創作「賭博」

1万円貸してくれない?
いいけど、何に使うの?
あー、説明したいから一回一万円札借りていい?
うん、いいけど

じゃあこの一万円札、これって、何円だと思う?
え?そりゃあ、一万円だろ
そうなんだよ。一万円札って、一万円分の価値があるんだよ。
当たり前だよ。一万円札なんだから。一万円分の価値あるよ。
でもね、これ本当は一万円の価値、無いんだよ。
は?何言ってんの?
じゃあ例えば、これ持ってアメリカに行くとするだろ?
うん
そこでしゃれた服を見つけるだろ?
うん
で、まあ一万円くらいの値段だとして、服をレジに持ってくだろ?
うん
そこでこの一万円札を出しても、店員はキョトンとするだけなんだよ
まあね
つまり、そのとき、その場所ではこの一万円札は無価値なんだよ。ただの紙切れなの。いや、なんか変な人が描かれてる分、ただの紙切れより要らない物なんだよ。
それは当たり前…
当たり前だろ?そう。当たり前なんだけど、大事なことなんだよ。
うーん。

話を変えるぞ。例えば、今ここが本屋さんだとする。
うん。
この一万円札で、お前なら何を買う?
まあ、漫画とか、小説とか?
もっとないか?なんでも買っていいぞ?
俺の金なんだけどなあ…まあ、あとは文房具とか?あとは、まあ、雑誌とかか?
そんなもんか?
そんなもんだな。
なるほどな。ちなみに、今欲しいものってあるか?
彼女
女は金で買えねえよ。お金で買えるものだよ。一万円以内で
ああ、まあ、じゃあ、うーん。あ、最近、人をダメにするソファ買ってみたいなあって思ってたんだよ。
あー、まあ、一万円くらいか、あれ。うん、いいね。よし、そしたら本題だ。
前置き長かったなあ

お前は、人をダメにするソファを買いに外に出ました。
うん
そして、向かった先は本屋です。
うん
でも、本屋にはビーズクッションなんて売ってません。
うん
さあ、お前はどうする?
どうもこうも、家具屋に行くよ。
家具屋行くよな?でもその前に、何がある?
え、どういう意味?
だから、お前今本屋にいるんだよ。じゃあ家具屋に行く道のりって、どうなる?
そうだな、まず、本屋を出ます。
出るんだよ。そう、本屋から出るよな?
うん
それはなんで?
だって人をダメにするソファ売ってないから
確かに本屋は人をダメにするソファは売ってない。
うん
でも、漫画とか小説とか雑誌とか文房具が、いーっぱいあるよな?
うん
それは?買わないのか?
買わないよ。ソファ買いに来てるもん
そう!
声がデカいなあ。
ということは?そのとき?本屋では?一万円は?ただの紙切れに等しいよな?
いや、それは暴論じゃないか?
いやいや、使わねえんなら紙切れだろ。だって、この本屋で使わない一万円札だよ?
まあ、うーん。

またここで話を変えるぞ。
何回話変えるんだよ。
これが最後。お前は、今一万円の貯金があります。
これも例え話だよな?
俺は一万円を使いたいです。でも自由に使える一万円がありません。
うん
ここで、俺に、どこか見知らぬ場所から一万円札が舞い込んできたとする。
うん
そのとき、舞い込んできた一万円札の価値は、確実に一万円だ。だって俺、一万円使いたいもん。
うん
でも、お前が貯めてる一万円の価値はどうだ?
うん。いや、一万円だよ。
本当にそうか?
そうだよ
じゃあお前、その一万円何に使うつもりなの?
え?それは………
ほら。無いじゃん。使う予定がない一万円札なんて、ただの紙切れだろ?
いや…も、もし!もしもの時のために、貯めておいてるんだよ。人生何があるか分からないから。
じゃあ聞くが、もしもの時ってなんだ?
そりゃ、怪我とか、病気とかだよ
今時そうそう大の大人が大怪我なんてしないよ。バスと電車しか乗らないならなおさらだ。病気は否定できない。でもこの世には保険があったり国から補助金が出たりする。そうなったとき、この一万円は治療費の足しにもならない。もしものためとしても小さすぎるんだよ一万円なんて。
うっ…
悲しいよな。汗水垂らして働いて、生活を切り詰めて貯めた一万円が、ただの数字だったなんて。

でもな。そのただの数字でしかないものを、ちゃんと一万円にする方法が、あるんだよ。
……どうやって?
簡単だよ。「一万円を使いたい」と思ってる人に渡すんだよ。
うん
お前には無価値の一万円でも、「一万円使いたい」と思ってる人には、お前の一万円は、一万円なんだ。
うん
うん。ということだから、この一万円は俺の物ね

いや、ちょっと待って
なんだよ。
いや、なんか、俺、知らぬ間に損してない?
何言ってんだよ。よく考えろ。
うん
俺は一万円使えるようになって嬉しいだろ?
うん
で、お前は自分の無価値の一万円を、価値あるものに変えられたんだから嬉しいだろ?
うん
だからwin-winなんだよ。お互いに得してんの。
……
もっといえば、世界的にも得なんだよ?
え?
世に出回るお金が一万円分増えるから、世界の経済も潤うんだよ。win-win-winなんだぜ。
ほんとだ
で、この世界の得ってのがデカくてね。これつまりは、世界中の人々が得するの。だからwin-win-winどころか、win-win-win-win-win-win-……くらいあるの。
ほんとに!?
これはすごいことだよ。これだけの得を、お前の一万円が生み出してるの。
うぉー!じゃあ、一万円あげなきゃ損じゃん!
そうそう。あげないなら、逆にみんな損するってことだからね。
危ねえ。みんなを損させるところだった。
ということで、この一万円札は…
持ってけ持ってけ。いやー、危ねえ。ありがとうな。こんな大事なことに気づかせてくれて。
どういたしまして

ちなみに、その一万円は何に使うの?
それはね…ああ、ちょうど開店時刻だ。行かなくちゃ
おい、どこ行くんだよ?
ん?パチンコ。

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