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ねこの島のもりもとさん | あと3年したら…

あんたは猫見にきたの? そうかい。じゃ、猫見やすいように、外のテーブルにパラソル立てようか? 「店の中でいい」って? じゃ、気が変わったら言いなさいね。
この島は初めてかい? そうかい。「猫の島」なんて言われてね。「人300人猫300匹」って。困っちゃうねーほんと。でも、あんときはもう300人も島に人はいなかったんじゃないかね。

「ばあちゃん、じゃあ町おこししようか?」なんて言われてね。「おれが宣伝してやるよ」って。有名な…あれはなんていうのだっけ「ジャーナリスト」かい?
いやインターネットの時代だからすごいねぇ。あっという間だよ。インターネットだから。
北海道だ沖縄だ東京だ博多だって、日本中から。そしたら今度は韓国だ香港だオーストラリアだ中東だって。ほんともうあちこちから来ちゃって。すごかったよ。こんな小さな島にいっぱい来るんだから。やんなっちゃうよそりゃ。コロナで止まったけどね。

あんたでもよかったね、あと3年したら猫の島なんかじゃなくなるから。今は、そうだねぇ、20匹かそこらじゃないか。もっと少ないかもしれないねぇ。え、「20匹なら全部見たかもって?」まあ、20匹はちょっと大げさだったか。
トンネルの手前の2軒でしょ、それからトンネルの先に3軒。それからこっちの方にも3軒か。まあみんな2-3匹ずつだけど、飼ってるようなもんだね。外の猫に餌あげているだけだけど。
港の猫たちかい? そう、そうだよ。船の着港の汽笛を聞くと、みんな集まってくるんだよ。人間によくしてもらえるんじゃないかーって。でしばらくしたら、普段いるとこに戻っていくの。

船の待合所。もしかしたら、ねこが人を待つためなのかも。

「なんであと3年したら猫の島じゃなくなるかって?」…だってほら、島の猫たち全部去勢されちゃってるから。メスっこもオトコのも全部。だからもう3年は子猫見てないよ。
あれはなんていうのだっけ…「ボランティア」か。その人たちが10個くらい箱持ってきて、猫捕まえて手術していったんだよ。それでも最初のときはかしこい夫婦みたいなのが、山ん中に逃げてったんだよ。だから、その後も年に2−3匹だけど子猫も産まれてたんだ。でもその後またあのボランティアってのが来て、今度は20個くらい箱持ってきてたな。3回目もあったか。それでもう終わりだ。子猫産まれなくなったから。
誰も頼んでないと思うんだけどね。島の人間誰も、猫の避妊してくれなんて。ボランティアが「可哀想だから」って来たけど、あれは可哀想だったのかね。
…もうこの島にも誰も来なくなるだろうね。だってほら、インターネットの時代だから。すごいねインターネットだからあっという間だよ。「猫なんて全然いない」って、何人か書いたらすぐ世界中で見るだろ? もう20匹しかいないんだから。25匹かしらんけど。
でも誰かお願いしたのかね。300匹は多いかもしれないけど、いなくなっちゃうなんてな。あれは可哀想だったのかね。

船着場から10メートル。ねこ点在。

あんた猫に詳しそうだね、あれかい? 猫ってのは避妊しても、さかりがつくもんなんかね? だって派手にニャーニャーやりあっちゃって、テレビの音も全然聞こえねくらいうるさくてしょうがないときがあるんだよ。まだ昼間ならいいけどさ。だからこないだは長い箒で突っついて追い払ってやったんだ。オトコの2匹とメスっこかねえあれは。3匹で。去勢してるのにねぇ。そうか、そうだねえ。縄張り争いなのかねぇ。

この文章は、ほろ酔いのおれがおばあちゃんから聞いた話を元に創作したフィクションです。

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