まめたさん

子どもたちに信頼される大人になるために 9月1日を前にして

8月も後半にさしかかり、じきに夏休みも終わる。
理不尽な校則、いじめ、教員のハラスメント、着るのが苦痛の制服…。新学期を目前に憂鬱な思いをした人も、多いのではないだろうか。逆に、家での居場所がなく、比較的心が安らぐ学校が休みになることで、夏の間に辛い時間を過ごした人もいるだろう。

ところで、18歳以下の若者が自殺で無くなる数がもっとも多いのが、夏休み明けの9月1日。このたった1日で、約100人近くの若者が自ら命を断つ(参考)。

この数字をあなたはどう捉えるだろう。

少し前にある政治家が、「LGBTQ+の若者の自殺率が、そうではない若者と比べて6倍である」ということを笑いながら話したことが大きな問題になった。

*ちなみにこの政治家の発言は誤りで、正しくは男性においては性的指向が自殺未遂経験に関連する決定的要因であることが明らかになり、異性愛でない人の自殺未遂率は異性愛者の約6倍である。(詳細はhttp://www.health-issue.jp/suicide/

この発言に悪意があったかどうかは私にはわからない。しかし大人の、ほんの何気ない一言や態度が子どもを追い詰めることがある。かつて子どもだったであろう私たちにも、きっと何か心に思い当たる記憶があるのではないだろうか。

すでに大人とされる世代を生きる私は、多くの若者が自殺で命を断つ現状にどのように向き合えばいいのだろうか。今まさに思い悩む子どもたちの力になれるのだろうか。

9月1日を目前に控えた今、トランスジェンダー男性の視点から、セクシュアリティに悩んでいるかもしれない若者の居場所作りをする遠藤さんに、子どもが信頼できる大人になるために必要なことを伺ってきた。

(文章:伊藤まり

大人の知識は、子どもを救う

伊藤:もうすぐ今年も夏休みが終わります。「新学期が嫌だった」という遠藤さん自身の思い出はありますか?

遠藤:まず制服を着ていかなくてはいけないっていうのが、嫌ですよね。

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伊藤:そうですよね…。

遠藤:夏休みは制服を着なくてよかったけど、学校が始まると制服を着なくてはいけない。学校で扱われる性別と自分の着たい制服が合わなかった私にとっては、ストレスも多かったです。

合田:そういうのが積み重なって、ですね。9月1日に100人近くの若者が命を断つというのは、かなりショッキングです。

遠藤:実は9月1日だけではなくて、夏休み後半からどんどん自殺数は高くなるんですよ。9月になっても自殺はやまない。それだけ多くの子どもたちが追い詰められているんです。

伊藤:同性愛を"矯正する"施設というのがアメリカにはまだ多くありますが、それを受けていない若者の自殺未遂率が約8%であることに対し、"矯正"を受けた若者はその割合が約50%にまでのぼるとも聞きます。

遠藤:まわりからどう受け入れられるか、ということはとても大きいんですよ。特に家族の受け入れは大きいとも言われています。中高生たちを見ていると、大人よりも同世代の方が話しやすいし受容度も高い傾向はあります。

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伊藤:勇気を出して相談しても、心無い言葉に傷つく子どもも多いのですよね?

遠藤:はい。たとえば、同性が好きだと教師に打ち明けたら「思春期の一時の気の迷いだよ」と言われたり、リストカットに苦しむ子どもが「気を引きたいだけでしょ」と誤解されていることも多いですよね。

合田:うわ〜あるある…。そういうの、傷つくんだよなあ。大人ってよくもわるくも経験は多いから、子どもの悩みを「あ、それ自分の知ってるあのパターンだわ」と、決めつけてしまっているんですね。良かれと思ってなんですけど。

遠藤:大人の「当たり前」をアップデートする必要があります。そもそも、LGBTQに関する相談は、相談される側の大人を教育しないといけないという大変さがあるんです。

伊藤:と、言うと?

遠藤:大人が知らないから当事者の子どもが先生を教育するんですよ。高校生が先生のために作った多様な性についてのパワーポイントを、後輩の中学生にあげたなんて話もありますよ。

合田:え、つまりパワポで、そもそもトランスジェンダーとはこういうもので、とか?

遠藤:そう。でもそんなこと、相談する生徒が大人に対してすることじゃないですよね。負荷が多すぎる。しかも説明したとしても理解されないこともありますし。だからこそ、大人があらかじめ持っている知識は、子どもを救うんですよ。

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伊藤:カミングアウトについてもそうですよね。するかしないか、で悩むことも、したあとに受け入れられるかどうかで悩むことも、本来なら必要ないことなのに。

合田:本当に、そういう余計な負担が必要なくなるといいよね。

遠藤:言わないと存在を消されてしまうから、カミングアウトしようか迷うし、ハードルも上がる。多様な性の存在を当たり前とした会話が学校に溢れていれば、ハードルは下がるはずです。学校のしんどさの話をしてきましたが、さらに子どもたちにとって一番言いづらいのが家族なんです。私は"にじーず"というLGBTQ+の若者の居場所作りをやってますが、そのにじーずに行くことを家族に言えない、という相談もとても多いのですよ。

合田・伊藤:えー…。

「やろうよ、それ」と子どもの背中を押しています

遠藤:先生にも説明しなくちゃいけないし、親にはそんなふうに言われちゃう。LGBTQ+に限らないですが、複合した悩みを抱えた子どもにとって「相談」は簡単ではないです。

合田:大人が「何かあったら相談するんだよ」って言うことは簡単だけど、そもそも「理解されないんじゃないか」という恐怖や、周囲の大人への失望が子どもたちにはあって、大人に言い出せないまま過ごしてしまうんだ。そして自分の居場所がないような気がしてきて、生きていたくもなくなって。よくない循環…。

遠藤大人は「"SOSの出し方教育"を子どもにするんだ」とかって言いますけど、まずは大人自身がSOSに応えられるよう、様々なイシューへの最低限の知識や「家族に勝手に話さない」などの姿勢を身に着けたいところですね。

伊藤:子どものために何かしたいって思うためには、まず大人が学んで変わらなくてはだめですね。

遠藤LGBTQ+に関しては、子ども同士の力をうまく使うことも重要だと思っています。カミングアウトの相手として中高生が一番選んでいるのは、大人ではなく同級生です。最近の子どもたちは多様な性についての関心が高く、大人より受容的な人も多いので、保健室に多様な性に関する漫画や書籍を置いたりして、カギになるような同級生たちを育てるのも重要なアプローチかなと思っています。あと私は、接している子どもたちには結構「やろうよ、それ」と言うタイプです。

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伊藤:「やろうよ、それ」とは?

遠藤:たとえば、学校の図書館にLGBTQ+の本がないと憤慨している中学生がいたら、私は「リクエストカードを書いちゃえ!」って声をかけます。別に匿名で書けるし、もしそれで本が入ってきたら"自分で何かを変えることができる"と気づける。

伊藤:なるほど。自分にも力があるんだって知ることは、すごく勇気になりますね。

遠藤:本が入ったら、自分がその本を読めるだけではなくて、友達だって勉強できるわけです。知らないところで同じ悩みを抱えている友達の力にもなれます。みんなのためになることなんだから、やったほうがいい。悩んでる最中は大変だけど、その自分が悩んでいることは他の誰かの力になれることかもしれないと気づけると、救われることがあるのだと思います。

合田:たしかに、行動を起こすことは勇気がいるけど、自分で変えられることもあるし自分が誰かの力にもなれる、という視点はとても大切ですね。

遠藤:悩んでいる子は今この瞬間はしんどいかもしれないけれど、そもそも"何かおかしい"ということに気づけているというのは、すごいことなんですよ。先生や親も知らないことをあなたは知っている。スウェーデンの若者支援団体が掲げた標語ですけど、「若者は社会の課題ではなく、資源」なんです。誰かに守ってもらうだけの弱い存在じゃなくて、自分のためにした行動は、他の人の権利を守ることにもなる。だから、リスクが少ないことなら「やってみたらどう?」って提案しています。

信頼できる大人になるために

伊藤:私たちはもう大人になってしまって、子どもたちの一番のキーパーソンにはなれないかもしれません。でも、この自殺率の高さを目の前にして、"信頼されていない大人"であっても少しでも力になるためにはどうしたらいいか、と考える大人も多いと思います。

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遠藤:信頼される大人になるために大切なこととして、思春期の問題に詳しい精神科医の松本俊彦先生がおっしゃっていたことが3つあります。受け売りになるんですけど(笑)とても参考になります。

一つ目はまず【決めつけないこと】。たとえばセクシュアリティについてなら「思春期の一時の気の迷いだよ」と言ったり、リストカットしている子に対して「気を引きたいだけだ」と言ったりする人がいます。そういう決めつけをしないで話を聞くことが大切です。

二つ目は【その大人自身が孤立していないこと】。先ほども言ったように、自殺のリスクは複数の問題が絡まって高まります。そういう一つ一つの深刻な悩みを1人で全て解決はできないですよね。だから、大人自身が周りに一緒に考えて相談できる仲間がいるということが大切になります。

最後は二つ目と重なりますが、【大人自身が助けを求めることができる】ということです。助けになりたいけどどうすればいいかわからない、というときに大人が電話相談したり、専門の活動をしているNPOに助けを求められたり。守秘義務のある相談窓口をきちんと利用できる大人になるということですね。

合田:なるほど。でも、一つ目の「決めつけない」ということが実は難しいですよね。無意識のバイアスを自覚することって難しいし、たいていが良かれと思ってやってることだから。

遠藤:そうなんです。決めつけないためには、やっぱり大人は勉強しなくてはいけない。個人的には、とにかく気の利いたことを言おうとしないことが大事だと思います。たいてい変なことを言っちゃうのって、その場で動揺して気の利いたことを言おうとするときなんで(笑)。

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伊藤:たしかに(笑)。何か悩みを相談したときに、"いいこと風"のことをドヤ顔で言われても「いや違うんだけど…」って思ったら一瞬で信頼関係が崩れますよね。

合田:「よくわからないけど、気の利いたことを言わなくちゃ」っていうのはわかるけど、自分がよくわかっていないことをまずは認めたいですね。

遠藤:はい、その上で自分が頼れる先を見つけるために、地域に若者をサポートする団体があるのかどうか、調べておくことは大事だと思います。。LGBTQ+のコミュニティや自治体の電話相談があると知っていることは重要で、そのイベントに参加したこともあればなおさら安心して子どもに紹介することができますよね。

伊藤:まず気の利いたことを言おうとせず、悩み別にどんなサポートするところがあるかを知っておいて、それを提示してあげる、と。

遠藤:たしかに子どもたちにとって大人は信頼できないかもしれないけど、いきなり丸ごと信頼しなくたって、全てを話さなくたって、相談はしていいんですよ。名前を言わなくてもいいところ、顔を合わせなくて済むところは気楽ですね。たとえば"チャイルドライン"。セクシュアリティの研修を受けた相談員もいらっしゃいますし、どうも嫌だと感じたら「ごめん無理」ってガチャ切りしてもいいんですよ。だから「どんなもんかいな」って感じでかけてみたらどうだろうって伝えたいですね。電話だけでなくチャットでの相談もできます。

伊藤:電話だと緊張して言いたいことが言えないかもしれないから、チャットがあるのはありがたいですね。

遠藤:そう。「もしもし」って相手が出たら緊張して頭が真っ白になってしまうこともあると思うから、まずは話したいことを紙に書き出すのもいいですね。

合田:大人でも営業の電話は、カンペ必要だもの。

遠藤:"子どもの人権110番"というのもよく勧めます。ここの良いところは、話を聞いてくれるだけでなくて、希望するなら動いてくれるところ。たとえばブラック校則がひどい学校や先生のハラスメントなどをここに報告すると、自分の名前を出さずに秘密を守りながら、法務局が調査をしてくれるんです。法務局が調査に来たら学校側はビビるでしょ?

合田:それはビビりますね!それに、実際に大人が行動を起こしてくれて環境を変えられるというのが分かると、希望を持てますよね。

遠藤もし子どもに相談されたら、こういう機関やNPOを一緒に頼りながら、どうやって戦っていくか一緒に考えていける大人になれたらいいと思います。相談の仕方を一緒に考えるのも、とてもいいですね。

伊藤:子どもの持っている力を信じながら、一緒に考える大人ということですね。

遠藤:はい。それから、学校にも家にも居場所がないと感じる子、学校に行きたくない子には、"東京シューレ"というフリースクールが作った「不登校の子どもの権利宣言」が素晴らしいので、ぜひ読んでもらえると良いな、と思います。「学校に行かなくても大丈夫」って自分たち大人はアドバイスするけど、不安なこともいっぱいあると思います。だからこそ、同じような子どもたちが作った文章は心に染みるんじゃないかな。学校に行きたくない子たちは、こちらの"#学校ムリでもここあるよ"に載っている各地のふらっといける場所もよかったら参考にしてくださいね。

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自分自身が中高生だった時代は、どんどん遠い昔のことになってきている。当時悩んだこと、大人や世界をどのように見つめていたのかも、少しずつ忘れて来てしまっている。そして、私自身が"大人"と呼ばれる存在に近づきつつあるなかで、自らの存在に悩み、周りの環境や大人との関係に悩む子どもたちを遠い問題にはしたくない。

遠藤さんは、子ども同士がもっとも力強くサポートしあえるキーパーソンになれるとおっしゃっていた。たしかに、私自身が中学の頃、父親ともめて家族で家から追い出されたときに、静かに淡々と一緒に荷物を運んでくれた友人の優しさが今も胸に残っている。

もう私は、そのときの友達のように、今子どもとして生きる誰かのキーパーソンにはなれないかもしれない。それでも、彼ら・彼女らから信頼される大人になり、少しでも力になることはできるのかもしれない。

夏休みが終わり、新学期が始まる。身近に何かを肩に背負っているような子どもがいたらどうすればいいか。そのヒントを得ることができた。


LGBTユースの居場所・にじーず

東京シューレの不登校の子どもの権利宣言

チャイルドライン

子ども人権110番

#学校ムリでもここあるよ

(写真:星野泰晴

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