米大統領選で今、何が起こっているのか理解したい人のために

アメリカ大統領選挙の投票が終わってから24時間以上が経過しました。次の大統領が誰になるのかまだまだ不透明なところもあります。どちらが優勢なのか、これからどうなるのか、報道機関が伝えているこれまでの獲得票数が異なるのはなぜかーー。1992年から大統領選挙を観察している選挙ウォッチャーが解説します。

まず、私の選挙前予想をここで公開(!)します。毎回、それぞれの州とワシントンDCについて、過去の投票結果と、世論調査の結果を見てどちらの候補が勝ちそうかを予想しています。2016年は外しまくりましたが、それまではほぼ全ての州で当てています(2008年は1州以外すべて当たり)。これは特に占いの技術に優れているとか、ヒミツの方法があるとかではなく、データを読んで判断します。

今回もまとめサイト RealClearPolitics に出ている州ごとの調査結果を見ながら、予想しました(このサイトは科学的な調査方法を使っている調査のみを取り上げる)。当然ながら複数の調査があるので、トランプ有利またはバイデン有利を示しているものがいくつあるか、差は何ポイントかなどを考慮します。もっと詳しく言うと、こうした調査は一般成人ではなく、有権者登録している人 (Registered voter)、さらには投票しそうな人(Likely voter, LV)を対象にしているものがベターですが、同サイトで選挙戦後半に伝えられたものはほぼすべてLV 対象でした。サンプルの規模とMargin of Error(誤差)も考慮します。

50州+ワシントンDCそれぞれで結果が決まるとはいえ、多くの州ではどちらが勝つか、投票が始まる前からわかっています。カリフォルニア州で共和党候補が勝つ、あるいはワイオミング州で民主党候補が勝つーーということは(ほぼ)絶対にあり得ないからです。こうした分析に基づいて、16州ではバイデン勝利が確実、一方、トランプ氏は19州で勝てると予想しました。当然ですが、これらの州の結果はすべて予想通りになりました。この16州でバイデン氏が獲得した選挙人枠は201人、トランプ氏は123人です(注ネブラスカ州については後述)。当選に必要な選挙人数は270人なので、バイデン氏はあと69人、トランプ氏はあと147人を獲得しないと当選できません。勝敗があらかじめわかっているこれら35州(DCを含む)を除く、残りの16州の行方が注目されることになります。(アラスカ州ではトランプ勝利が確実ですが、まだ結果が発表されていないのでここには含みません)。

これらの激戦州15(前記の16州からアラスカを除いたもの)をどう予想するのか?ここがプロフェッショナルの腕の見せ所(?)です。15州は次の通りです: Arizona, Florida, Georgia, Iowa, Maine*, Michigan, Nevada, New Hampshire, New Mexico, North Carolina, Ohio, Pennsylvania, Texas, Virginia,
Wisconsin.  2016年にトランプ氏勝利の決め手となった大票田はすべてここに含まれ、勝敗を決めるのがこれらの州だったことが改めて確認できます。何とテキサスが激戦だったというのは、トランプ氏苦戦の象徴ともいえます。

これらの州をどう予想するか?激戦州なので当然、両陣営は大量のリソース(選挙運動とそれに関連する資金)を投入します。結果が見えにくいからこそ、世論調査も多数行われます。夏の党大会ごろと比べて動きがあるのか(どちらかが支持を伸ばしているか)、他の選挙(上院選、知事選など)でどちらの党が有利か、州民が関心を持つ争点、人口の推移ーーなどなどを見ようと思えばできますが、きりがない(笑)。なので、ここでは、過去の投票データと直近の調査データで、えいっと、どちらかの候補が勝つか予想しました。2020年11月5日午後1時(日本時間)現在、事前の予想と結果を比べてみるとこんな感じです。

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全体の結果としては、バイデン氏が27州で勝って334人の選挙人枠を獲得し、当選するというのが私の予想でした。これまでのところ、外れたのは2州、オハイオとフロリダです。2州とも、バイデン氏ではなくトランプ大統領が勝ちました。この「外れ」をどう考えるか?元々、これら激戦15州の中には、どちらかというと民主・共和どちらかの優勢が十分に予想できる州もあり(たとえばテキサス、バージニア州など)、一方で、どちらが勝つか全く読めない州もあり、オハイオとフロリダは後者です。なので、特に驚きではないですが、バイデン氏の総得票率が選挙前の調査結果よりも低く抑えられそうなので、全米の傾向(バイデン氏が予想より苦戦)がオハイオ・フロリダ州にも表れたとも言えます。

では、これからどうなるのか?この表にある中で結果がわかっている州の選挙人数を先ほどの数字に足すと、バイデン氏253人、トランプ氏217人(アラスカ3人を足したもの)となります。現在、報道機関が報じている数字に近いです。(なぜ、異なる数字が報じられているのか?メーン州とネブラスカ州は全取り方式ではないことと、アリゾナ州をバイデン氏が獲得したとするかどうか、アラスカ州の扱いによって違います)。有利なのはバイデン氏で、当選確実(選挙人枠270人を獲得)まで、あと17人

ニューヨークタイムズ紙などはアリゾナ州の結果を含めず、バイデン氏253としていますが、PBS NewsHour などはバイデン氏がアリゾナ州で勝利確実(11人)としてこれを含めて264人と報じています。バイデン氏がアリゾナを獲得したとすると、当選に必要なのはあとわずか6人なので、ネバダ州またはペンシルベニア州のいずれかで勝てば、勝利を確実にできる計算になります。または、私はトランプ勝利と予想した南部のジョージア州またはノースカロライナ州のいずれかで勝ち、当選することもあり得ます。

今の状況を要約すると、こうなります。

米報道機関はそれぞれの方法で「勝利確実」を報じますが、これは州政府の公式発表とは違うものです。そうではありますが、これまで、すでに「アリゾナ州はバイデン勝利」と判断したところが複数あり、これが事実であれば、バイデン氏は残る4つのうち、どこでもよいので1つで勝てれば当選となります。逆に言うと、トランプ大統領が再選を果たすためには、4州すべてで勝利する必要があります。

今後、トランプ大統領が言及した法廷闘争がどう展開するのかは不透明ですが、いずれにしても、「デフォルトの勝者」は誰なのかは重要な点です。どんなに僅差であっても、メーンとネブラスカ州を除き、相手候補を上回る票を得られれば、その州に割り当てられた選挙人枠を100%獲得できます。その仕組みに基づいて、少なくともいったんはバイデン氏が勝者となるのか、それとも、いずれの候補も270に到達できないのかーー。これによって、トランプ大統領の戦略、国民の受け止め方も違ってくるでしょう。2000年の大統領選挙ではフロリダ州の結果が僅差で決着がつかず、いずれの候補も当選に必要な270人を獲得していなかったことが大きな問題でした。

ある意味で、選挙結果は今のところ、予想通りと言えるかもしれません。事前調査では全米の一般投票でバイデン氏がトランプ氏を大きく引き離していましたが(複数の調査を平均すると、バイデン氏51.2%、トランプ氏44%、マージンの平均は7.2ポイント, RealClearPolitics)、実際の結果は今のところ、マージンは3ポイントぐらいのようです。このほかは、特に激戦州で集計に時間がかかり、当日夜には結果がわからない、トランプ大統領は結果を待たずに勝利宣言、法廷闘争を進めると発言ーーなどは十分予想されていました。しかし、では具体的に、ここから先、どこの州で、あるいは連邦裁判所で(?)何が起こるのかは、占星術師でないわたしにはよくわかりません。




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