激レア ステレオタイプが現れた
ステレオタイプとは先入観であり、思い込みであり、固定概念です。思い込みなので、合っている時もあれば外れている時もある。その辺をうまいこと使ったのが、いわゆる「あるあるネタ」というやつなんだと勝手に思っています。
地域性はステレオタイプの根付きやすいジャンルです。宝庫と言ってもいい。中でも往々にしていじられるのが、大阪を中心にした関西の話で、今も昔も、関西出身の人はもちろん、それ以外の人もネタにしています。
大阪出身の友人とテレビを見ていた時のことです。大阪について取り上げる番組だったのですが、そこに出てきたのが全身ヒョウ柄の服をまとった女性でした。ファッションに負けず劣らず自己主張が激しく、カメラを前に明るくいろいろ言っている。それを見た友人は苦笑いでした。「大阪でもあんな人まず見ないよ」。テレビ局側でわざわざそういう方を探してきたのかもしれません。
ステレオタイプは何しろ思い込みですから、事実から離れている時がありますし、事実であってもかなり珍しい場合だってあります。それが分かっていても何故かなんとなく続いているステレオタイプもございます。
例えば、「泥棒」というワードでグーグルの画像検索をすると、唐草模様の風呂敷包みを背負い、ほっかむりをかぶった、今や事実上架空の存在と化した泥棒のイラストが大量に出てきます。
軽く検索したら、唐草模様の風呂敷は明治から昭和にかけて流行したもののため、どの家にもあったそうです。どこにでもあるから当時の泥棒は忍び込んだ家からまずその風呂敷をパクり、そこに戦利品を次々と放り込んでいたそうです。みんな持ってるから唐草模様の風呂敷包みを背負って街中を歩いても怪しまれないと、そういう理屈のようです。
実際に見たわけではないので、当時の泥棒の何割くらいが唐草派だったのかは分かりませんが、モデルとなった泥棒は結構いたようです。それが創作物でも使われ、泥棒の記号として定着した。それがもう本当にしっかり定着しちゃったもんだから、唐草模様の風呂敷が衰退してからも架空の泥棒業界では未だにたくさんいるという不可解な現象に繋がったのでしょう。つまり、ステレオタイプだったものが希少性の高い存在になってしまった。
だから、現在の日本で唐草派の泥棒が街中を歩いていたら、みんな「あ、泥棒だ」とは思うんですが、誰もが半笑いだと思うんです。「ああいうのマジでいるんだ」「コスプレか？」「幻じゃないだろうな」などなど、窃盗犯を見つけたとは思えない反応ばかりするでしょう。私だって唐草派の泥棒を見かけたら、仮にその人がマジでものをパクっていたとしても、レア珍獣を発見したような感動を覚えると思います。
ステレオタイプを見かけて感動する。実は最近もそんなことがありました。朝、最寄り駅のホームで電車を待っていたんです。私の前にはふたり並んでいました。最初は全然気にせずスマホを触っていたんですが、どうもふたりの距離がやけに近い。この距離感はまず知り合いです。事実、そのふたりは時々言葉を交わしていました。
私は何となくスマホから顔を上げました。1組の男女だったんですが、格好に違和感を覚えました。スーツを着ている男性は50代前後で、ビシッと整った格好はいかにも仕事ができそうな感じです。一方の女性は恐らく20代、フワフワのコートを着ていて、髪の色もアクセサリーもネイルも全部が明るい色をしています。ふたりは腕を組んでいまして、勝手な感想で申し訳ないのですが、これは「出社」というより「同伴」です。
やがて、男性のスマホに電話がかかってきました。男性はいかにもお仕事と言った感じの口調で話します。
「申し訳ございません、昨日から出張でございまして……」
誤魔化してるのかマジなのか。確実に言えるのは、こうしている間も男性は女性としっかり腕を組んでいるにもかかわらず、電話の相手にはその事実を一切伝えないところです。女性も黙ってニヤニヤしながら待っている。
これだけでは詳しい事情は分かりません。ただ、私は思いました。「ドラマみたいだな」と。どれとは言えませんけれども、なんかこういう場面、ドラマとかそういう創作物で見るじゃないですか。ベタな浮気現場と申しますか、不貞の王道と申しますか。探偵がコッソリ写真を撮って、裁判の証拠にするみたいなやつです。
そういうそれっぽい光景を初めて見た私、もう唐草派泥棒と出会ったような感動で朝から胸が高鳴りました。彼らは私とは違う電車に乗ってしまいましたが、もし仕事がなかったら、何となく同じ車両に乗っていたかもしれない。どんな会話をしながらどこへ向かっていくのか無意味に調べたかもしれない。それくらいの高揚でございました。
次はぶつかった電信柱に文句を言う酔っぱらいを目撃したいと思います。
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