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up-tempowork第一章No.3

「何のお仕事されているんですか?」
 友人は二人に突然、尋ねた。

「さぁ、何でしょうね」
グレースーツは答えなかった。

その会話を聞いた、カメレオンスーツは微笑を浮かべた。


そのまま、友人の言葉を『聞いちゃいない』とでも言いたげな様子で、
悠然と二人はカードゲームを続けている。

今度は声を1オクターブ上げ、
「何のお仕事をされているんですか?」
再び聞くが二人は笑みを浮かべるだけで何も答えない。


ーーどうやら答える気はなさそうだ。私はハラハラしながら友人を見ていた。


少しの間をおくと、グレースーツの男性が話題を変え、話始めた。

すると、あまり自分から話そうとはしない、
カメレオンスーツが笑みを浮かべながら、
「ところで、君はいくつくらいなんだろうね」
手持ちのカードを選びながら、私に聞いた。

私は答えなかった。

どう考えても、私は彼より遥かに年下だろうけれど、
年齢を言って子供扱いされたくなかったのかもしれない。
それに、見ず知らずの人に答える義務はないと思ったのだ。

カメレオンスーツはそれ以上聞くこともなく、
口もとに笑みを浮かべたままゲームを続けた。

 オーナーが静かに見守る中、
4人の会話は、
カードゲームとお酒を交えながら男性二人が作る漂う紫煙のように、
ゆったりと続いた。

「あゝ!ダメだ!」
突然、グレースーツの男性がカードをカウンターに投げ出して、
大きな溜息声をついた。

そして、私たちの方を見て微笑みながら、
「どうやらツキも落ちたらしい女神様」


グレースーツの男性はすっかり負け越していたのだ。


椅子の背もたれにずっしりと寄りかかると、
組んだ手を頭上へ運びながら背筋を伸ばしている。

『やれやれ』といった様子だ。

「そろそろお開きにしましょうか」
 それまであまり喋らなかったカメレオンスーツの男性が言うと、
「そうだな……そろそろ」
 と、グレースーツの男性は答えた。
「だいぶ夜も更けてきましたよ」
 と、マスターはグラスを磨きながら言った。

 閉店時間も近づき、ほかの客は誰もいなかったので、
そろそろ閉めたいのだろう。


「きょうはラッキーだな。それじゃ、約束通り今夜はご馳走になるよ。
それから女神たちの分もこいつが持つからね」

――そうか、バーの支払いを賭けてたんだ

「結構です」
 友人はきっぱりと強い口調で断った。
初めて出会った男たちに借りを作りたくなかったのだろう。
友人はそのあたりはしっかりしているのだ。

 私はといえば、急に睡魔が襲ってきて、早く家に帰って眠りたかった。
大学の講義はともかく昼間のバイトもハードで、
友人の愚痴を聞き続けたのも大きい。

聞き役も結構疲れるのだ。


 私たち4人は一斉に席を立った。
 その時、グレースーツの男性が私たちに言った。
「もう一軒、ご一緒にいかがですか?」


(つづく)


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