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小説「光の物語」第11話 〜春 3〜

湖の城は魅力に溢れていた。
王子夫妻の部屋のほかにも、歴代の王妃が使ってきた寝室や芸術品を配した回廊など、興味を引く場所は尽きなかった。
日中は時間をかけて湖畔を散策し、たくさんの水鳥に餌をやったり、ボートで湖に漕ぎ出したりした。
すべての義務から解放された数日間を二人は思いのままに過ごしていた。

一方、到着した日にディアルを襲ったおかしな感覚は続いていた。
彼女といると呆然とするようでもあり、同時に全身が覚醒するようでもあり・・・。
これまで知らなかった感覚・・・けれどそれが何なのか、彼はなかば気づいていた。


「この場所がいちばん好きですわ」
到着した日に見た小さな庭をアルメリーアはすっかり気に入っている。
そんな彼女とともに彼はその小さな庭を何度も訪れた。

微笑みを浮かべた彼女がそばにいて、やわらかなおくれ毛を風に揺らしている。
午後の柔らかな光が彼女の頬にななめに差し込んでいる。
日光の降り注ぐ庭はまるで時間が静止しているようだ。
彼は自分が時の狭間で目眩をおこしている気がした。

彼は花の名を知らない。数えきれないほどの花。ほのかな甘い香り。
そよ風に揺れている。咲き乱れる花が。頭上の木の葉が。
蝶が花から花へ移る。移るたび小さく揺れる。
日ざしが反射してきらめく。緑に、花弁に、あたりを渡るかすかな風に。

彼女は何か気に入るものを見つけては、嬉しそうに彼に話しかけてくる。優しい声。世界で一番美しい声。
すべてが飽和したある瞬間、彼女の手首を彼はそっと取った。
もの問いたげな彼女を憂いをこめた眼差しで見つめ、彼は口にする。
「きみを愛している」


その言葉はなぜだか思いがけなく・・・言葉を失って立ちつくすアルメリーアを、ディアルは優しく抱き寄せた。
「アルメリーア」かすれた声で彼女の名前を呼ぶ。「愛しているよ」

彼の背に手を添えつつ、アルメリーアは動転していた。
私はなぜ驚くのだろう・・・でも、何も考えられない。なにか答えなくてはと思っても、この場にふさわしい言葉はなにひとつ見つからなかった。
「私・・・」
うわずった声で彼女がささやく。

「大丈夫。なにも言わなくていい・・・」彼女の戸惑いを感じ取った彼は言った。
「いいんだ・・・・・・今はただ、こうしてきみを抱かせてくれ」
それだけやっとつぶやくと、彼は目を閉じた。


アルメリーアと同じくらい、いやそれ以上に、彼は心もとなさを感じていた。
これまでだって十分彼女に惚れ込んでいるつもりだった。
だが、今はまるで足場を失って夜空に放り出されたような気分だ。
彼女が同じように感じてくれるかは、わからない・・・もっとうまいやり方があったかとも思う。
たが、どうしても今言わずにはいられなかったのだ。

抱き寄せた彼女の温もりだけが地面につなぎ止めてくれるかのように、彼はその場に立ち尽くしていた。


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