幽霊は居場所を求めて彷徨う②

こんにちは。今回は↓の記事の続きの話です。

半ば強引に水泳部に勧誘されたことを言い訳に、入部して2か月後くらいから友達と共に部活をサボるようになる私。

その後どうなったのか、今回はその続きになります。


居場所ⅰ

入部してから、私と友人は不満たらたらで練習に参加していた。
「強引に勧誘された」「自分は他の部活も見学したかった」と。

「やらされている」感がぬぐえなかった。

そうして消極的に部活に参加していると、モチベーションは下がる一方で、泳ぐこと自体に楽しみを見いだせなくなっていた。

部活では毎日計5kmほどの練習メニューをこなす。
ついていけない新入部員は少なくなかった。

そんな私たちは、授業後の任意参加の講習等を言い訳にして部活を休むようになった。

授業後の講習が終わった後でも参加できる時間はあったが、隙間時間まで練習しようとは思えなかったのだ。

ーそうして休んでいるうちに、部内に私たちの居場所はなくなっていた。ー

いくら鍛えている先輩でも、練習終わりはヘトヘトになる。
練習の厳しさは誰よりも知っている。

それに3年間くらいついてきた先輩だからこそ、当然そんな私たちを、良くは思っていなかった。

そしてその感情は、部活動に顔を出した自分たちを見る目や態度からヒシヒシと伝わってきた。

「肩身がせまい」
当然の結果だが、素直にそう思った。
そして同時に私と友達は居場所を求めるようになった。

ー見つけた居場所は、部活をさぼりがちな同期の輪の中だった。-

そんなサボりがち同期が集まるlineグループを作った私と友達は、
「今日練習行く?」「俺は今日行かない」「おけ、俺もやめとく」
という具合に負の相乗効果をもたらし、更に部活に顔を出さなくなった。
赤信号みんなで渡れば怖くないとは、まさにこのことだ。

こうして私たち新入生は、サボりグループと真面目に参加するグループに分かれたのだった。


想像力

ー水泳はとても孤独なスポーツだ。ー

私の入った水泳部では、練習中声を出す文化があった。
運動部ではよくある話だが、私にはいまいち理解できなかった。

泳いでいる人のペースに合わせて声を出す等、自分が泳ぐまでの待機時間は常に声を出し続ける必要があった。
また、その声が小さくなると、顧問の先生に注意されるのだ。

「水中では聞こえないというのに」

私には「部活中は部員同士で声を掛け合って鼓舞し合う」という運動部の暗黙のルールを、ただ守っているようにしか思えなかった。


ある日私が一人で部活に顔を出すと、一人の先輩に呼び出された。その日は雨で、学内で筋トレをする「陸練習」の日だった。

まあまあ歩いたと思う。校内でも人が少ない場所に向かって歩いていることが分かると、怒鳴られ叱られる想像をして身体が委縮した。

ー実際は、そんな予想は見当違いだったのだが…。ー


「君は、人数が少ないときの部活動の様子を想像したことがあるか?」

先輩は立ち止まると、ぽつりと聞いてきた。
予想外の質問に私の思考は停止し、「ありません」と答えた。

先輩はヒントを出すかのように、質問とは少しずれた話を始めた。

「水泳はとても孤独なスポーツだ。水中では音が聞こえなくなる。いくら外で仲間が応援してくれても、水中まで声は届かない。聞こえるのは息継ぎの時くらいだ。」

「だからこそ、声を”出し続ける”ことが大事なんだ。息継ぎの時だけでなく、水中にもぐっている間も、仲間は応援してくれているはずだ。この信頼が自分たち選手に力をくれるんだ。」

「だからこそ、応援する側は選手の息継ぎのうち、一回でも無音にしてはいけない。一人にしてはいけない。だから僕たちは声を出し続けている。」


視界が広がる感覚がした。
同時に、私の視野の狭さを思い知った。

人数が少ないときの部活動の様子を想像したことがあるか?
この質問の意図が分かったような気がした。

私たちサボりグループが練習を休み、家に帰っている間、プールはどんな感じだろうか。同期は何人で練習しているのだろうか。選手には、何人の声が聞こえているのだろうか…。

先輩は結局、質問の意図や答えを言わなかった気がする。
この話の印象が大きく、自分が忘れているだけかもしれないが。


恩返し

今思い返すと私はかなり恵まれていたと思う。
特に、何か大切なことに気づかされる機会に。

部にはマネージャーが二人いた。

マネージャーは基本毎日顔を出し、部員の記録をはかり、合宿などで使う宿を手配するなど、事務的な作業から選手のサポートまで幅広く部活を支援してくれていた。

私は当時それを「マネージャーの役割だ」と考え、当たり前のように享受していたのだった。

7月、ある日の部活終わりこと。
先生は部員を集めて話をし始めた。
その時もたまたま私は部活に参加していた。

「マネージャーは、水泳部員なのに泳がずに選手のサポートをしてくれている。選手よりも長い時間、この部活について考えてくれている。受験勉強や遊びに使える時間を費やしてまで…。それは、当たり前ではないからな。」

「そんなマネージャーの行動に対して、選手は何で応えるべきか?」

「それは、感謝の言葉と結果しかない。」

この時はまだ、この言葉の意味を理解しきれていなかったと思う。
しかし、単純に、「応援して支援してくれている人のためにも、自己ベストという結果で応えなければ」ということは理解できた。

先輩と先生からこれら二つの話を聞き、私は部活に参加する頻度が徐々に高くなっていく。の、だが…。



今回はここまでにします。あと1か2個の記事で完結する予定です。


おまけ

「わたしはね、人生って優しくなるためにあるんだと思っています。
昨日のわたしよりも、今日のわたしがちょっとだけやさしい人間であればいいなと思いながら生きています。」

鴨志田一『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』より

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


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