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もちぎさんと7/21参院選について話してみた 「あたいが日本の首相になったら…」

みなさんは、この不思議な生き物を見たことがあるだろうか…?

ふしぎな頭のかたちに、つぶらな瞳。口を開けばパンチライン。
彼はゲイ風俗やゲイバーの元従業員で、現在はTwitterで大人気の漫画だけでなくエッセイなども通して発信を続けるもちぎさん。最初に見たときは奥歯の妖精かとも思ったこの白いキャラクターも、慣れてくればかなり愛着が湧いてくる。

もちぎさんが漫画のなかで彼の分身を通じて発信するのは、自伝を織り交ぜたたくさんのエピソード。テーマはゲイや風俗のこと留まらず、虐待や女性の抱える生きづらさ、そして何気ない日常のエピソードまで幅広い。フォロワーは今や42万人を超える大人気ぶり。

なぜこうも、彼の発信は私たちを惹きつけるのか…。

くすりと笑える(お腹が痛くなるほど爆笑してしまうものも多いのだが)ユーモアを交え、ときには心の辛くなるようなエピソードを多くの人に届けるなかに、人間らしさを肯定するもちぎさんの優しい視線がなんともあたたかい。

唐突だが私のなかでは、もちぎさんのような人が社会を変えるとしたらどんな世界になるんだろう、という妄想で勝手に盛り上がっている。そこで参院選を控える今、もちぎさんがこの社会についてどう思うのか、そしてどんな未来を思い描きながら発信を続けるのかを聞いてみることにした。

(文章:伊藤まり

伊藤:突然なのですが、もちぎさんの漫画が実写化されるとしたら、もちぎさんのキャラクターはどういうテクスチャーになるんでしょうか?

もちぎ:人間でもいいかと思ったけど、北半球イチ美しいあたいを人間が演じるなんて無理難題よね……うふふ。もちもちつるつるな感じがいいわ。リアルにしすぎるとゲゲゲの鬼太郎に出そうな感じになるからそれだけが不安ね。

伊藤:ぬりかべみたいな、ね(笑)。ところでもちぎさんが発信を始めたとき、お絵かき歴8ヶ月だったそうですが、イラストという手法を選ばれた理由はなんだったんでしょう?

もちぎ:どうしてもネットでは発信力を持たない段階の個人だと、文字単体のコンテンツで継続的に伝えられる範囲には限界があると思ったの。これは現代のスピード感と啓蒙を促す文章のギャップだと思うわ。ツイッターを見ていて、あまり関心のなかった業界や考えも漫画だと目に止まって話題になりやすいとわかったので、絵をつけて発信しようと決めました。

伊藤:漫画だと人の心に届きやすいというのはパレットでも感じます。

もちぎ:まあ、あと純粋に自分で推し(コリン・ファース)の絵を描きたくなったからというのもあるわね。

伊藤:いいと思います(笑)。

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伊藤:もちぎさんが漫画を発信するようになってから、何かが変わったと感じることはありますか?

もちぎ:ゲイやゲイバーに来る方々以外とも話す、開けた意見交流の場を持てたのは大きいわね。ゲイにももちろんいろんな方がいるんだけど、あたいたちはゲイ業界の文化に慣れ親しんでいる。だからこそ外の世界で見落としていたものをTwitterでは気づかせてもらえるのがイイなと思いました。あとは作家業が忙しすぎて痔になりました。数年ぶりの再発です。最大の変化はそれね…。

伊藤:それはお大事にしてください…。そもそもの発信のきっかけは「おっさんずラブ」だったと聞きました。

もちぎ:いわば平成最後の方で「おっさんずラブ」はLGBTQ+へのとっかかりの一つだったのかなと。"当事者のプライドに繋がるような潮流"が世の中の多くの人にも期待されて、広がりつつある。これからそれを"流行のもの"や"特殊なもの"に留まらせずに、一歩進めることができれば、色々と現実面で社会が変わる気がするわね。

伊藤:もちぎさんは、どんな社会を目指して発信してるのでしょうか?

もちぎ:まずあたいが目指すのは、今あるしがらみや差別、偏見の対象となる相手の人格が尊重されること。つまり被差別者が特殊な人間や集団でなく、誰にでもある感情や認識の違いを持つだけの"隣人"だと気づいてもらえる社会ね。マイノリティとされる人達が血の通った隣人であること認識してもらえれば、実感も伴って世論のステップが一つ上がると思うわ。

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もちぎでもそのときに大事なのは"違うまま尊重される"というスタンス。それがないとマジョリティへの迎合になっちゃうからね。「自分はゲイだけど、ただのゲイじゃなくて、異性愛者と同じ感覚の持ち主ですよ、だから社会にいさせてくださいね」みたいな媚びた姿勢は避けたいわね。

伊藤:その通りですね。

もちぎ:とまあ、ここまでいいこと書いといてめっちゃ現実的な話するけど、長生きしたのちに、絶対あたいより先に亡くなってくれる彼氏が欲しいわ〜。ああ、社会的に認めてもらえるかたちのパートナーでってことね。

伊藤:もちぎさん、年上好きですもんね。でもなかなか「自分より先に亡くなってくれる彼氏が欲しい」なんて言えないです。すごいなあ。7/21には参議院選挙があるけど、パートナーのことや生活に近い問題が社会的な問題にどう繋がるかって見えにくくて「自分が投票しても変わらなくない?」って思ってる人、多そうですよね。

もちぎ:そうね。それに最近は核家族や地域との関係性も薄くなってきて、お年寄りや歴史観を持つ先人達とのうっすらとした壁も感じるわね。ずっと平和のなかで育つから、現在が歴史から地続きである感覚を持ちづらくなってるのかもね。だから政治のことも"オトナたちの問題"だって、どこか遠くに感じちゃうのかも。

伊藤:なるほど。

もちぎ:でも実は"オトナ"という生き物はいないわ。政治家や高齢者の方々、それから過去を生きた歴史上の人は、ただあなたより早く生まれたってだけ。いつまでも1人の人間の重さは変わらない。だから今の年齢で投票に行っても、何も爪痕がたてられないわけじゃないからね。堂々と権利を主張しちゃいなさい。レッツ投票よ!

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伊藤:もし、もちぎさんのお友達で「投票いかない」と言ってる人がいたらなんと声をかけますか?

もちぎ:よほどの理由がない限り行ってほしいなと思うから、身近な例を挙げて政策による影響の違いを伝えるかしらね。「あんたの収入だと、こっちの政党ならボトムアップの対象よ」みたいな。お金よ、お金がまず実感に近いのよ。

伊藤:身も蓋もないように聞こえますが、実際お金のこととか、実感の持てることから関心を広げていくの大事ですね。SNSの発達はそういう意味でいろんなきっかけになると思います。

もちぎ:LGBTQ+についてもネットや海外の情報が入ってきてようやく広まり出したわよね。そうやってSNSを活用してもっと海外の若年層の政治関心姿勢も輸入していけたらいいのかなと思うわ。そうするうちに歴史を知ることにも繋がると思うし。これは教育界やマスコミの腕の見せ所だと思ってるわ。あとはSNSのインフルエンサーもね。

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もちぎ:一つの正解がないところで、みんなが発言者になって線引きを探る。それによって、よりよい社会に近づいていくんだと思うの。発信すれば反論や批判があって、考えるのはしんどいけれど。

伊藤:それでも、もちぎさんは楽をしないで発信を続けているのですね。

もちぎ:結局はモノの捉え方かなと思ってて。ゲイ風俗のハチャメチャエピソードも、面倒なことや辛いことも明るく捉えて、一過性のものだと思って丁寧に対処してやり過ごし、ネタになりそうなものは発信材料にしてた。うんこ漏らしたのも、あたいとしては大惨事だし涙もパンツも濡らしましたが、発信すればみんなには喜んで貰えて、あたいまでハッピーです。だからといって積極的には漏らそうとは思ってないけどね。もう絶対に漏らさないわ(フリじゃない)。

伊藤:私うんち系の話好きなので、密かに楽しみにしてますね(笑)。でもそうやって辛い経験も別のかたちで捉え直して発信を続けることはかなりスタミナがいると思いますが、今まさに辛い思いをしている人に寄り添うことでもありますよね。

もちぎ:そうね、やりきれないことは多いけど、「過去や現代で苦しむ人がいること」を知ることは大切よね。今自分が疑っていない"当たり前"を知るためにも有用だと思うわ。イチ人間として恥ずかしくない生き方でやってます。あ、けどこの前初めてハクビシンを見て大声をあげて逃げ惑い、近所の人に助けを求め迷惑をかけました。恥ずかしかったわ…。

伊藤:かわいい(笑)。

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伊藤:そうやって考えた結果を投じるのが選挙ですが、もちぎさんはどんな選挙のシステムだったら投票に行きたくなると思います?

もちぎ:めちゃくちゃあたいの個人的な願望で言ったら、普段寄る場所で投票可能なら助かるわ。スーパーとかショッピングモールとか。そしたら楽チンよ〜。利便性とかだけに絞るなら懸念材料も多いけど電子投票かしら。それならみんなも投票したくなるでしょ〜。

伊藤:じゃあもし、もちぎさんが首相だったらまずはどんな政策をしますか?

もちぎ:首相になるまでの過程をぶっ飛ばしてるから難しいけれど、そもそものところあたいの活動スタンスとしては「議論の健全化、反論や反証が発言しやすい環境が大事だ」と思ってるの。だから、野党とマスコミに活発にいてほしいわ。「議論あけすけどすけべ法」で忖度的な報道規制をやめにしちゃいましょう。

伊藤:ど、どすけべ法…。

もちぎ:ごめんなさい、どすけべは忘れていいわ。語呂が良くて、つい。


極めて真面目なテンションで取材を申し込んだ私だったが、もちぎさんはその私の硬さをじゅうぶんにほぐしてくれる、ユーモアに溢れる答えをたくさん用意してくれた。そして同時に深く物事を見つめ、受け取りやすい形で誰かに手渡す。それこそがまさに彼の漫画や文章の魅力なのだろう。

私たちPaletteも、漫画で発信を続けているメディアである。差別や偏見、さまざまな「こうあるべき」によって苦しむ人々と共にありたい、少しでも生きやすい社会を作りたいと思っている。彼の社会・他者・未来、そして漫画との向き合い方を知り、私たちも未来のために描き続けようという気持ちをあらためて強く持つことができた。

もちぎさんの単行本第一弾『ゲイ風俗のもちぎさん セクシュアリティは人生だ。』は8月9日(金)に発売予定。
予約注文はこちらから。

(イラストの素材提供はもちぎさんより。すべてイラストはイメージです。)

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