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小説「光の物語」第62話 〜悲報 2〜

「ナターリエ様、明日は王子ご夫妻がこちらへお見えになりますよ」
「お二人がここへ・・・?」
アーベルからの知らせはナターリエにとって思いもかけないことだった。
王子と王子妃が自分に会いにくるというのだろうか。いったいなぜ・・・?


マティアスの前で意識を失い、王立修道院へ運ばれた日、目を覚ましたナターリエは事態がつかめず戸惑うばかりだった。
修道院の監督でマティアスとも親しいアーベルは、そんな彼女をあたたかく世話してくれた。
説明されるうちにこの場所やアーベル、そしてマティアスが何者かということも理解した。
王族の一員たるマティアスの前で失神してしまったとは・・・と恐縮するナターリエを、アーベルは優しく笑い飛ばした。


母親の監視と叱責のない環境で穏やかに過ごし、ナターリエの心身は少しずつ落ち着いてきた。
静かな暮らしに慰められ、家出をした日の恐ろしい記憶も徐々に薄れていった。
ずっとここにいたい・・・彼女はそう感じるようになっていた。
いっそ修道女になってしまおうかとも思うが、両親がそんなことを許すはずもない。
今は一時の休息、いずれはまた母のもとに戻らねばならないのだ・・・。


「ご夫妻ともナターリエ様のことをとてもご心配なさっていたのですよ。わけても王子妃殿下は」
「恐れ多い・・・申し訳ないことですわ・・・」ナターリエは小さくなってうつむいた。
「まあまあ、そんなに深刻にお考えにならないで。妃殿下はあなた様を気にかけていらっしゃるのですよ。お心やすくお話しなさいませ」
とは言うものの、内々に事情を知らされたアーベルはナターリエのことが心配だった。
どんなに打撃を受けることか・・・。


「さあ、今日は何か楽しいことがおありでしたか?アーベルにお話しくださいませ。お庭を散策なさいましたか?」


アーベルは彼女の気を引き立たせるように話しかけ、今後の悲しみにこの少女が太刀打ちできるよう願った。


悲報 3へつづく


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