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ことばを学ぶクリスマス

ハピホリ!

昔、「もろびとこぞりて」を「もろびとほろびて」と聞き間違える子供が日本中にたくさんいたらしいですが、控え目に言ってディストピアですよね。

「もろびとこぞりて」の日本語詞とJoy To The Worldの英語詞は別物で、直接の翻訳ではないようです。ただ、ちょっと対応するところもあります。

The Lord is come.
主は来ませり。

Lordはキリスト教の文脈では神やキリストを指し、「主(しゅ)」と訳されます。フィル・コリンズのAnother Day In Paradiseという曲でも、

Oh, Lord, is there nothing more anybody can do?

と歌われていました。is comeは自動詞に用いるやや古い現在完了形で、変化が完了してその結果を表しています。一方の日本語ですが、「来ませり」はもともと「来ます+あり」から成り立つ文語表現です。

kimas-u+-ari→kimas-iari→kimas-eri

「あり」は本来動詞ですから、連用形に接続します。このため「来ます」は「来ま」と語形が変化して、この語末に「あり」が付きます。これだと「来ましあり」となりますが、日本語は「子音+母音」で1つの音節を形成する傾向があって、語中での母音の連続は不安定になりがちです。現代日本語の話し言葉で「おまえ」が「おめぇ」になりがちなのもこれに関係しています。このため、iとaという連続した2つの母音がeという1つの母音となって「来ませり」となったわけです。ただし、こうした音韻変化は千年以上前に起こったもので、近代以降の日本語話者には「来ませ+り」という決まりとして認識されています。これが古典文法で学ぶ助動詞の「り」です。

瓶に花を挿せり

伊勢物語

この「挿せり」は「挿してある」という意味です。「来ませり」も「やってきて、ここにいる」という意味になります。これでis comeという英語に対応しているわけです。

Happy Holidays!

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