見出し画像

いつか大人になったその日に、また会えますように。 #みんなの卒業式 - お気に入りの曲を添えて。

「バイバイ、元気でね」
 電車のドアが開くと、車内は夕陽に包まれた。

 2017年3月。
 わたしは、見知らぬ街の見知らぬ列車に揺られていた。

 社会人の連休は、大変貴重である。なかなか休みのとれない中で得られた5連休で、ひとり旅に出た。日頃の心身の疲れを癒やすべく、見知らぬ世界を求め列車に乗り込んだ。

 3月には青春18きっぷが使える。
 青春18きっぷとは、日本全国のJR線の普通・快速列車の普通車自由席及びBRT(バス高速輸送システム)、JR西日本宮島フェリーに自由に乗り降りできるきっぷである。年齢にかかわらず利用でき、ひとりでの5日間の旅行や5人グループでの日帰り旅行が可能である。
 要するに、時間に余裕があれば、長距離を安く移動できる魔法のきっぷだ。価格は消費税増税とともに値上がりし、現在は12,050円になった。

 この時わたしは、5日間かけて鹿児島(指宿)から静岡までを普通列車で旅をしていた。もともと鉄道旅が好きであることから、この大旅行は昔から夢見ていたものだった。

画像1

 ひとり旅3日目。
 列車に運ばれるわたしは、ボックスシートに身体を沈めていた。頬杖をつき、流れゆく景色をただひたすら見つめる。

 その日は大分県の別府を出発し、目的地である広島県の宮島口を目指していた。
 朝に別府の地獄温泉巡りをしたあと、別府駅から中津、小倉、下関、新山口、岩国で乗り換え、夜に宮島口に到着する予定だった。
 旅程334.2km。移動時間は7時間。日本地図を身体で感じるような日であった。

画像2

 あれはどこだっただろうか。
 山陽本線に乗っているときだった。

 時刻は夕方。空を染める光が、曇った窓ガラスに散乱している。車内は帰路につく学生や大人に溢れていた。

 知らない駅をひとつひとつ進む。自分で立てた計画とはいえ、さすがにその破天荒なスケジュールに、わたしは疲れていた。ゴトンゴトンと列車の音に身を任せると、自然と瞼が閉じていく。

 しばらくして誰かの声が聞こえた。ふと目を開けると、制服を着たふたりの女の子が乗ってきた。彼女らの手には、一輪の花が。わたしは「ああ、卒業式だったんだなあ」と思った。

 列車は規則正しい音を立てて進む。
 彼女たちの仲良さそうな話し声が車内に響く。楽しそうでも悲しそうでもない。そのふたつが入り交ざったようなトーンで話している。それは決して心地の悪いものではなかった。

 わたしは、数年前の自分の卒業式に思いをめぐらせた。
 卒業証書をもらっても、卒業アルバムにメッセージを書いてもらっても、慣れ親しんだ学校を出ても、卒業したという実感はあまりなかった。頭ではわかっているのだが、今までの学校生活が続く気がしていた。隣で笑っている友人に明日から会わないというのが、どこか現実離れした世界のように感じた。

 卒業式の日、わたしは何を思ったのだろうか?
 そして今、目の前で話している彼女たちは、何を感じているのだろうか?

画像3

 思考は止まらないが列車も止まらない。それから何駅か過ぎた。もうすぐ次の駅につくと車内アナウンスが流れる。その駅の名前を、もちろんわたしは知らない。

 花を持ったひとりがドアへ向かった。

「バイバイ、元気でね」

「うん。バイバイ」

 もうひとりは、手を振っていた。
 それはきっと、いつもと違う「バイバイ」。
 わたしの中に、卒業の記憶がふっと香った。

 電車のドアが開くと、車内は夕陽に包まれた。

 なぜか今でもその光景を覚えている。
 わたしの知らない街は、誰かの当たり前の街だった。そこで繰り広げられた一瞬のノンフィクションは、わたしの心に強く響いた。

画像5

いつも隣で ふざけていた君が
俯きながら 肩を揺らし「また会おうね」と呟く
卒業が別れじゃない事を知るのは
今よりもっと大人になれた時その日までそれぞれの道を
歩いてつまづいて振り返り
きっときっとまた会えるその日まで

コブクロ「卒業」
作詞作曲:小渕健太郎・黒田俊介

 卒業すると、新生活が待っている。進路はひとそれぞれだ。
 新しい生活に慣れるために、みんな必死で毎日を生きていく。自分自身や仲の良かった子が地元を離れてしまうこともあるし、それがなかなか会えない距離になることもある。それでもわたしたちは置かれた環境で必死に生きていく。

 そして必死に生きていく中で、ふと振り返るときが来る。
 それは、卒業してから何年も経ったとき。

 「久しぶりにご飯でも行こうよ」
 そう言って旧友に再会すると、髪を染めて化粧してる相手に、ああ大人になっちゃったなと思うのだ。「最近どう?」と聞けば、真面目に仕事したりしてる。わたしもそうだけど。しかし一旦口を開くと、あの頃に戻れるのだ。学校帰りにくだらないことを話していた、あの頃に。

 何年かに1回でもいい。そしてその時元気な顔が見れたら、それでいい。毎日一緒にいることが友情だと思っていたあの頃とは違う。離れていても友情は続く。それは時が経ってみないと、わからない。

明日、仕事だからと、一人、また一人と芝を払い立ち上がる、
夜明けの雲の隙間に張り付いた、朝星を見上げながら。
この街を離れてから今日まで、心のどこかに空いていた穴を、
すっかり埋められたよ。またいつか帰るよ。
元気で…元気で…

コブクロ「同じ窓から見てた空」
作詞作曲:小渕健太郎

 卒業して一生会わないひとがいて、何年経ってもあの日に戻れるひとがいて、それもきっとご縁なのだろう。どうか、そのご縁を大切に生きたい。

 3年前、わたしが見た彼女たちは、元気だろうか。あの時18歳ならば、今はもう20歳を超えていることだろう。
 あのふたりがどこかで再会して「元気?最近どう?」なんて話をしていたらいいなあ、と思うのだった。

画像5


あの日の思い出とあの日の写真


▽コブクロの新曲「卒業」合唱ver.

▽コブクロ「卒業」レコーディング映像

▽コブクロ「同じ窓から見てた空」


いつもお読みいただきありがとうございます💓 頂いたサポートは、写真活動費に充てさせていただきます🌸