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私は拗らせたマザコンで、それなりにファザコン #1

この正月の宴のあと、父が心筋梗塞で倒れて、いま入院している。
大晦日から姉宅に泊まり、明るく年を越して、元旦も2日も娘たちが揃り、親戚の子たちがかわいい彼氏や新妻を連れてきてもくれて、おおいに楽しく食べて飲んで、3日の未明に救急搬送された。
医師の姉いわく、透析患者のアルアルらしい。

去年の7月にも心筋梗塞の発作で入院していたので、今回も心臓のカテーテルを実施してもらったようだ。来週にもう一度手術をする。
父の血管はガチガチで、広げようにもなかなか広げられない状態のようだ。

少しずつお別れの時間が近づいている、と姉から話もあった。

生きていると、一瞬で数秒前とは違う世界になることがある。
数秒前まで呑気にテレビを観て笑っていたのに、一本の電話によって、瞬間的に世界が色を失うような出来事というものが。
たとえば去年、父がグレープフルーツを毎日4個を一気食べし続けて、心停止しかけていると電話をもらった時も、そうだった。


時間はいつだって不可逆的であるけれど、戻れないというよりも、時間の流れを断ち切られたような感覚とでも言おうか。
そういう出来事を、これまでにも何度か体験してきた。
きっと父に何かあったその時、わたしはまた経験するのだろう。
いくら覚悟をしていても、これまでのものよりインパクトが大きいような気がしている。

父は40代前半で糖尿病になり、節制などせずにやってきた。7年前には人工透析もはじめた。
ずっと、「あと5年も生きられているかどうか……」と思いながら、ここまで来た。なので、父の死はわたしにとってまあまあ親しいものであったと思う。
それよりも、あれほど死と程遠いと思っていた母が、病気が見つかってから一年足らずで逝ってしまった。
それでも不思議なもので、母の死よりも、父のそれのほうが、わたしにとって大きな衝撃になりそうだと考えている。
なぜだろうか。


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母のことは大好きだが、かなり迷惑もかけられたから、正直、どこかホッとしたところもあった。もちろん寂しい。でも、悲しくはない。むしろ、母との素敵な思い出だけを手元に置いて、いつも撫で、愛でることができるから。
いっぽう父は、自分勝手で相当な変わり者であるものの、愚直なまでに一生懸命働き続けて、ひたすらわたしたち娘への愛情を惜しみなく伝え続けてくれた存在だ。
母がちゃぶ台をひっくり返すことをすれば、その片付けを娘たちがさせられるのだが、父はというと手伝いもせずにいつもと同じように働きに出ていって、だけどいつのまにか新しいちゃぶ台を用意してくれていた。
そういう人をわたしは、どう見送るだろうか。まだわからない。

とはいえ、いつか等しく訪れる、大切な人とのさよなら。
それを避けることはできない。
こうして、心算ができることは幸せなことでもある。

だから、しばらく父のこと、母のことも、備忘録として書いていく。
ちょっとしたファミリーヒストリーになれば、息子たちにとっても自分たちのルーツを知る何かしらの手立てになるかもしれない。

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(左から、父、次女、祖父。いつかの元日)

父と母が結婚することになったのは、河豚の縁だ。

父の家は、鮪と河豚の卸をしていた(数年前に水産業は畳んで、三女が跡目を継いでいる)。父の祖父、わたしのひいお爺さんという人がリアカーからはじめたのが創世記。
父の父、つまりわたしの祖父が時代の流れにも乗って会社にして組織も大きくした二代目の隆盛期。一時期は長者番付に載っていたというくらいの財を築いた。
父は三代目となる。
四人兄弟で、姉と弟2人。長男ということもあって、父親から溺愛されてきたようで、何歳になってもぼんぼん気質が抜けないような人だった。さすがに辛酸の多い人生を経て、眉間の皺が深くなったが…。
まあ、そんな父が23歳の時、縁談の話が来た。河豚の産地である下関の業者の人から、長門のほうに気立のいいお嬢さんがいるというのだ。
それが母である。どんな娘かと祖父が会ってみたところ、いつもニコニコしていて飾り気もなく利発な感じもある。祖父のほうが一目惚れし、息子との縁談を進めたらしい。

父いわく「ジョディーオングのような美人な彼女がいたんやが、おやっさん(関西での『親父さん』)にそんなもんあかん、長門の娘さんと結婚せい、と言われて、しょうがなく美人な彼女と別れたんや」とのことだ。
こざっぱりとした母と、魅せられてジョディーオングとでは、対局に位置するだろうに、父の振り幅もなかなかのものだ。

(父と母が結婚編へと続く↓こちらから)

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