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【読書】 トリツカレ男 いしいしんじ~最高の贈り物~

僕の中でのプレゼントにしたい本。第一位。

いしいしんじ『トリツカレ男』

今回は、いや、今回も一方的な物語への愛情を書かせていただきした。(お付き合い頂けると嬉しいです……)


ピュアなきもち

誰かを好きになるという不思議。

見た目。内面。言葉遣い。年収。地位。理想。

年を重ねれば重ねるほど、相手に求める条件が高くなっていきますよね。

だから、「好きになる」がどんどん下心を帯びて、現実的な理由を求めてしまうのかもしれません。

でも、現実的でもくても、心の思うままに誰かを好きになれる。そんなピュアな気持ちを誰もが持っているのではないでしょうか。

本作品は、忘れていたピュアな気持ちを思い出させてくれる作品です。


あらすじ

 ジュゼッペはトリツカレ男というあだ名で親しまれている。とにかく、何かに取りつかれると、他のことが全く手につかなくなる。
 オペラ、三段跳び、サングラス集め、潮干狩り、刺繡、ハツカネズミの飼育、サンドイッチ作り、虫集め。
 そのうち、喋るハツカネズミと友達になる奇跡が起きた。
 次に、なんにでも取りつかれてきた彼は、異国の風船売りの少女「ペチカ」に恋をした。
 ペチカには辛い生活と事情があった。ネズミの力を借りて、彼女を勇気づけようとするジュゼッペ。
 彼女には病気の母がいて、会えなくなってしまった婚約者がいた。
 彼は、音信不通の婚約者が死んでいたことを突き止め、夜な夜な、婚約者に扮して、ペチカを勇気づけに出かけた。
 体つきも、顔つきも、言葉も変わってしまうほど、婚約者になりきるジュゼッペ。
 雪の降りしきる晩。ペチカと窓の外から話そうとするジュゼッペは酷い熱に侵され倒れてしまった。
 目が覚めると、ペチカが隣にいた。
 次々と彼女の身に起こる奇跡は、全てジュゼッペの仕業だったと気づくペチカ。
 トリツカレ男は、ペチカを幸せにすることができた。
 彼とペチカは今もどこかで幸せに暮らしている。


トリツカレタオトコ

なにかに本気でとりつかれるってことはさ、みんなが考えてるほど、ばかげたことじゃぁないと思うよ(中略)そりゃあもちろん、だいたいが時間のむだ、物笑いのたね、役立たずのごもでおわっちまうだろうけれど、でも
きみが本気をつづけるなら、いずれなにかちょっとしたことで、むくわれることはあるんだと思う                p,29

男の子には収集癖があります……

僕にもありました。植物の種や、チーズの柄付きのふた。虫。ミニカー。今は、本。

他人には理解されない何かにとりつかれてしまうんですね。多くは意味のないことですし、生活のゆくに立つわけでもないのに、やめられない、はまってしまう。

でも、ちょっとしたことでむくわれるのは確かです。

自分の興味や関心を大切にしてもいいんだと、ハツカネズミが教えてくれます。そして、自分だけの世界を持っている人は素敵だと思います。

それは、その人の真剣な表情や仕草。物事へのピュアな愛情を読み取れるからかもしれません。

楽しそうにしている人を素敵だなと感じるように。


小さな世の中で

このひとは大丈夫だ、というような気がなぜかした。このひとは、このひどい世のなかとあまり関わりがないみたい。このひとになら、私の小さな世のなかの話をしたってかまわないわ。             p,136

ぼくは、長い間、人を好きになることを「独占欲」だとしか思えませんでした。

自分の寂しさを埋めるために。知らず知らずのうちに、相手のために何かをしてあげたいという気持ちですら、本当にその人にとって必要なことだろうかと不安になっていました。

ビジネスパーソンならば、契約を取るために。会社の人間関係なら、円滑に業務を進めるため。学校のトイレに連れ立って行く仲間を友達と呼べるか。Instagramにアップするための写真をとるために、付き合っているよう恋人たち。うちの旦那、妻、子どもはとかを見せびらかしたり、不幸自慢したりするための関係。

見渡せば悲しくなってきます。

ただ一つだけ、「ともだちになりたい」とは「あなたと過ごしたい」「あなたのことをもっと知りたい」「あなたと時間を共有したい」というメッセージに思います。

何気ない日常。生産性のない会話。他人がみたら、意味のない景色の中に、

二人にしか分からない「こころの結びつき」がある。

そこは小さな世の中だと、作者はペチカに言わせます。

誰もが抱えてる小さな世の中。その世の中を少しづつ見せあって、入ったりしてみて。

どうぶつの森が人気を博す理由の一つにはそれがあるのかと思います。

そこに有益も無益もありませんよね。

『トリツカレ男』を読んでいると、誰かとつながるということへの、喜びがふつふつと沸き起こってくるのです。


まとめ

この世でいちばんペチカをおもってるのは、トリツカレ男のジュゼッペ、このおれなんだ、ってね                   (p,78)

なにもかもをなげうって一人の人を幸せにしようとすること。

そう思える人に出会えること。

これ以上の幸せはないんじゃないかと思わされます。

ジュゼッペは大好きなペチカの婚約者をバレないように演じます。ペチカの心を温めるためです。

ハツカネズミは、そんなジュゼッぺに胸を打たれます。

好きな人のために、そこまでできるのかと。

でも、関係がなくなってしまうのでしょうね。

その人のためになりたいという気持ち、顧みずに進んでいけるだけの愛情。優しさ。

まるで、この世の素敵なものをすべて詰め込んだスープのような作品でした。

ぼくはまだ、これ以上に幸せな気持ちになれる作品を知りません。




2020年8月24日

【読書】トリツカレ男 いしいしんじ ~最高の贈り物~

taiti

























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