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脳科学が示す素読の効用~なぜ子供は素読に夢中になるのか?

素読は脳の発達プロセスに合致した合理的な教育方法だった。

■1.「鳩」と書かれた漢字カードを見て「はと!」
 福岡県のある保育園で見た光景は、忘れられないものでした。先生が横幅20センチほどのカードを何枚も持ち、その一枚を園児たちにさっと見せます。そこには「鳩」などの漢字が大きく書かれてあり、園児たちは即座に「はと!」と声を揃えて読みます。先生はすぐ次のカードを見せる、、、という具合に、数十枚のカードを次々に示しては、園児たちが元気な声を出します。
 3、4歳の園児たちが難しい漢字を次々となんなく読んでしまう、という事も驚きでしたが、それにもまして子供たち皆がこのゲームに夢中になって取り組んでいる様に胸を打たれました。ここには、現代の小学校が見失っている何かがあると思いました。
 幼児にとっては、鳩の絵を見て「はと!」というのも、「鳩」という漢字カードを見て「はと!」というのも、同じ図形認識です。
 特に漢字は、「鳥」の字が実際の鳥の形を模していたり、「鶏」「鷹」「鴉」など鳥類は「鳥」の字を含んでいたりと、子供たちはゲームのように向かえるのです。それに比べると、ひらがなは「は」「と」など抽象的で、遊べる要素がありません。
 このように幼児に漢字を遊びながら教えていくのが、石井勲氏の考案した石井式漢字教育ですが、園児は遊びながら何百字もの漢字をすぐに覚えてしまい、それによって知能指数も120~130に伸びる、という結果を得ています。[a]

■2.言語を扱う前頭前野は3歳までに急激に発達する
 最近の脳科学では、この現象を解明する研究がなされつつあります。人間の脳で言語を扱う前頭前野は3歳までに急激に発達することが分かっています。そして、語彙力などを司る側頭葉や頭頂葉などの神経細胞は、その後も成長を続けます。したがって3,4歳で、たくさんの漢字を遊びながら覚えるのは、脳の発達過程にきわめて合致した方法なのです。[川嶋、p123]
 それに比べれば、6歳で小学校に入ってから、ようやく字を教え、それも抽象的で難しいひらがなから教えるというのは、子供の成長過程をまったく無視した教育方法です。「就学前に漢字など教えるのは不可能」「やさしいひらがなから教えるべき」「小学校時代にたくさんの漢字を詰め込むのはかわいそう」などというのは、非科学的な思い込みです。
 近年の脳科学の急速な発達は、こうした現代の国語教育の思い込みが正しいのかどうか、科学的に明らかにしつつあります。その最前線を覗いてみましょう。

■3.胎児乳児は母親の語りかけを音楽のように楽しむ
 こどもの成長過程に沿って、脳の発達と言葉の習得の関係を見ていきましょう。
 母親のお腹の中にいる胎児が、すでに母親の声を聞いていることは、科学的に証明されています。それによると、胎児は母親の次のような語り口に、快感反応を示すそうです。[川嶋、p66]
1)高めの声に反応する。母親の声がより赤ちゃんに近づくせいだと考えられている。
2)声の抑揚が豊かで、音楽的な語り方。
3)同じことばのくりかえし。
4)やりとりの間が大切で、間が空きすぎたり、つまりすぎたりすると不快反応を示す。
 以上の反応は、生まれた後の乳児も同じです。声の抑揚、繰り返し、間というと、胎児乳児は母親の言葉を一種の音楽のように楽しんでいるようです。母親の語りかけや子守歌を楽しむことが言葉を学ぶ出発点です。そして、言葉は意味よりも、まず音楽としてリズムやテンポ、抑揚が大切なのです。
 たとえば、おむつを取り替える際にも、無言でやってしまうのではなく、「さあ~、おむつを取り替えましたよ。気持ちよくなったでしょう」などと母親が愛情を込めて話す。そういう語りかけを乳幼児は聞いて、快感を覚えるのです。
 そして、驚くべきことに、赤ちゃんでも母親の語りかけを真似しようとするらしいのです。考えて見れば、幼児が言葉を覚えるのも、たとえば母親が父親を「パパ」と呼んでいるのを真似する、という模倣プロセスから始まります。それと同じで、赤ちゃんも模倣を通じて、言葉を学んでいきます。

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