5*神戸牛で同居人と初めて喧嘩
結婚式の2次会で神戸牛を当てた。
嬉しい。友達よありがとう。
しかし、神戸牛が家に来ただけでは迂闊に喜べないのである。なぜなら神戸牛は開けてすぐ食べられるものではない。料理して初めて完成するものだから。
素材は100点。だから美味しく食べられるかどうか、全て料理の腕にかかっている。
自慢じゃないが私は料理が得意じゃない。この前ホワイトデーで職場にガトーショコラを作って持って行ったところ、みんなから本当に犬のフンっぽいと言われた。
犬のフンっぽいガトーショコラ
せっかくの神戸牛を無駄にするわけにはいかない。
最高のすき焼きを作ることを心に誓った。
早速同居するKとスーパーへ。白菜、ネギ、しらたき、いつもは安いからえのきにしてるけど今日は椎茸にしよう…
K「あ、白菜ないよ。」
Kからの衝撃の発言。嘘だろ…。見ると本当に白菜の棚は空っぽだ。雲行きが怪しくなってきた。
K「もう水菜でよくない??」
いいわけないだろ。白菜あってのすき焼き。肉を支える白菜は絶対に必要だ。メインは神戸牛かもしれないが、白菜はすき焼きの土台を担うものだ。ハリーポッターのロンくらいの重要さがあると思う。
この近所でいま一番白菜を買う資格があるのは私だ。なぜなら神戸牛を持っているから。この町で1番必要に迫られているはずなのに買えないのが悔しい。鍋にするために買った人がいるなら神戸牛ですき焼きをする私に譲ってくれ。
もう気持ちは神戸牛ですき焼きの一択しかないので、今さら他の料理に変更することもできない。
最高のすき焼きを作ることを諦められない。
疲れたから帰りたいと言うKをおいて、白菜を買うためだけにひとり別のスーパーへと向かい、ようやく最高のすき焼きの素材が揃った。
家に帰り、神戸牛開封の儀を行った。
チラッ
ドーーーーン
うわあああああああ!
何て高級感のある見た目。絶対中に団子が入っていると思う皮に包まれている。しかし中身は神戸牛。新鮮なお肉の色。料理の腕が試される。
一人で開封の儀を行なっている間、Kが下準備を進めてくれていた。
ふと見ると、Kが何もレシピを見ずに醤油を入れ始めたことに気づいた。
「ちょっと待って!レシピ見てる?」
Kには前科がある。この前もすき焼きを作った時に感覚で割り下を作り、あんまり美味しく無くなかったのだ。
私たち素人は大人しくレシピを見て忠実に作らなければならない。
「見てないよ。でも醤油と砂糖1:1で入れたらいいでしょ。」
慌てて割下のレシピを検索するが、そんなレシピはない。醤油砂糖だけでなくみりん、水、酒を入れたものばかり見つかる。しかも比率も全然違う。
「レシピ見て作らなきゃ!」
「大丈夫だよ…。昔から1:1って聞いてるし…」
少し機嫌が悪くなるK。
ここで気づいたのだが、Kは野菜を全部切って肉を焼こうとしてくれていた。
私は「神戸牛開封の儀」などと言って、色々な角度から神戸牛の写真を撮っていただけだった。
何もやっていないやつにレシピどうこういう言われたらそりゃ悪い気になるだろう。
しかも探しているとKの主張と似たような割下の作り方を見つけた。どうやら私が作ろうと思っていたのは関東風、Kが作ろうと思っていたのは関西風だった。すき焼きの割下が2種類あることを知らなかった。
高級な神戸牛を最高の状態で食べたいという気持ちが強すぎて、周りが見えなくなっていた。得をしたいという欲にまみれるとこういうことがよくある。反省する。
神戸牛に惑わされて信頼を失うところだった。
Kに謝って、一緒にすき焼きを作った。
神戸牛は美味しかったが、バカ舌のためそんなに味の違いが分かるわけではなかった。神戸牛だから美味しかったというより、仲直りして一緒にすき焼きを食べられたことでより美味しく感じられた気がする。
誰かと一緒に食べれば豚肉でも神戸牛でも美味しい、ということを、神戸牛が教えてくれた。
神戸牛よ、ありがとう。
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