江古田リヴァー・サイド36

#小説 #江古田


 「むぅー!」と、仁美と玲さんがふくれっ面で無言の抗議をする。

 とりあえずの冷静を取り戻したヨージが、尹さんに尋ねる

 「あの尋常じゃない再生数、アレはどういうカラクリなんだ?

 いくらコンテンツが『良質』であったとしても、たった一晩で集められるアクセスには限界がある筈だ。

 …まぁ、ロクなやり方じゃないんだろうけど。」

 『鷺沢さんの思う「まっとうなやり方」っていうのが、あなたの好きなド正面の正攻法の事なんだったら、まぁ、そうじゃあないよ。

 言ったろう?キーワードは「オッサンホイホイ」だ、って。

 この国で、薀蓄語りや「祭り」がしたくてたまらない団塊Jrが一番多く集まる場所といえば、もうあそこしかないでしょ?』

 あー…なるほどな。

 「2ちゃんねるの各板を絨毯爆撃...ってトコか?」

 『惜しい!でも大体あってる。実際、2ちゃんの各板爆撃は行ったけど、ソレにプラスして坂田龍二キョージュと贅少の小星さんに直メして映像見せたらURL入りでツイートしてくれて、2時間でバズった。今朝起きたら20万アクセス超えてたのはさすがに想定外だったけどね。

 昨夜の段階で個別スレが立ってたし、主要なまとめサイトでも紹介されてる。

 初動としてはまずまずじゃないかな。』

 はぁー…と、ヨージは深い溜息をつく。

 オレも、ヘナヘナと座り込んでしまいたい気分だ。

 昨日の夜までとは、オレ達、特に仁美と玲さんを取り巻く世界は、大きく変わってしまっていた。

 きょうび、ミュージシャンがメジャーデビューしたからといって、即・翌日から有名人、というワケではない。

 どの業界にも、"無名のプロ” なんて、掃いて捨てるほどいる。

 特に音楽業界は、その傾向が強い。

 だが、一方で ”有名な一般人” というのもまた存在している。

 無名なプロと、有名な一般人では、有名な一般人の方に軍配が上がるのが現代だ。

”ユーチューバー”と呼ばれるyoutube上で活躍する有名人達と同じパフォーマンスを、一発目の動画からいきなり叩きだしたのは、大型掲示板とオピニオンリーダー的なアルファツイッタラーの拡散力、そしてエロとフェチ心に訴えたトコロにあるのだろう。

 なんにしても、もう動き出してしまった。

 突き動かされてしまった。

 腹を括れーーーー

 尹さんが言った言葉の意味が、今更重くのしかかってきた。

サポート頂けましたら、泣いて喜んで、あなたの住まう方角へ、1日3回の礼拝を行います!