下山田志帆

女子サッカーが自分らしさのロールモデルになる- 女子サッカー界について下山田志帆選手に聞いてみた

女子サッカー界には、"メンズ"という言葉がある。

"メンズ"とは、「女性とお付き合いして、男性的役割を担う選手」をさす言葉だという。とはいえ、はっきりとした定義があるわけではなく、人によって捉え方は様々だ。性別適合手術を受けたいと思う選手もいれば、ボーイッシュな服装が好きだという選手も。

現役の女子サッカー選手として唯一、同性のパートナーがいることを公表している下山田志帆選手も、そんなメンズの1人。今年ドイツから帰国し、サッカー選手として活躍するだけでなく、セクシュアリティについての講演活動などを行なっている。

LGBTQ+という言葉が世間に広まるずっと前から、"メンズ"と呼ばれる選手は女子サッカー界には当たり前にいた。だからこそチーム内では、下山田選手も自身のセクシュアリティについて隠す必要がなく、自分らしくいられたという。

しかし先にも述べたように、現役の女子サッカー選手としてセクシュアリティをカミングアウトしているのは下山田選手ただ1人。チーム内では、当たり前のように同性と付き合う選手の存在が知れ渡っているのに、なぜなのだろうか。

下山田さん01

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下山田さん03

下山田さん04

女子サッカー選手に期待される"女らしさ"

チームの中では、セクシュアリティ含め自分らしくいられる。しかし一歩外に出ると、カミングアウトのハードルは一気に高くなるという。

なぜなら、女子選手に対する"女らしさ"のプレッシャーがまだまだ強いから。

たとえばスポンサーから提供されるユニフォーム。
〈女子=ピンク〉というイメージから、渡されたヘアバンドもピンク一色だったという。もともとボーイッシュな格好が好きで、女性として見られることに違和感を覚える下山田選手は、その色がいやで髪の毛を短く切ったという。

たとえばメディアでの取り上げられ方。
2011年のワールドカップで、女子の日本代表が優勝したことを覚えているだろう。東日本大震災直後のニュースに多くの人が勇気づけられたと思う。しかし当時ですらメディアでは、選手の見た目に過度に注目した報道が多く流れた。

「美人選手」「◯◯選手はかわいい」

果たして、男子の日本代表が世界大会で好成績を納めたとき、その選手の見た目だけを取り上げる報道がされるだろうか?ファンの中では「誰々がかっこいい」と騒がれることもあるだろう。しかしあくまでメインは、どの選手がどんな風に活躍したか、誰の技術がどうすごいのか。あくまでスポーツとしての報道がされるだろう。

しかし女子サッカーとなると、見た目への評価が主となる。

女子サッカー選手がメディアから取材を受けるときもそうだ。カメラ撮影の際、「かわいらしいポーズをお願いします!」と言われることが多いという。

サッカーというスポーツをただプロフェッショナルに極めている選手たちに、なぜ"かわいらしさ"が求められるのだろう。サッカー選手にも、当然様々なセクシュアリティを持つ選手がいる。かわいらしいものが好きな選手もいれば、逆に"女らしい"とされるものに抵抗を覚える選手もいるだろう。それなのになぜ、画一的に"女らしさ"が求められるのだろうか。

もしも、提供されるユニフォームが画一的な"女らしい"デザインではなく、もっと選択肢があれば。先ほどのヘアバンドだって、ただ色の選択肢が増えるだけで、より自分らしくのびのびとプレーができる選手が増えるのではないだろうか。

メディアがただ「かわいい女の子が頑張っている」という仕方で取り上げるのではなくて、スポーツ選手をただ1人のスポーツ選手として報道するだけで、そのスポーツ自体に興味を持つ次の世代も増えるのではないだろうか。

スポーツ界でのイコールペイを求めて

女子サッカー選手が直面する問題は、"らしさ"の強要だけではない。そもそも業界として、女子サッカー選手はサッカーをするだけでは賃金が払われない、という問題がある。

プロ野球を想像してみてほしい。彼らは、プロ野球選手として日々練習に励み、試合をし、そのことへの対価として賃金が支払われる。契約金の大きな金額がニュースになることも多い。

しかし、女子サッカー選手、そして多くの女子スポーツ選手は、そのスポーツに取り組むだけでは賃金が支払われないのだ。

「同じように人生をかけてサッカーをしているのに、男子と同じように評価されないのは虚しい気持ちになるときもあります。」

と下山田選手は呟いていた。


男女の賃金格差。これは分野を問わず世界中でいまだに大きな問題となっており、日本でも男女の賃金格差は大きい。平均して女性は男性の7割しか賃金をもらえず、また年齢が上がるにつれてその差はどんどん開いていく。

(参考:厚生労働省「平成 30 年賃金構造基本統計調査の概況」

アメリカの女子サッカー選手、メーガン・ラピノー選手が仲間とともにイコールペイ(平等な賃金)を求め、アメリカサッカー連盟を提訴したことも大きな話題になった。その結果、2023年に開かれる女子ワールドカップでは賞金を倍に引き上げることを発表したが、それでもまだイコールペイには程遠い。

そして、日本。

ワールドカップ優勝を経験した日本女子サッカー界ですら、そもそもプロ契約(サッカー選手として賃金を支払われる契約)をしている選手はとても少ないという。ほとんどの選手が、日中は一般企業やスポンサー企業で働き、終業後に練習をする日々を送る。

もしも、男子サッカー選手と同じようにサッカー選手として賃金が支払われるようになれば、選手たちもさらにサッカーに集中することができるだろう。

女子サッカーが、ジェンダー平等のロールモデルになる

下山田選手は、次のように語った。

「女子サッカー、ひいては女子スポーツ界が、もっともっと社会の問題と関連を持って、ジェンダー平等のロールモデルになっていく必要があると思うんです。」

チームメイトの中には、下山田選手の他にもたくさんのメンズの選手がいるし、現状に疑問を抱く仲間も多いという。しかし、ジェンダーロールの押し付けが強く、また業界としても賃金格差などの問題が山積みの女子サッカーで、声をあげることはまだまだ難しい。下山田選手自身も、カミングアウトする前はたくさんの不安を抱えていたが、実際カミングアウトをしたあとは、ネガティブなことは一切なかったという。

世界では、現に多くの女子スポーツ選手が、性の多様性や性差別への反対を表明し、次世代の憧れるロールモデルが次々と登場してきている。現に下山田選手は、"自分らしく"いることで多くの人を勇気づける存在となっている。

まだまだ問題が山積みの日本サッカー界も、下山田選手のような存在がきっかけとなり、これから少しずつ変わっていくだろう。スポーツ選手自身ではなく、観戦し応援する私たち自身のジェンダー観をアップデートすることが求められているのだと思う。

(漫画:ケイカ、編集後記:伊藤まり

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「こうあるべき」を、超えてゆく。をテーマに、LGBTQ+、フェミニズム、多様性について、漫画やインタビューを通して発信しています。セクシュアリティやジェンダーにかかわらず、一人ひとりの選択肢が無限に広がる世界へ。12月の特集テーマは「#今年がんばったで賞をあなたに」。
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