アンドレアス・フォンダーラッハ『人種の脱構築: 生物学に反する社会科学』➀

Andereas Vonderach, Die Dekonstruktion der Rasse: Sozialwissenschaften gegen die Biologe, ARES Verlag, 2020

序文

 今日のドイツで生まれ育って、学校に通うか、あるいは大学で勉強をしたことのある人ならば、知っていることがある。それはすなわち、人種などというものは存在しない、ということだ。それは確かに日常的な経験とはちょっと違ったことを語ってはいるが、しかしながら教師や大学教授がそれを主張していると、それはもう、とりわけ何かかしこさの証であるかのように、真実となるのである。さらには、人種が存在するなどというのは、人種差別主義者だけであり、この連中というのは、あるいは肌の色が違うからという理由だけで他者のことを奴隷にしたり、あるいは殺したりするような、とんでもない悪人ということになる。そうして、構築主義についての講義を聴いたことがある人だけが、他の人よりもよくものを知っている、つまりは人種など存在しないということがわかっている聖なる人々に属することになるのだ。
 しかしながら、このようなあらゆる自明の事実に矛盾するような理解が、どうして世に広がることができたのだろうか。誰だって、人種というものが何であるかわかっているし、しかもそれを瞬間的に、何の問題もなく認識できるのである。
 この本において私は、〈人種など存在しない〉というパラダイムが、その1940年代における始まりから、西洋世界において普遍的な事実として浸透するまでの過程を辿ってみたいと思う。どのような事実や論証にそれは基づいているのだろうか。そして、それは正当化されうるのか、あるいはそこに反証があるのか。それはどのようにして、今日にいたるまで、とどまることをしらずに、凝り固まっていくことになったのであろうか。

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