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小説「光の物語」第39話 〜新年5〜

「よい演説だったぞ、ディアル」
御前会議ののち、国王グスタフは息子をねぎらう。
「準備が整いしだい計画を実行に移すがよい。気運が高まっているうちにな」
「はい」
父の言葉にディアルは意を強くし、国王はそんな息子の肩を軽く叩いて励ました。


会議室を出たところでマティアスが話しかけてくる。
「うまくいったな」
「ああ。おまえの協力のおかげだ」
マティアスはただ笑って肩をすくめた。
「あの演説をされては、内心渋っている重臣たちも賛成せぬわけにはいかぬだろう。砲兵隊の再編もめどがつきそうだし、あとは工事の段取りを・・・」

「王子妃殿下はそのように美しいお方ですか」

庭先から聞こえてきた話題に、回廊を歩くディアルとマティアスは話を止めた。
ちょうど柱の影になっており、話の主は彼ら二人の存在に気づいていないようだ。

「ああ。これまで見た中で間違いなく五本・・・いや三本の指に入るな」

話しているのは会議のために各地から参上した諸侯たちだった。早めに王城入りした者は王子妃と会う機会もあっただろう。

「それはそれは。王城にいる間にぜひご尊顔を拝したいものです。ご懐妊はまだ?」
「まだのようだが、王子殿下との睦まじさは評判だから、遠からずそうなるだろう」
「殿下ならきっとうまくやられますな」
彼らは笑い声を上げながらその場を立ち去った。


「おまえならうまくやる、だとさ」
マティアスが笑いをこらえながら言う。
「何をだ。まったく・・・」
ディアルは苦虫を噛み潰したような顔をする。


「まあ、ごく普通の期待だよ。婚礼からそろそろ一年だし、世継ぎの知らせは皆の待つところだしな」
「ものごとが理屈通りに進むなら何も苦労はないよ」
とは言うものの、降誕祭の夜に妻と交した会話を思い出さずにはいられない。
子供を授かることは彼ら自身も大いに望むところだった。


「ちょうどいい。砲兵隊のノイラート隊長は子沢山だから、彼に聞いてみたらどうだ?何か秘策を授けてくれるかも・・・」
ディアルは軽口を叩く従兄弟の肩を小突き、ふざけて逃げ出したマティアスを彼も笑って追いかけた。


新年 6へつづく


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