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短編 少年マティアスのつぶやき 〜光の物語 番外編〜

私の名はマティアス。ヴュルツナー公爵家の長男です。

私の父は国王陛下の末の弟です。
母は大貴族の娘で、政略結婚で父に嫁ぎました。

この両親ときたら二人とも頑固でプライドが高く、私が生まれる前からすでに犬猿の仲だったとか。
そもそも私が生まれたのが不思議ですが、それはさておき。

私は物心つく前から両親の板挟みになり、暗い日々を送っていました。
不仲な両親から辛く当たられ、いびられるという意味不明な境遇です。
全くもってどうしようもない家庭でした。


しかし、世の中には心の温かい方もいるもの。
私の窮状を知った王妃様が、私を王子殿下の学友として王城に住まわせてくださいました。
家柄がいいのを誇ったことはありませんが、王家の親戚ということで話が早かったのはもっけの幸いです。

自分で言うのもなんですが、私にははしっこいところがありましたのでお城の皆に可愛がられました。
それより何より、王妃様と王家の方々のおかげで安心を知れたのは大きいことでした。

さりながら人間の欲望には限りがないもの。
私は、このような生活を生まれた時から送っておられる王子殿下に激しい嫉妬を覚えるようになったのです。

私は殿下のいたずらを王妃様に告げ口してみたり、教師の前で殿下の間違いを大声で指摘してみたりと、情けない嫌がらせをするようになりました。
その他にも、今思えば恥じ入るばかりのことをいろいろしたものです。

私のこうした振る舞いは、よく考えると両親が私にしていたことと似ているようで・・・後々それに気付いた時には我ながらぞっとしました。

しかし当時の私にはそれに思い至る余裕もなく、ただただ衝動的な振る舞いを繰り返していました。


が・・・ある日、気付いてしまったのです。
『王子は、私のしている嫌がらせなど気にもしていないのではないか?』
『というより、そもそも私のことなど眼中にないのでは?』


そんなことは許せません。
私がこれほど頭を絞り、エネルギーを注いで嫌がらせをしているというのに、気にもとめていないだなんて。

頭に血が上った私は、王子に喧嘩を吹っかけようとして・・・
パンチを避けられた拍子に、階段から転がり落ちてしまいました。


目を覚ますと、私は王子の部屋の長椅子に横になっていました。
そして王子は少し離れた机に座り、宿題の本を読んでいました。

私が起きたのに気付いた王子はにこりと笑い、頭を打っているからもう少し休んでいるようにと言いました。
私が仕方なくそこで寝ている間、王子は宿題をすませ、私のために侍医を呼びにやり、次々持ちかけられる用件に対応していました。
そうしながらも時折私に水を飲ませてくれたり、具合は悪くないかと聞いてくれたりするのです。
すべてを余りにもやすやすとこなし、そのことに何の負担も感じてはいないようでした。

私は悟りました。
世の中には、まったく手が届かないほど優れた者がいるのだと。
もはや腹を立てるのすら馬鹿馬鹿しい気分でした。


しかし・・・
これ以降、私の王子に対する嫉妬は鳴りをひそめ、代わりに彼の明朗な気性を好ましく思うようになりました。
自分にはありえない性質に惹かれたと言っていいでしょう。
時には疑うことを知らないのかと呆れたりもしましたが(のちにそれも考え違いだとわかりましたが)・・・それがまた彼への好意に拍車をかけるという不思議な展開になりました。

そして・・・私も王子にならい、少しは人に心を開こうかと思いはじめました。
私には秘密の恋人がいて、ずっと彼女のことを誰かに話したくてたまらなかったのです。
実家の母に仕えている侍女ですが、それは優しく美しく・・・彼女のことだったら一日中でも話せますし、話すなら相手は王子以外にいないでしょう。

恋人のことを友人にのろける・・・想像しただけで、なんとも楽しそうではありませんか。

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