これから

改札口とスマホを行き来する視線。
落ち着いてなんていられなかった。
この改札が私にはどこでもドアにしか見えなかった。
あんなに遠い所にいたはずの二人がこの改札を抜けて出会う日が来た。

ここまで来るのにどれだけの時間をかけただろうか。
移動時間なんてその一部に過ぎず、約束をしたその日から今日この日まで待ちわび続けた。
楽しみとしていた時から今日が近づく毎に胸騒ぎへと変わり、感情は思考回路を惑わせた。

『着いたよ』
彼女からのLINEを開くと辺りを見渡した。
しかし、必死に探す素振りなど見せたくはなかった私は裏腹に眺める様にゆっくりと視線を動かした。
そんな私を彼女は見物する余裕もなく
『あそこに居る』という存在だけを飲み込んだ。
そっと手を振る彼女に近づいて行く一歩が
これほどまでに重いとは。
気持ちの準備なんて出来る時間など無かったのだから。

きっと今まで過ごした時間の中で一番意地を張って彼女へ挨拶した。
緊張を緩和したい一心で。
しかし、彼女も同じく身体は強張り俯きながら笑ってごまかしている。
あんなに早く会いたいと二人で願っていたはずなのに、その場に流れる雰囲気はまるでお見合いでもして趣味を尋ねるかの如くよそよそしい物だ。

二人で歩く街並みを眺めて目に入ったもの全てを口にして話を盛り上げた。
目的地は決まっていて、そこへ行くまでの時間はたかが徒歩10分。
しかし体感時間は30分ぐらいはあっただろうか。たどり着くまでにどれだけ中身のない話題を持ちかけただろうか。

彼女と過ごせる時間には限りがあった。
出会ってから別れるまで6時間。
これが私に許された彼女と共有できる時間だった。
これまでにあった出来事を話してみたり、言いたい事が言えない気持ちを押し除けてみようと模索したり、時間は勝手に過ぎていった。
話題は途切れ、何も語らない時間もあった。
しかし、少しずつ打ち解け合う距離感は時間を使い切った頃に訪れた。

迎えたあの改札で送り出す。
帰るべき場所へと歩みを進める彼女も気持ちとは真逆の行動に複雑な気持ちだろう。
私は予定通り宿に向かい、また彼女とLINEで繋がった。
彼女の余韻は離れることはなく、私の気持ちを昂らせ、達成した念願の後の時間程行き場をなくした感情は彼女へ愛を紡ぐ活字で満たした。

また明日も会える。
明日はもっと話せる。
その次の日も。

考えれば考える程、夢の様な時間の終わりを
自ら受け入れる事を否定した。
その時になれば受け入れるだろうと。

【そして私は恋焦がれた】