牛と父と私と : インタビュー

「長野県で、お祖父さんが牛と働いたのは知っています。農地はどのくらいの広さでしたか?」

「畑3枚、田んぼは大人1人と子供3人がギリギリ食べられる程度。果物も野菜も、父が器用に育てたけど、収穫量や面積を数字では把握していません」

「まだ、小学生でしたね、もっと幼い頃もありますね。牛は、お祖父ちゃんとどう働きましたか?」

「田んぼの畝を耕す。耕運機が普及する前は、牛が耕したの。牛が引く前は、万能鍬で人が耕した」

「仕事風景はどんな感じですか?」

「お祖父さんが、スキを固定する。私は5, 6歳で、牛がまっすぐ歩けるように、リードする」

「なるほど、牛を親子で挟む感じですね」

「牛の種類はホルスタインではないですよね?」

「あかうしと呼んでいました。毛の色は茶色。肉にはしないけど、肉牛の種です」

「性別は、女の子でしたっけ」

「そう、女の子」

「角を落としたりしましたか?」

「しないしない、女の子でも角は成長すると生えます」

「角で事故は起きませんか?」

「優しい子だから、我が家では起きていません。けれど父からは、『角で人を振り回せる。角は牛の武器だ』と習いました」

「蹴るのは、馬が後ろ、牛が横でしたっけ」

「そう。お祖父ちゃんは、『馬の蹴る力は、人の頭蓋骨が割れるほどの力だ』と聞いています」

「牛と相性の悪い人もいたと聞いていますが、怖くなかったですか」

「まったく怖いことはないです。例えば、牛の小屋は牛のテリトリーだから、気軽に入ったりしません。けれど、父が監督している時に、牛小屋から物を取り出しても、牛は理解してくれました。父が立ち合っているから、安心しているのでしょう」

「母さんが、牛と暮らして得たものは何ですか?」

気持ちが、10与えると10以上返してくれる。世話をすると、裏切らない。

犬や猫を飼うときも、父の仕事を見習いました。例えば、排泄を確認してお腹がゆるいとか、オス猫が排尿に時間がかかると、早めに獣医さんに相談できました」

「犬や猫が大病せずに長生きをしたのは、早期発見で問題解決したことと、そのルーツが牛だったのは、犬も猫も驚いているでしょうね」

インタビュー後記

現代は、確かに豊かになりました。けれど、10与えれば10以上返してくれることを、種族を越えての、非言語コミュニケーションでの信頼関係を体験する機会はとても少ないです。また、残念ですが、これから大人になる未成年に、自衛のために「疑うこと」を教える必要もあります。70年以上前を美化する意図はないですが、文化が異なるので、学ぶ点は大きいと感じました。(カラストラガラ・記)