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【敗者の街番外編】敗者の街 ―Happy Halloween IV ―

 ハロウィン、という催しがある。
 古代ケルトが起源とされており、現代では主にアメリカ合衆国を中心に幅広い国で年中行事として定着した、いわば祝祭だ。

 本来はドルイド教の祭りだったとされているが、今やあらゆる地域で楽しまれ、その日は死者も生者も入り交じって季節の節目を祝う……と。
 まさしく、この「敗者の街」と呼ばれる空間に相応しい……と、説明されてしまえば、一理あると肯定せざるを得ない。

「だがな……貴様ら、流石に浮かれすぎだろう」

 目の前にはかぼちゃのランタンが幾つも転がり、どこから持ってきたのかよく分からない木に、これまたよく分からない飾りがごちゃごちゃと付けられている。
 飾りの中には靴下や短冊といった、また別の祭りの要素が混ざり、混沌とした様相を呈していた。

「こういうのはな、楽しまねぇと損なんだぜ」

 レニーが得意げに言う。

「そうだねぇ。遊べる時はとことん遊ぶのが一番さ」

 サーラ・セヴェリーニも、その隣で大きく頷いている。
 真っ赤なチャイナドレスを着こなし、化粧や髪飾りも衣装に合わせてしっかり着飾っているのを見るに、楽しんでいるのは間違いないだろう。

「うん、でもなんで俺の医院? 別の場所で良くない?」

 グリゴリー・ベレゾフスキーは、パーティー会場に変貌した倉庫の入口で不満そうに突っ立っている。
 かぼちゃの被り物をしている辺り、楽しむ気は満々のようだが。

「集まりやすいからでしょ。作中でも繋がりやすい場所みたいな感じで出てたし」
『カミーユ、メタ発言は程々に使わないと飽きられるよ! 気を付けたまえ!』

 カミーユさんは相変わらずスケッチブックに向かっており、サワ・ハナノはよく分からない視点で楽しそうにしている。
 ノエル・フランセルもといジャック・オードリーの声は聞こえてこない。留守だろうか。

 しかし……この状況は、流石に好ましくないな。

「……酷い有り様だ」
「レヴィさん、真面目だもんねー」

 魔女姿のイオリが、スナック菓子を食べながらそう言ってくる。
 隣の揃いの衣装を来た少女……オザキの方のイオリに「いる?」と聞いているのも見えた。
 確かに、俺はよく「クソ真面目だ」だとか、「堅苦しい」だとか非難されるが、それでもだ。
 数多ある俺の嫌いな言葉のひとつに、「無秩序」がある。

「今年の企画担当は誰だ? 段取りがあまりに雑すぎる。催しを開くつもりならば、事前に、綿密な計画を立てるべきだろう」
「あー、そうだったよ。こいつの真面目の方向性、普通にバカなんだよな」
「なんやかんやで楽しむ気満々だしね」

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