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白白庵 作家特集記事

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白白庵取り扱い作家の特集記事や個展の情報などを集めています。
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#現代美術

現代の依り代「廷帝部亜(テディベア)」

現代の依り代「廷帝部亜(テディベア)」

染織作家・前川多仁が制作する
「廷帝部亜(テディベア)」シリーズを特集したコレクション。
一つ一つが個性的で表情豊かな一点もの達です。
以下、作家自身のステートメントをご参照ください。

〜僕が廷帝部亜(テディベア)をつくるわけ〜

 僕がテディベアをつくるのは、一つの理由からだけではなく、複合的な理由が重なり、例えば点と点が散らばっていたものが、ふとした瞬間に線でつながるというような、そのような

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『おばけの役割』/田村一

『おばけの役割』/田村一

田村一の器は、轆轤の回転から生み出される揺らぎとその息遣いが感じられるシルエットの美しさによって、日常の食卓を無二の楽しみへと一変させます。
美食家や料理人、酒蔵などのいわゆる玄人からの評価も高く、国内外の有名レストランで採用され、また地元秋田の酒蔵とのコラボレーションも盛んに行っています。
この言葉の羅列だけでは、ある意味で「当たり前」で「普通の良い器」のように響いてしまいます。
しかしシンプル

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壺中天アリ / かのうたかお

壺中天アリ / かのうたかお

「壺中天」と言えば”壺の中に飛び込んでみたら別の世界が広がっていた”という中国の故事にまつわる言葉です。
飛び込んだ男は美酒と美味しい食べ物に溢れた壺世界を堪能します。
別世界や新天地に希望を抱き夢見る心は今も昔も変わりません。
しかし、この新たな世界は気づいていないだけですぐ近くにあるのかもしれません。

この「壺中天」をタイトルに冠した特異な陶芸作品を代表作とする作家がかのうたかおです。

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「表層の現象」を求めて シマカミリッカ

「表層の現象」を求めて シマカミリッカ

「幾何学紋様」には終わりがありません。
同じ操作を繰り返すことで、同様のパターンを無限に繋ぐことができます。
空間に限りがなければ、それは永久に繰り返す事ができます。
古代の人々がその「幾何学紋様」というパターンに気づいた時、それは人類の認識を超えた遥かに「大きなもの」への憧憬を紡ぎ出す手がかりとなりました。

日本というエリアで考えても縄文土器に刻まれたパターンは、「大きなもの」へのイメージを身

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石田慎が目指す「美」への最短距離は

石田慎が目指す「美」への最短距離は

「多様性」が文字通りにありとあらゆることを細分化することで世界の複雑性はいよいよ増すばかりです。「現代美術」と呼ばれるものが一種の知的ゲームのような側面を備えることでアートシーンにも多種多様の価値が溢れかえっています。そしてその一部はマネーゲームとも同質化しその価値は明晰化よりは混沌そのものへと向かっているようでもあります。
「美しさ」という概念が「『美』術」の歴史において中心に据えられていた時代

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事の端・現の端 富田啓之

事の端・現の端 富田啓之

不思議な事に、一般的に陶芸家はあまり自身の制作スタンスや思想、表現活動における内的な部分をあまり語らないようです。
もちろん雄弁な方もいますし、多くを語りたがる方もいますが、例えば絵描きの方々と比べるとその数は少ないように感じます。
分かりやすい例を挙げれば、Twitterの投稿がアクティブな陶芸家の数を画家と比較すれば一目瞭然でしょう。
自身の語る言葉と外部からの批評において、文字として言語化さ

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二一世紀の陰翳礼讃 伊豆野一政

二一世紀の陰翳礼讃 伊豆野一政

優れた問いは、優れた答えに勝る、と言います。
「答え」とは既にそこに収束した帰結点であり、「問い」は可能性です。
「優れた問い」は無数の「優れた答え」の可能性を含みます。

伊豆野一政『林檎像』

伊豆野一政さんはユニークな問いの立て方をする陶芸家です。
彼なりの目標地点(もしくは通過点)が定まっているが故に、そこに至るまでの「問い」を作品と言う形でアウトプットするのが伊豆野式のようです。
彼の作

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この世界に前川多仁の「愛羅武勇」を

この世界に前川多仁の「愛羅武勇」を

新型コロナ禍が不穏さを増し続けていた二月に開催された前川多仁個展「Shngri-La」。(その作品の一部は白白庵オンラインショップにてご紹介中です)
報道から伝わる世界情勢は日々悪化する中、桃源郷を掲げて現実に立ち向かったのは因果なタイミングでした。
白白庵の前身neutron tokyoにて前回の前川殿下個展は3.11の最中、そして今回は新型コロナと言う疫病。巡り合わせとは不思議なものです。

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主体なき欲望と消費を記憶するために

主体なき欲望と消費を記憶するために

刻一刻と状況が変化するこの新型コロナ禍の日々に、我々はどこかでまだかつての「日常」が戻ることを願っている。この混乱を「無かったこと」にして古い日常に帰ろうとする人々と新しい日常に順応する人やその中で新しい価値を模索する人々など、様々な思いが飛び交っている。

大槻香奈「じぶんで買った和牛」

あの「和牛券」の話が出た時には多くの人が虚を突かれ、この国の政府があてにならないのではと疑念を抱き、自

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大槻香奈が描く「この状況下」の世界

大槻香奈が描く「この状況下」の世界

「少女ポートレート」は大槻香奈の作品を代表するシリーズである。
しばらくの間封印されていたこのシリーズが、「この状況下」で復活した。

大槻香奈 「密 2020」

本来であれば4月25日より、白白庵にて個展を開催する予定であったがその店舗休業により、新設の白白庵オンラインショップがその発表の場となった。
そこに描かれるテーマを考えれば、ある意味でこれが正しい発表の形式だったのかもしれない。他者と

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前川多仁個展「Shangri-La」

前川多仁個展「Shangri-La」

仲間内では彼の事を「前川殿下」と呼びます。由来はパタリロに似ていたから、だそうです。世代的に僕は全くパタリロが分からないのですが、違和感なく彼のことを「殿下」と呼びます。

前川多仁「君は神使」

なぜならば彼の突き進む作品制作そのものが、工芸とアートの境目に揺さぶりをかけ、その王道のど真ん中最先端を直走っているからです。彼はまさに「殿下」と呼ばれるに相応しい作品を世に送り出しています。(むしろ

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木ノ戸久仁子「世界石化計画」

木ノ戸久仁子「世界石化計画」

地球上に於いて何十万年、何百万年という時の流れで様々な物質が生み出される自然のサイクルを、陶芸は人工的に加速させる営みとも言えます。

木ノ戸久仁子「マグマ」

木ノ戸久仁子さんはその陶芸の技法を用いて石を作っています。
「稀晶石」と名付けて自然には出来上がらない色彩や形の不思議な石を作り出して、最新作はなんと発光します。
地球のサイクルを彼女はちょっとだけ狂わせているのです。

木ノ戸久仁子

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寺田鉄平個展「瀬戸白」

寺田鉄平個展「瀬戸白」

たった一音爪弾いただけで観客の心を揺さぶるギタリストがいる。
ほんの一音鳴らしただけでグルーヴを感じさせてしまうベーシストも存在する。
その一瞬で直観に作用する力には抗えない。

寺田鉄平「窯変織部茶碗」

寺田鉄平さんの陶芸作品はそういったものです。
もちろんそれは歴史的・技術的な裏付けも大いに有るのですが、そういった情報は二次的なものであって、まず最初に飛び込んでくる「印象」。とにかくここで

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