ちいちゃん

うちのインターン生はADHDです。

「じっ、実は私、ADHDで……」

採用面接中に、少し気まずそうにそう話した彼女のことを、私はずっと忘れないと思う。

申し訳ないことを伝えるように、彼女は続けた。

「特性のせいでミスばかりしちゃうし、正直、ちゃんと働けるか不安で怖いんです。」

一緒に働く前からそんなにも申し訳ながることではないのに。どんな過去が彼女をそうさせたのか、今だったらよく分かる。

このnoteの筆者が編集長をつとめる『パレットーク』は、多くの人が漠然と抱えている”普通”や”こうあるべき”を考え直すためのエピソードや考え方について、さまざまな角度から発信するメディア。気軽に読める漫画を用いた発信をしている。

今日はそんなパレットーク編集部で活躍する、ひとりの大学生インターンの話をしたい。

ADHDであることを採用面接で伝えてくれた彼女がパレットークで働くようになって、もう1年半が過ぎた。

「こんなに楽しく働けるアルバイトは、初めて」だと、彼女はよく話してくれる。嬉しい。

2018年のはじめごろ、この漫画メディアを運営する上で不可欠だった、ニュートラルな視点で当事者に寄り添いつつも、非当事者(だと思っている人)に何かを気づかせるような、そんな漫画が描ける漫画家との出会いを、私は切望していた。そんな中知り合いに引き合わせてもらって出会ったのが当時、美大2年生の彼女、ちなつだった。

やってほしいことが出来そうだから、採用した

『パレットーク』というメディアが大切にしている価値観のひとつは、人をラベルで決めつけないこと、である。

「同性愛者だから〇〇。」
「外国人だから〇〇。」
「ADHDだから〇〇。 」
「男性だから〇〇。」

そんな偏見が世の中には溢れている。たとえば「外国人なのだからお箸が使えないだろうし、フォークを出してあげようかな!」というような、ときによかれと思った決めつけもしてしまいがちな私たちではあるが、目の前の人をどれだけ、自分の思う”普通”に当てはめずに、個人として大切に扱うことができるのか。そういうことについて日々考えている私たちにとって「ちなつがADHDである」ということは、ひとつのインフォメーションにすぎなかった。

面接ではポートフォリオを見せてもらったのと、ADHDであることで何か不安があるか、苦手なことがあるか、などを聞いてみたうえで、自分の依頼したいことと彼女ができることをすり合わせた。(もちろんこれは、誰が面接に来てもやることである。)雇用関係は、需要供給のバランスが崩れると続かない。

編集部がインターン生に求めていたこと
・締め切りまでに漫画を納品すること
・漫画がどれくらい読まれたか、評価されたか、などのフィードバックを真摯に受け止め、よりよいものづくりに励むこと
ちなつができること、やりたいこと
・自分の経験を生かして漫画を描くこと
・自分と同じ悩みを持つ多くの人に漫画が読まれ、役に立つこと

だった。

どうやら週3日は来られるようだし、漫画制作という仕事自体、スケジュールをこまめに一緒に確認すれば(これは相手のインターン生が誰であろうが、必ずやること)自分のペースで進めやすいこともあって、その場で採用を決めた。というのも、私自身が面接が終わる頃には、彼女の人柄や絵柄をかなり気に入ってしまったのだ。

「いいんですか…?」

と不安そうなちなつのことを見て

「まあ、やってみて、もしあまりにも難しければ一緒にやっていくのは難しいと、きちんと伝えよう」

と思って、彼女は週3でパレットークの編集部に顔を出す仲間になってもらった。

自分の特性についてのプレゼンテーション

働き始めてすぐに、ちなつは自分について知ってほしいことをまとめて「プレゼンテーションをしたい」と申し出てくれた。

他のアルバイトで幾多の失敗をしてきたという彼女は、これまでとことん自分の苦手と向き合ってきたのだろう、かなり自己理解に長けていて、助けられた。

このプレゼンテーションを全員の前でしたことで、チームの認識が合った。たとえば誰かがこのプレゼンテーションに書いてある”おねがいしたいこと”をうっかり忘れて行動してしまったときにも、ちなつ本人ではなくまわりが「それは、ちなつが苦手かもしれないから」と気づいてあげられる。

▼実際のプレゼンテーションの内容

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聞いた後「ちなつだから特別に…」ではなく、指示後より分かりやすい言葉を使ったり、大きな音を立てる前は一言断ったり「そういうのは誰に対してもできるといいよね」とチームで話した。

仲間のできないことを、理解する

ちなつは時間の管理が苦手だという。ADHDのなかには、苦手な人が多いと思う。編集部で働く前は、どうしてもアルバイトの時間に遅刻してしまうというのも、彼女の悩みのひとつだった。

今までのアルバイト先での話を聞いた。たとえば13時に出勤で、時間には気をつけていたはずなのに、なぜか最寄り駅に13時に着いてしまって、上司から電話で激怒される、みたいなこともあったという。そして「どうしても、特性上時間管理が苦手だ」と伝えても「それは甘えだ、言い訳だ」と一蹴されてしまうことが多かったらしい。

私は「遅刻しないように早めに家を出よう」として逆算して行動することができるのだが、ちなつはそうではない。だから「どうしてちなつが遅刻してしまうのか」ということを、ちなつの気持ちになって理解し尽くすことは難しい。そんなときには、どうしてもできないことを思い浮かべてみる。ちなつにとって「時間を管理する」というのは、きっと私にとって「逆立ちして歌う」くらい、やろうとしても向いていなくて、できればやりたくなくて、やったとしてもできないことなんだろう、と思うようにしている。

殆どの人が逆立ち歌唱ができる世界で「どうしてお前は逆立ちして歌えないんだ、みんなはできるのに」と言われることを想像してほしい。「不条理なことを言われている」と感じるのではないだろうか。


話を時間管理に戻そう。そもそもちなつにおねがいしている仕事の場合、13時ピッタリに来る必要はそんなに無い。

先にも述べたように

私がインターン生に求めていたこと
・締め切りまでに漫画を納品すること
・漫画がどれくらい読まれたか、評価されたか、などのフィードバックを真摯に受け止め、よりよいものづくりに励むこと

であるから、13時ピッタリに出勤するということは、ちなつのストレスにこそなるがメリットになることは多くない。締切日のうちに納品するということが守られれば良いのだ。

そこで「締切は守れるように進めたいけど、13時ピッタリに来る必要はないから、12時から13時までの間に出勤するのはどう?」と聞いてみた。

ちなつは「それならできるかもしれません」と言ってくれた。

「まあ、できなかったらまた考えよう」と伝えた。

「できるだろう」とおなじくらい「できないだろう」という決めつけないように、彼女と会話をしながら考えること、ルールをつくっていくこと、そしてルールが合わなければどんどん改訂していくこと、「なぜみんなと同じことができないのか?」と本人を責めるよりも、一人ひとりが力を発揮できるようなルールや文化づくりを模索し、常に良いものにアップデートしていくことも、マネージャーのつとめかもしれない。ちなみに、この時間のルールを作ってから、彼女はうっかりの遅刻は殆どしなくなった。

私たちの会社のバリューのひとつは「セーフスペースであれ」なのだが、心理的安全性の確保された職場でこそ、多くの従業員たちは自主的に力を発揮していくのではないか、と感じている。そしてセーフな場所を確保しつつ、事業をやるならば、成果主義であることも忘れてはならないだろう。

成果のためにも、マネージャーたちは従業員を決めつけず、その個人と対話をして、真っ直ぐ成果と向き合えるようにしていかなければならないのかもしれない。

道筋はひとつじゃない

「話を聞きながら、メモが取れないんです」ちなつはこんなことも言っていた。ちなみに「なぜメモがとれないのか!」と、前のアルバイトでは怒られたという。

たしかに私たちも会社として成果を上げなければならない。だから、私が何度もちなつに同じ説明をするのは、二度手間になってしまう。

そう、重要なのは「同じ注意や説明を何度もしないようにすること」であって「話を聞きながらメモをとる」という手段ではない。つまり、達成のための道筋はひとつではない。「なぜメモがとれないのか!」とちなつの元上司の人は怒っていたが、手段が目的化してしまうというのは、本末転倒だろう。

では「同じ注意や説明を何度もしないようにすること」を守るための、メジャーな道筋が「話を聞きながらメモをとる」なのだ、くらいに考えてみるのはどうだろうと思うことにした。その道筋を通りやすい人ばかりではなく、他の道筋で行ったほうがむしろスンナリいく人もいるということも合わせて理解したい。

この課題に関しても彼女と話し、今のところは、話を聞くときはまず聞くことに専念し、そのあとに「メモタイム」を30秒設けることにしている。メモだけに特化した時間をとって、要点を最後にまとめるだけの短い時間だが、たった30秒使うだけで、彼女はきちんとその話し合いにおける決定事項とネクストアクションを持って帰ってくれるし、そのとおりに仕事をすることができるようになった。

これは、配慮とか支援とか、そういう耳障りのいい話ではない。むしろ成果をあげたいひとつの会社が、仲間に気持ちよく頑張ってもらうための、たった30秒の工夫なのである。


これを読んで

「そうか、ADHDの人にはそう接すればいいのか」

と思った人がいたならば、注意しなければいけないのは、その”決めつけ”かもしれない。

ADHDのひとが、上記の話すべてに当てはまるというわけではもちろん無い。これはあくまでちなつとパレットークのストーリーである。

「ADHDの人には、こうしてあげないといけない。」
「ADHDの人は、才能がある。」

などもよく言われているが、主語が大きい。

あくまで大切なのは、目の前の人をあなたと同じ権利を持つ個人だと理解すること、そして決めつけずに接することだと思う。

当事者だと自覚している人も同じで、「できない」「できる」を決めつけてしまう前に、気持ちに余裕があるときには、調べたり話したり、自分の理解に時間を使えるといいかもしれない。


▼ちなつの経験をもとにした連載漫画

▼ちなつの生活での気付きについてのイラスト

編集長 合田 文

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コメント3件

知見が少し広がりました。ありがとうございます。最初に自分についてのプレゼンをしてもらえたのは良いですね。私の勤め先では新人さんに自己紹介プレゼンをしてもらいますが、今後やりたいことや得意なことといった内容が多いです。苦手なことも加えてもらうようにすると、仕事がやりやすくなるかもしれません。
それにしても、ちなつさんのイラストは個性的でかわいいですね。
知らない間に、決めつけで周りの人を傷つけていたのではないかと自身をふりかえることができました。
メモタイムのアイデア、いいですね。これはADHDの人だけでなく、私を含めて色んな人にとって有効かも。決めつけでなく、しなやかに対応するって大切だなぁと思いました。
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