・品川屋敷。彼は屋敷の正面の門をくぐろうとしていた。

「どうも、鳶集のものです。これからちょっと旦那様に夜明け前までにやれと頼まれた仕事がありましてな。全く、旦那様も人使いが荒いぜ。」

笑いながら彼は屋敷の門番に話しかけた。普通なら怪しまれそうだが、そこに不自然さは全く無い。彼の持つ一種の才能によるモノだろう。

「おう、職人さんか。頼みまっせ。」

そうして彼は屋敷の中に入り、あらかじめ仕入れた情報を頼りに財産の隠し場所へ向かう。

「能舞台は奥の方だな。」

能舞台。彼は足を使って広さを測っている。-

「よし、ここだ。」

喫う歩進んだ先、彼の足元の板は取り外せるようになっていた。開けてみると、中から袋に詰められた金があった。

「全く、浅田の殿様も乙な隠し方をしてくれてるぜ。今日はここで幕引きだな。」

そう言ってまた笑いながら彼は裏口から屋敷を去った。一枚の紙切れを残して。

浅田忠兵衛殿へ
素晴らしい能舞台を拝見させて頂きました。そして、私・鼠小僧がお屋敷の隠し金を拝借させて頂いた事をご報告致します。弱き民を救うのは私の、天下の道義なのでございます。どうかお許しを。


つづく














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