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ハワイ流、スモールビジネスの支え方。「メイド・イン・ハワイ」を救う団体があった

by パケトラライター マローン恵(アメリカ・オレゴン州在住)

ハワイのスモールビジネスを応援する団体「Mana Up(マナ・アップ)」のショーケース・イベントが、11月14日、ワイキキにて開催されました。イベントの様子をご紹介するとともに、マナ・アップのアウトライン、そして期待を集めるメイド・イン・ハワイのビジネスシーンについてもお伝えしていきたいと思います。

イベント会場は、旅行者が集まるワイキキの免税店

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Photo:Tギャラリア・ハワイ by DFSはマナ・アップの協賛企業のひとつ

イベント「Mana Up Holiday Showcase(マナ・アップ・ホリデー・ショーケース)」が開催されたのは、ハワイ観光の中心地ワイキキのランドマークとなっている免税店「Tギャラリア・ハワイ by DFS(通称DFS)」。世界に名だたるラグジュアリーブランドや時計・宝飾品、コスメなどが全て免税価格で購入できるとあり、世界中の旅行者が訪れる人気スポットとなっています。

今回のホリデー・ショーケースは、DFSの中のイベントスペースを活用した……のではなく、なんと売り場の通路を特設会場にして開催されました。キラキラ輝くインターナショナルブランドの店舗を背景に、1階ではハワイのローカルブランド28社がブース展開する見本市「マーケットプレイス」が、2階ではファッションショーや各ビジネスオーナーによるスピーチなどが特設ステージにて披露されるという、2フロア構成で行われました。

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Photo:1階マーケットプレイスの様子。アパレルや生活雑貨、食品、コスメ、アート小物など、いまハワイで注目を集めるローカルブランドが出展

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Photo:ハワイ産植物を原料にした自然派スキンケアブランド「Hanalei(ハナレイ)」のブース

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Photo:食品系のブースでは試食サンプルが提供され、大人気

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Photo:2階ステージでビジネスオーナーがスピーチしているところ。通路に敷き詰められた椅子は満席、立ち見の人で、隙間がないほどの大盛況!

免税店でお馴染みのラグジュアリーブランドが通常営業する中、個人経営のローカルブランドがブースを並べる様子は、チグハグなようでいて、ハワイにおけるリテールビジネスの新しい潮流を感じさせるポジティブなエネルギーにあふれていました。各ブースのスタッフは、サンプリングに説明に販売にと、大忙し。

1階マーケットプレイスでの試食や商品購入および2階ステージの鑑賞は誰でも無料で参加できるので、多くの旅行者がショッピングの足を止め、ブースやステージに魅入っていました。また、参加費の35ドルを払うと、ドリンクやオードブル、ロゴ入りトートバッグがもらえ、スタンプラリーに参加できます。

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Photo:チケットを購入した参加者には、手続き時にロゴ入りトートバッグとパンフレット、ドリンク&ププ(ハワイ語でオードブル)用のリストバンドが提供された

ハワイのスモールビジネスを応援する「Mana Up(マナ・アップ)」とは?

このイベントを主催する団体「Mana Up(マナ・アップ)」は、ハワイをベースにした会社や起業家のサポートをしている団体で、加工食品やアパレル、雑貨、ビューティープロダクトなどの小売ビジネスを対象に活動を行っています。

中でも特徴的なのが「Accelerator(アクセラレーター=加速装置)」と名付けられた12週間のプログラム。参加者は、毎週のワークショップや面談を通してビジネススキルやリーダーシップを磨けるうえに、お手本となるメンターとのマッチング、ブランディングやストーリー構築の指導、起業に必要な各種サービスやディスカウントの紹介、セールスチャンネルや資本調達のアクセスなど様々なサポートを受けることができます。しかもなんと、参加は無料!

特に毎週開催されるワークショップが豪華で、過去に行われた一例を見ると「Shopifyでのオンラインストアの作り方」といった実用的なハウツーから、「トリ・リチャードに学ぶハワイ発グローバル企業の作り方」「元ユニクロCOOが語る10億ドル組織の作り方」といったゲストを招いてのセミナーまであります。

こうした有益なワークショップが無料で受けられるなら、今すぐ申し込みたい!と思った方もいるのではないでしょうか?

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Photo:Acceleratorプログラムの参加条件(Mana Up公式サイト:https://manauphawaii.com/より)

ただし、どの会社でもAcceleratorプログラムに参加できるわけではありません。

創業者と会社がハワイに拠点を置いていることに加え、オーナーが会社にフルコミットしていること、ハワイの文化的または物質的資産やストーリーを伝えるブランドであること、将来的にインターナショナルな展開を望めるポテンシャルがあること、年間収益が100ドル以上あること、などが参加条件となっています。

マナ・アップは、ハワイのスモールビジネスを応援することで地元経済を活性化し、上質な雇用を増やすことを目的としています。観光が基幹産業となっているハワイでは職のバリエーションが少なく、高い生活コストに対する賃金の低さが社会問題となっています。

今回のイベントに出展した28社はAcceleratorプログラムを修了したローカル企業ですが、これらのビジネスは2019年の1年間で3,500万ドル以上の収益と300人以上の雇用をもたらすと予想されています。

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Photo:出展ブースには各ブランドの説明ボードを設置。英語に加え日本語でも表記されている。日本人旅行者が多く訪れるDFSならでは

コストが高いハワイで、苦戦を強いられる生産業

主要な7島で構成されるハワイは、土地面積が限られているため大規模農業には向きません。また、物資のほとんどを輸入に頼っているため加工生産などの二次産業にもコスト負担が大きく、生活費も高いため人件費を割増設定にせざるを得ません。

かつてハワイでサトウキビ産業が栄えたのは、外国人の低賃金労働を前提としていたからであり、現代ではそのビジネスモデルは当てはまりません。原料費、人件費、地代家賃など全てが高くつくハワイには、生産業にとって厳しい条件がそろっているのです。

そのため、ハワイで農業やビジネス、デザインなどを修めた学生たちは、卒業するとアメリカ本土に活路を見出すしかありませんでした。優秀な人材は外に流出し、ハワイ内では人材が枯渇するという、負のスパイラルに…。

一方、観光業は安泰かといえばそうではなく、その時々の旅行トレンドや旅行者の居住国の経済状況などに大きく左右されるため、かなりアップダウンがあります。テロや震災、SARSなどの伝染病が起こるたびに旅行者は激減し、ハワイ経済は大打撃を受けてきました。観光業に代わるとまではいかずとも、ハワイ経済を支える第二の産業が必要なことは明白です。

また別の課題として、ハワイの文化を継承する難しさもあります。資金力のある世界的企業によるクッキーカッター(大量生産型)のビジネスが幅を利かせれば、昔ながらのハワイを伝える商店やサービスは圧迫されていきます。

また、生活費が高く賃金が低いために若者は外部に流出し、代わりに外部の資産家が別荘や終の棲家にと移住してきます。この状態が続けば、ハワイの文化を伝える商売も人も、いずれなくなってしまうでしょう。

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Photo:ビーフやフルーツを薄切りにして乾燥させた新感覚のスナック「マウイ・クリスプス」のブース

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Photo:ドライフルーツとは違った、パリッとした食感の極薄スナック。パイナップルのほか、ビーフは様々なフレーバーが選べる

危機感を原動力に。新しい「メイド・イン・ハワイ」ブーム

山積みの問題に危機感がつのる中、現状を打破しようと立ち上がった人たちがいます。例えばそのひとつは、農業に従事する人たち。大規模な農業が行えない代わりに、少量でもとびきり上質な食材を生産し、ブランド化に成功。90年代に始まったハワイ・リージョナル・キュイジーヌというハワイ発祥の食の潮流とも合致し、ハワイ内外のシェフやレストランにてハワイ産食材のポテンシャルの高さが認知されるようになりました。

2000年代に入って加速したEat Local(地産地消)の流れも追い風に。地元農家が直売を行うファーマーズマーケットがハワイ各地で見られるようになり、ハワイ産食材がぐっと身近な存在になりました。

ハワイ産食材の魅力が浸透すると、それらを原料にした加工食品やスキンケア製品が次々と誕生していきました。こうしたアイテムは「メイド・イン・ハワイ」と呼ばれ、地元住民の間に浸透するとともに、旅行者からも注目を集めるようになっていきます。

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Photo:マウイ島で活躍する若手シェフ、Sheldon Simeon氏によるチリペッパーウォーター「スラブ」のブース

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Photo:程よい酸味と旨味の中にピリッとした刺激が走るが、たしかに辛くはない(笑)。チェイサーとしてそのまま舐めても、料理に使っても良し

ひと昔前まで、日本人旅行者がハワイでする買い物といえば、海外ブランドの大量買いであり、お土産は大箱入りのマカダミアナッツチョコが定番でした。ところが旅行のスタイルが多様化し、ハワイ滞在の目的が消費から体験へとシフトすると、人々は「ハワイでしか買えないもの」を求めるようになりました。

そんな新しい価値観に、メイド・イン・ハワイがぴったりと合致。ファーマーズマーケットやハワイ産アイテムを扱うショップは、多くの旅行者であふれかえるようになったのです。

農作物だけでなく、アートやファッションでも同様の流れが起こりました。軽やかなサーフアートを描く若手アーティストが次々と登場し、インテリアに取り入れやすいプリント作品やトートバッグといった雑貨感覚で楽しめるアートが人気を博しています。

またファッションでは、伝統的なハワイのモチーフを現代的にアレンジしたブランドが各種登場。これまでリゾート着でしかなかったハワイアンウエアのイメージを一新し、都会的で洗練されたカジュアルウエアへと昇華させました。これらのアートやファッションも、食品同様、メイド・イン・ハワイの一環として注目を集めています。

ツテとコネがものを言うハワイのビジネスシーンで…

メイド・イン・ハワイは、先に述べたコスト的な難しさと文化継承の難しさという2点をクリアしています。まずは手仕事から小さくビジネスをスタートできるため、アイデアさえあれば個人でも始めやすいのが特徴で、コスト負担によるリスクを最小限に押さえることができます。また、ブランドストーリーにハワイの文化的・物質的資産が含まれるので、商品を通してハワイ文化を広く伝えていく役割も担ってくれます。

しかし当然ながら、ビジネスとして継続・成長・成功させるには、様々な課題をクリアする必要があります。特にハワイの小売ビジネスには独特さがあり、注意が必要です。限られたリソースの取り合いになっている部分もあり、古くからのツテやコネが大きな意味を持ちますが、外部からはそれが見えづらく、新規参入者は情報収集に苦労させられます。特に、ハワイ以外の場所でビジネスをしてきた人にとっては、商習慣や常識感の違いに驚くことが多いようです。

マナ・アップは、コネやツテのない状態の新規参入企業に情報やノウハウを提供し、同業他社やメンターとのつながりを与えてくれる、とても重要な役割を果たしています。また、ともすると似たりよったりになりがちなメイド・イン・ハワイ製品の中で、自社製品をどう特徴づけ訴求するかといったブランド構築をサポートしてくれるのは、かなり有益だと思います。

Acceleratorプログラムは2018年春からスタートし、現時点では計41社がプログラムを修了していますが、どれも独自のスタイルが際立つユニークなビジネスばかり。中にはここ数年で急成長を遂げ、既にアメリカ本土や海外への展開をスタートしている企業もあります。(プログラム参加企業リストはこちら

多くの可能性とポテンシャルを秘めているメイド・イン・ハワイのビジネス。これからどんなブランドが誕生し成長していくのか、観光業に次ぐハワイの第二の産業になりうるのか。今後のお楽しみですが、期待を込めた視線が集まっているのは確かなようです。

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ビジネスのヒントに。「パケトラ」

by パケトラライター マローン恵(アメリカ・オレゴン州在住)


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