空想は知識より重要である_知識には限界がある_想像力は世界を包み込む___1_

うちのインターンはADHDですー当事者と雇用者それぞれの歩み寄りー

先日書いたこのnoteを、多くの人に読んでいただいた。

ちなみにこれを書いた私は『パレットーク』というメディアの編集長をしている。セクシュアリティやジェンダー、障害や国籍、見た目など、多くの人が漠然と抱えている"普通"や"こうあるべき"を考え直すためのエピソードや考え方について、あらゆる角度からマンガを用いて発信中だ。

その"マンガ"を書いているふたりのうちのひとりが、うちのインターン。ちなつ

ADHDであることを採用面接で伝えてくれた彼女がパレットークで働くようになって、1年半以上が過ぎた。

「こんなに楽しく働けるアルバイトは、初めて」だと、彼女はよく話してくれて、とてもとても嬉しいのだが、ここまで一緒に歩んで来ることができたのは、ちなつとパレットーク編集部、当事者と雇用者の互いの歩み寄りがあったからだと思っている。

つい先日も、とあるミーティング中に気づきがあったので、紹介したい。


11月の投稿スケジュールについてのミーティング

A「それではこの時間では、11月の投稿スケジュールについて決めていきます」

B「この日は●●についての投稿を、次の日に▲▲についての投稿をする予定。ちなつちゃん、スケジュールは大丈夫?」

ちなつ「はい!」

C「OK。あ、そういえば●●って、この前ニュースになっていたけど、私はあの報道には納得行かなかったな」

A「ああ、読みました。あの件って本当は〜〜だったんですよね」

B「私もモヤモヤしてて…あ、そういえばこの前の☓☓のニュースでもそうだったんですけど…」

このまま、雑談は5分ほど続いた。

無意識に「そういえば、そういえば」と、もともと話していた話題から脱線し、雑談に転じてしまっていたのだ。

この間、ちなつは完全に口を閉ざしていたことに気がつく。
5分の沈黙の後、流れで話を振られ、ついに彼女は口を開いた。

「ちょっと特性上、今何をすればいい時間なのか分からなくなって、混乱しちゃってました…。最初は11月の投稿スケジュールについて決めていく話し合いだったのに、気がつくと何の話をしているのか見失っちゃって…」

謝った。ちなつ、ごめんね。

ADHD含む発達障害には他人の感情を読み取ったり、それに沿って発言するのが難しいという特性を持つ人が多い。特に大勢が次々に話したり、話題がどんどん変わっていくような場面では、話の流れを追うのが難しいこともあるという。

今話している人たちが何を考えているのか、そしてその言葉の裏側にある雰囲気や暗黙の了解のようなことに関して、自分の解釈が追いついていないのではないかという気持ちになり(実際に解釈が追いつかないことが多い)、意見を言いそびれて、沈黙してしまっていたのではないかと思う。

また、ちなつは「これをやる」という時間を与えられたら、空気を読んで「このくらいにしておくか…」と自分で判断してやめることは難しいと感じるとも教えてくれた。「これをやって」と言われたら、やる。そして「やめて」と言われるまで、1時間でも2時間でも続けてしまうのだ。だから「11月のスケジュールについて話す」と言ったらそれをやるし「終わりだよ」と言われない限りその時間は続いているはずなのに、雑談タイムが始まってしまい、混乱させてしまったのだろう。

今後は「雑談タイムね」という区切りの言葉を用いたり、大人数での話し合いのときにちなつが置いていかれていないか気をつけるようにしていきたい。


「よしなにやっておく」って、何ですか。

つまり、「TPOに合わせてね」とか「臨機応変によろしく」とか「よしなにやっておいて」のような、曖昧な表現は非常に伝わりにくいということだ。

ちなみに、これは相手がADHDであろうがなかろうが伝わりにくいので、具体的な指示をする場合は使わないほうがいいのではないかと思う。

「そうは言っても、そこも考えてほしい」という状況のチームもある。うちもそうだ。その場合は

①まず「プロジェクトが成功だと言えるゴール」を考えてもらう
②チェックとすり合わせをする
③次に「そのゴールを達成するために、具体的に何をすればいいと思う?」を考えてもらう
④実行してもらう
⑤チェックとすり合わせをする

と、ひとつずつ分解して手渡してみるのは、効果的かも知れない。

ちなつは、スケジュールが決まっているタスクリストを上からこなしていくことは比較的得意なインターン生だ。ただし、複数のタスクを一度に手渡したり、途中で「やっぱ、こっちやって」と何かが振ってきたりすると、もともとやっていた仕事をどうしたらいいのか、おそらく混乱する。

私が彼女のマネージャーとしてできると思ったのは難しくない調整で、ひとつずつ仕事を渡すことだけである。決して求めるアウトプットの質を下げたり、カンタンで機械的なことだけを依頼したり、ということではない。

「よしなに」がわからないなら、一緒に「よしなに」を定義するところから始めればいいのではないだろうか。それに「あれ」「それ」「あっち」「その件」「よしなに」など、曖昧な指示語や一緒に定義していない言葉は相手が誰でも混乱しやすいのは確かだ。

ちなつの場合、現在自分の幼少期からの自伝エッセイをTwitterでマンガ化しているのだが、最初に私と一緒にゴールを描いている。

①まず「プロジェクトが成功だと言えるゴール」を考えてもらう
②チェックとすり合わせをする
→2020年目指して書籍化したいよね。で、決まり。 

③次に「そのゴールを達成するために、具体的に何をすればいいと思う?」を考えてもらう
→まず書籍化するにはだいたい150ページくらい必要だから、Twitterで4枚ずつ出していった場合、40話くらい必要。週に1回ずつくらい出したらちょうど1年くらいで到達すると考えた。これをスケジュールどおりに出すことにした。
→応援してくれる読者さんを増やしたいから、自分のTwitterでファンを増やすことにした。 

 ④実行してもらう
→スケジュールどおりに進める。なるべく遅れてしまわないように。

⑤チェックとすり合わせをする
→1on1などで反省点などを洗い出し、次のアクションを決める。


対策を、両者で考える

たとえばADHDではない上司が、ADHDだとカミングアウトしている部下に「この棚を整理しておいて」と言ったら、上司の中では「20分くらい棚を整理したら声をかけてくるだろう」と"普通"、"常識"的に考えてそうにちがいないと自分の中で思い込んでしまう。そして「遅いな…」と思って40分後に棚を見に行くと、部下はずっと棚を整理していた。などということも起こる。ここまで読んでくださった方にはもう解ると思うが、部下にとって今は、棚を整理する時間なのだ。

ちなみに相手がちなつなら、私はこんなふうに指示をするだろう。

①何時まで、この棚の整理をしてね。
②その時間になったら、終わっていても終わってなくても声をかけてね。
③今日はこの棚の整理が完了してから、他の仕事のことを考えればいいよ。
④わからないことがあったら、私が仕事をしていても質問していいよ。
⑤メモタイム(今まで言ったことをメモしてもらう)、タイマーをかけてもらうなどする。

そんなに難しいことではない。プラス1分の工夫だ。

また、先程のように部下が思っていた結果を出せないこともある。相手がADHDだとわかっている場合は、

①できなかった理由を尋ねる
②特性と関係がありそうか一緒に考える
③どうすればお願いしたことが次からできるか話し合う
④ルールを決める
⑤ルールに沿って依頼する

そんなふうにコミュニケーションをとるのもいいかもしれない。感情的に怒ったり、相手を「普通じゃない」と否定したりするよりも、成果を出してもらうためのすり合わせに時間を使いたいところだ。

そして自分がADHDである(かもしれないと思っている)人にも、もちろんやれること、考えてほしいことがある。特に上記の②、③に関係が深い。


ちなつの歩み寄り

ちなつへのリスペクトのひとつに、自己分析力の高さがある。彼女は発達障害、うつ、アダルトチルドレンなどの経験を通じて、とことん自分と向き合ってきた。ゆえに、自分のできないこと、できること、苦手なこと、得意なこと、これがADHDの特性ゆえのものなのか、アダルトチルドレンと関係しているのか、性格的なものなのかを理解しており、なおかつそれを言葉や文章、絵で伝える努力ができる。

一緒に働くにあたり、それがとてもありがたかった。

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そして組織とすりあわせていく上で重要なのが、できないことをしっかりと伝えてくれた上で、「できない」で終わらせず「これだったらできそう」を一緒に考えてくれることだ。ちなつは「できないのでやりません」と何かを突っぱねてしまったことはなく、「できます!」と自信のないことを承諾してしまったこともない。ゆっくり考えながらも「これは特性上、難しいかもです。でもこれだったら…」と、歩み寄りに力を注いでくれる。これは一回でうまくはいかない。何度も一緒にやってみる姿勢が大切だろう。

前章で挙げた例では、上司がADHDではなく、部下がADHDだったが、もちろんその逆だってある。経営者にだってADHDはいるし、親がそうだということもある。「まさか自分の周りにはいない」と思い込まないようにしていたい。そして「自分は普通のことを言ってるだけなのに」とか「相手の配慮が足りない」とか「自分ばかり頑張っている」という気持ちを抱えている人も、これからのために少し勇気を出して、対話をはじめてみてほしい。


おわりに

私たちの会社のバリューのひとつは「セーフスペースであれ」なのだが、心理的安全性の確保された職場でこそ、多くの従業員たちは自主的に力を発揮していくのではないか、と感じている。セーフな場所を確保しつつ、事業をやるならば、成果主義であることも忘れてはならない

成果のためにも、マネージャーたちは従業員を決めつけず、その個人と対話をして、真っ直ぐ成果と向き合えるようにしていかなければならない。障害があるからといって「これはできない」と決めつけたり、逆に誰にでも「これくらい当然できる」と決めつけるよりも、ちなつにはちなつが成果を出しやすい方法で仕事を依頼する。別の従業員には、別の頼み方をする。間違えてしまうこともあるが、その伝え分けの精査にこそ時間をかけたい。本来マネージャーの仕事は、従業員に成果を出させること、従業員の選択を正解にすることなのだから。

前回のnoteでも書いたのだが、これを読んで

「そうか、ADHDの人にはそう接すればいいのか」

と思った人がいたならば、注意しなければいけないのは、その"決めつけ"だろう。ADHDのひとが、上記の話すべてに当てはまるというわけではもちろん無い。これはあくまでちなつとパレットークのストーリーである。

「ADHDの人には、こうしてあげないといけない。」
「ADHDの人は、才能がある。」

などもよく言われているが、主語が大きい。

あくまで大切なのは、目の前の人をあなたと同じ権利を持つ個人だと理解すること、そして決めつけずに接すること、そして対話することではないだろうか。


▼ちなつの経験をもとにした連載漫画

▼ちなつの生活での気付きについてのイラスト

編集長 合田文


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