エクアドル

同性婚ができるのに、レイプによる妊娠中絶ができない国があるって知ってる?  – エクアドル在住フェミニスト・アーティスト岩間香純さんに聞いてみた

もしあなたが、あなたの大切な女性が、母が、妻が、妹が、親友が、望まない妊娠をし、中絶したことで刑務所に入れてしまうとしたら、あなたはどう思うだろうか。そしてそれが、レイプの被害による妊娠だったとしたら。

9月17日、エクアドルの国会前で一つの大きなデモが行われた。デモの目的は「レイプによって妊娠してしまった女性の妊娠中絶を合法化する」というもの。緑のバンダナをシンボルに、フェミニストだけでなく多くの市民が集まった。

しかし、結果は否決。レイプによって妊娠してしまった女性は、合法的に妊娠中絶することができないままとなった。エクアドル国内では抗議の人々と警察の衝突も起き、大きな問題となっている。中絶が違法であるということ。それは女性が自分の身体について決めることができないということ。リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)が削がれているのだ。

これを聞いて「遅れている国だ」「性差別がひどい国だ」と、思った人もいるかもしれない。

私自身、南米の国々について、ざっくり"カトリックが強い=保守的"のイメージを持っていた。しかし、たしかにこの妊娠中絶が違法であることはとても大きな問題だが、同時に今年の6月、エクアドルでは同性婚が実現したというニュースを知った。

日本では認められている妊娠中絶の権利が認められていない、エクアドル。
一方で日本では認められていない同性婚の権利が認められている、エクアドル。

単純に、進んでる/遅れているとは言えないのではないだろうか。

興味を持った編集部は、南米のエクアドルに住むフェミニスト・アーティスト岩間香純さんに、現地のフェミニズムやLGBTQ+の権利に関してお話を聞かせてもらうことにした。

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日本とエクアドルの時差は14時間。オンライン取材は日本の夜10時から始まった。

(文章:伊藤まり

エクアドルって、アフリカ? – 情報の格差

まり:世界のフェミニズムのニュースを追っていても、南米の情報って日本語圏にはほとんど入ってこないんですよね。そもそもエクアドルがどこにあるか、わかる人も少ないかもしれない。

香純:わかります、私もエクアドルに引っ越すとき、友達に「アフリカに行く」と思われていたりとかもして。「アフリカじゃないよ〜南米だよ〜」って(笑)。

エクアドル記事内画像

まり:そうですよね…(笑)。私も南米に対しては、本当にざっくりなイメージしかないです。スペインなどが植民地にしていた歴史から、「カトリックの影響が強くて、保守的」みたいな。

香純:実際には、エクアドルにも先住民や、先住民とヨーロッパ人のミックス、アフリカ系の子孫などたくさんのルーツや文化があって、一概には言えないですけどね。でもやはり保守的な部分はたくさんあります。

まり:先日エクアドルで、妊娠中絶に関して大きなデモがあったと聞きましたが、どういう経緯だったのですか?

香純今エクアドルでは、基本的に人工妊娠中絶は違法なんです。許されるのは、妊婦の命にすごくリスクがある場合と、知的障がいのある女性がレイプされて妊娠した場合だけ。だから、たとえ未成年がレイプの結果妊娠してしまっても、中絶することができないんです。

まり:ええ、そうなんですか!?

香純:エクアドルは、南米のなかでも未成年の妊娠がとても多いのですが、近親相姦のレイプの場合も多いんです。それでも、中絶することはできない。もし中絶が発覚したら、刑務所に入れられてしまうんです。今現在、エクアドルで中絶をした罪で刑務所にいる女性は300人以上います。そして、その60%が19歳以下、という。

まり:それで今回フェミニストたちが声をあげたのですね。

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香純:はい。「Aborto Libre(中絶の自由)」というムーブメントの名前で、中絶を合法化し、アクセスしやすくすること、そして安全化と無償化を訴えています。今回は、レイプによる妊娠の場合も中絶できるようにするか、が審議されていたんですが、否決されてしまいました…。

まり:この中絶の権利を求める運動以外にも、フェミニズムの運動というのは活発にされているのですか?

香純:たとえば2015年にアルゼンチンで始まった「Ni Una Menos(誰1人も失わない)」運動は、女性に対する暴力やフェミサイド(女性であるために起きる殺人事件)への反対と撲滅を訴える運動でした。これが一気にラテンアメリカ中に拡大して、翌年には「Vivas nos queremos(私たちは生きていたい)」というスローガンも加わり、ラテンアメリカ中で大規模なマーチが行われました。

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まり:そんな大きな運動があったんですね。

香純:日本では、全然報道されていないですよね。インターネットが普及したわりには、英語以外の情報って全然伝わらないんです。翌年にアメリカでウィメンズマーチが起きたときには、世界中の報道機関が独自に取材をして話題になりましたけど。西洋社会以外で起きていることは、なかなか取り上げてもらえないんです。

まり:そういえば、今年の6月にエクアドルで同性婚が実現したというニュースも、日本ではあまり話題にはなりませんでしたね。日本でも同性婚訴訟が今年始まったところなので、そういう世界中のニュースは、できるだけ知りたいし、多くの人にも知ってもらいのですが。

香純:たしかにそうでしたね。エクアドルでは、2013年ごろから本格的に「同性婚を法制化しよう」と、運動が始まりました。複数の同性カップルが訴訟を起こすことで、社会的な注目も集まって。たくさんのLGBTQ+団体が連帯して一気に問題を社会の表に出したんです。

まり:そして、2019年の6月に法制化が決まったのですね。

香純:はい。7月には実際に、同性婚の法律が施行されて、最初に結婚したのは、グアイアキルに住む女性2人のカップルでした。実は同性婚以外にも、ここ数年でたくさんのLGBTQ+関連の法整備は進んでいるんですよ。

まり:そうなんですか?

香純:エクアドルでは1997年までは同性愛も犯罪だったんですが、その法律が廃止された翌年には、SOGIを理由にした差別を禁止する法律ができました。これは南米では1番、世界では3番目の国だったんですね。2007年からは、性転換手術をしていなくても、本人の意思だけで性別や名前の変更が認められたし、トランスジェンダーの権利を守る法律も2015年から採択されました。

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まり:すごい。日本にも必要だと思う法律がすでにたくさんできているんですね。保守的なイメージがあったので、意外でした。

香純:どこの国にもあることだと思うけど、エクアドルにも色々と矛盾があるんですよね。女性の投票権が認められたのは1929年でとても早かった。離婚制度を国として認めたのも南米では一番早かったんです。でも、女性のリプロダクティブ・ヘルスについては先ほどもお話ししたように、まだまだ問題が山積み。LGBTQ+の人たちの矯正施設が禁止されたのは、2014年とつい最近のことなんです。

まり:単純に、「進んでいる/遅れている」では捉えきれないんですね。

香純:そもそも、"南米=保守的"というイメージと簡単に表現することもできないと思います。ヨーロッパの人々に植民地支配される前と後では同じ括りにはできないのですよ。

まり:そうなんですか?

香純:プレ・コロン時代(コロンブスがアメリカ大陸に迷い込んでくる以前の時代)の美術品や文化の形跡を見ると、当時の社会は民族も多様だったことがわかります。ジェンダーや性に関しても多様な視点を持っていたんですね。

まり:そういう多様な文化が、ヨーロッパの植民地支配で失われてしまったということですか?

香純:もちろん全てだとは言えませんが、ヨーロッパによる植民地時代の影響は大きいと思います。それまでの豊かだった世界観や価値観を変えてしまった、もしくは統一化してしまった、と言えるのではないでしょうか。

まり:現在の政治も、たくさんの複雑な矛盾を抱えているし、歴史的にも一概に「保守的」と言うことはできないんですね。

香純:はい。そういう複雑な状況のなかで、たくさんの人が多様性が認められる社会を求めて、声をあげています。

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まり:エクアドル社会のLGBTQ+に対する空気感、みたいなものは変わってきていると思いますか?

香純:少しずつシステムも変わってきました。でも、逆に同性婚が認められたことで、反発する力も強くなった面もあります。たとえば同性婚が法制化されたとき、カトリック教会は「我々は同性婚を認めません」ってわざわざ会見を開きました。

まり:バックラッシュが起きてしまっている、と。

香純まあ、とは言っても教会には法律の権限はないから、「ああそうですか」って反応でしたけどね。ちょうど私がエクアドルに引っ越した年のプライドパレードは、1997年にLGBTQ+が非犯罪化されてから20周年だったんですが、すごく象徴的なパレードになりました。

まり:象徴的?

香純:最初のパレードのころは、エクアドルの旧市街を歩くルートだったそうですが、ここ数年は、若者が多い繁華街で開かれていました。それが20周年のパレードでは、旧市街を歩くコースに戻ったんです。

旧市街_風景

香純:エクアドルの首都キトの旧市街って、世界で一番大きくて保存状態もよいとされている、いわばエクアドルの誇りで、つまりは伝統的で保守的な価値観を表す場所でもあるんです。モダンな若者の街ではなくて、そういう古くからの伝統的な地域にプライドパレードが通ったということは、とても象徴的な出来事だったのです。

私はこれまで、"南米=保守的"と言うイメージを勝手に作り上げていた。でも実際には、エクアドルではLGBTQ+に関する法律がたくさん整備されている。そして今年の7月からは、同性婚も可能になった。フェミニストによる活動も、とても盛んだ。現地の情報を知ることで、単純に"保守的"という言葉では捉えきれない、たくさんの複雑な現状があることを知った。

現在、グローバル化が進み、以前に比べれば国外の情報を容易に入手できるようになったのは事実だ。しかし、実際に私たちが触れることができる情報は、言語や経済的な関係性によってかなり限られている、ということをあらためて実感する。

今年4月にアメリカ合衆国のアラバマ州で、妊娠中絶を全面的に禁止する法律ができたときには日本でも大きな話題になったが、このエクアドルでの妊娠中絶を巡るニュースは目にすることがなかった。同様に、今年6月、エクアドルで同性婚が実現したということも、特別、大きな話題になることはなかった。

国外の情勢について知るということ。特にLGBTQ+やフェミニズムの活動について知ることは、国内で生活している私たちにとって、とても重要な意味を持つのだと思う。

たとえば、「妊娠中絶が禁止されてしまった社会ではどのような問題が起きてしまうのか」を知ること。私たちは女性のリプロダクティブ・ヘルス/ライツの重要性をあらためて知ることができる。もしくは、同性婚が実現した国では、どのような道筋をたどって実現に至ったのかを知ること。それは、今現在同性婚の実現を目指す私たちにとって大きなヒントになる。

そして何より、今回私は、エクアドルという遠い地で多くの人々が、性差別をなくすために困難に立ち向かっているということを知って、力づけられる気がした。

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