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エッセイ「しゅうまつの話」

終焉することの魅力

年末の雰囲気が好きです。仕事やら帰省やら、イベントが色々あって忙しいのはいただけませんが、12月終盤の日付の字面に、たまらない魅力を感じます。

たとえば12月20日であるとか,12月26日とか、2ケタ月2ケタ日の面構えから、重々たる貫禄を感じませんか。(そうですか、感じませんか。僕は感じます。)暦の中で最も数字の大きい「12月」の、更に月の中で数字の大きな20台にも差し掛かってくるとなると、「いよいよだな」と思います。12月30日や31日などはもう別格ですね。大御所です。これまで経てきた4月3日だとか7月15日だとかの若いナンバーを一身に背負ってなお、びくともしない風格を帯びています。

年末年始にまとまった休みを取ることが出来る人が多く、世間もお休みムードに入ることも大きいのでしょうが、こうした日付の面構えを見ていると「いいことも悪いこともあったけど、やっと1年の総決算が出来るな」という安心感を得ることが出来るように思います。1年間休まずに積み上げて、せっせと運んできた2月20日とか、9月7日とか、11月1日とかを、「よっこいしょ」と下ろすことが出来る。そういう安堵のように思います。「ああ、長かった1年もやっと終わるなあ」と、僕なんかはいい意味で溜息をつくことができるのです。

それにひきかえ、1月1日の憂鬱といったらたまったものではありません。せっかく頑張って12月31日まで積み上げていったのに、また1月1日なんていう軟弱な日付からやり直しになってしまうからです。

「なんで終わったのに、もう一度始まってしまうんだ!」とやり場のない憤りすら覚えます。

サタデーナイトはフィーバーするだろう

これまでの話にピンとこない人もいるかと思うので、もう少し話をミクロにしてみましょう。

1週間のサイクルを思い浮かべてみてください。月曜から金曜まで学校に行ったり働いたりして、土日が休みの人が多いのではないかと思います。金曜日が12月にさしかかったところで、土日がまさに年末である、というイメージです。週末は、嬉しいですよね。週末は嬉しい。すなわち、終末は嬉しいのです。

一方、月曜は憂鬱です。なんで先週、月曜から金曜まで様々な仕事に勤しんだというのに、また月曜日が来るんだ!と憤りますよね。月曜日は年明けです。簡単に言うと、そういう感覚です。

2000年、2001年あたりからなおつらい

僕特有の感覚なのかどうかわかりませんが、同様の理由で2001年からは気の遠くなるような徒労感に苛まれています。21世紀に入ったからです。(あるいは、2000年を迎えたからです。)

90年代の世紀末の雰囲気は、個人的にはとても心地よいものでした。これまで僕が力説してきた感覚に共感してくれた人は、なんとなく世紀末には無意識に「やりきってしまえばなんとかなるぞ」「一区切りつけられるぞ」という感覚があったことは、わからなくはないのでははないかと思います。(そうですか、わかりませんか。僕はわかります。)

90年代の何がすごいかというと、「1900年代の終わり」と「20世紀の終わり」という、二重の終末を経験できたところです。この一息つきぶりはなかなか味わえないことだと思います。

ところがミレニアムを迎える、あるいは更に1年経って21世紀を迎えると、せっかく1世紀積み重ねてきたのに、また1から時代を作り上げていかなければならない(ような気分になる)のです。結局、「(わかっていたことではあるけど)えっ、まだ続くの」という心持ちになるわけです。

いまが2020年ですから、一週間の感覚でいうとまだ月曜日から火曜日にかけての晩ということになるのでしょうか。週末を迎えるにはまだ、火曜日、水曜日、木曜日、金曜日が残っています。スケール感こそ違いますが、途方も無いですよね。

エンドレス1週間(1年)(1世紀)

もちろん、実際に時がループしているわけではなく、時間は直線的に進んでいるわけですから、このような感覚になるのは論理的にはどう考えても間違いなのですが、数字の与える印象というのは面白いもので、なんとなくそういう気分になってしまうものなのです(あくまで、僕は…ですが)。決して未来にペシミスティックな感情を抱いているわけではないんですけどね。

勉強や仕事が楽しくて仕方なくて、週が明けるのが楽しみでしょうがない人もいるでしょうし、年が明けることで新年に希望を燃やす人もいることでしょう。そうした人達がいることはわかっていますし、健全で素晴らしいことはわかっています。その人達は、決して僕の感覚を理解は出来ないことと思います。そこはまあ、僕のような虚無的な人間もいるのだと、承知してもらうほかないですね。

そういうわけで、どういう形かは(自分でもよくわかってないので)明言できないですけれど、僕個人は「はやくしゅうまつが来ないかなあ」と、日々心待ちにして過ごしているわけです。

なんだか今回は陰気な文章になってしまいました。いつか、前向きな話が書けたらいいなと思っています。

2020年5月5日


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