注目ベルリンスタートアップfoodspringの成功要因を考える
こんにちは、Shootです。
今日は前回紹介したプロテインビールメーカーJoyBräuに続き、ドイツのスタートアップ第二弾です。
ずっと気になっていたベルリンのスタートアップについて調べたので、優れている点を因数分解してみたいと思います。
0. 基本情報
今日紹介するのは2013年にTobias SchüleとPhilipp Schremppによってベルリンで創業されたfoodspring。健康的で機能的な栄養食品を販売しています。
具体的にはプロテインなどトレーニング用サプリメント類やプロテインバーなどのスナック類、Müsliと呼ばれるグラノーラのようなものを扱っています。また、公式サイトでは自社製品を使ったレシピを公開し、トレーニングやダイエットに関する記事など多数のコンテンツを網羅してます。(https://www.foodspring.de/magazine/fitness-rezepte)
洗練されたブランドコンセプトでサイトもお洒落なので興味のある方はぜひ覗いてみてください。
以下で紹介する創業ストーリーは公式サイトを参考にしています。
1. 世界観とこだわり
全ては2013年''egg''の創業から始まりました。当時の目標は、スポーツ栄養を次のレベルまで押し上げること。彼らのプロテインパウダーはオーガニック認証と共に業界にセンセーションを引き起こしました。牧草牛のミルクで昔ながらの構造に衝撃を与え、フィットネス愛好家たちに熟考させるきっかけを与えます。そして今、次の一歩を踏み出す時が来ました。''egg''は''foodspring''へと変わります。指針となる品質、さらなる発展へ。
ベルリンから世界へ
彼らのミッションは全てのプロダクトにおいて新たに始まります。その道を進むためには素晴らしいアイデアが必要でした。純粋な情熱、そしてその分野での最高の頭脳も。それはまさに、詩人と思想家の国、さらには世界で最も食品基準の高いドイツでこそ見つけることができるのです。
イノベーションへの情熱
目標は今あるものより優れていること。効能や材料、シンプルさ、おいしさ、全てにおいてです。これはベルリンの研究所、特許取得済みのプロセス、栄養学者、食品科学者、プロセスエンジニアによって可能になります。そして最後に、あなたは自身を本当に引き出してくれるプロダクトに出会うのです。
世界中の特産品
フィリピンのココナッツ、寧夏の山脈で採れたクコの実、あるいはボーデン湖の大豆。彼らは手付かずの自然環境で存在している場所でのみ、原材料を調達します。そして、世界中で最高の食材を見つけるためにエキサイティングな旅に出かけます。自然が許す限り、フレッシュな原材料にこだわります。
世界からベルリンへ
品質とは人によって違うものを意味します。そのためHACCP、ISO、BIO認証などの認定品質基準が定められています。目標は常にその基準を上回ること。それと共にプロダクトの品質に最適な場所で製造しています。プロダクトの96%はドイツで製造されています。例外として、英国の在来牛から長い伝統に基づいて生産され、手作業で加工されたビーフジャーキーなどがあります。原材料の品質、製造においても一切の妥協をしません。だからこそ、製品のひとつひとつに品質の約束が込められているのです。
成功しているD2Cブランドに共通していることですが、ECサイトではブランドの世界観とこだわりが伝わってきます。それらを強調させる役割を担っているのが、オンラインショップや商品のパッケージの洗練されたデザイン。
持っていること、使っていることが「イケている」という印象を与えることは、商品の質で差別化しづらい現代ではより重要な意味を持つと言えるでしょう。
2. 市場の流れ
2016年6月、スニッカーズやM&M'sなどチョコレート菓子で有名な米食品メーカー大手マースがfoodspring株式の過半数獲得を発表します。
当時従業員はすでに130人働いており、売り上げも同年3月の時点でを3000万ユーロ超えていました。そのうち50%以上はドイツ国外で、ヨーロッパの特にドイツ語圏で利益を得ています。
買収後は健康食品を扱うマース・エッジの独立子会社として、foodspring創業者は経営を続けていきます。
マース側にとっては、このドイツスタートアップの統合は健康セグメントの強化に繋がり、foodspringは米ジャイアントのリソースを用いて更なる事業拡大を目指します。
ここからわかるのは、現在のトレンドが健康志向であるということ。高カロリーのチョコレートで有名なマースは約3年前に健康食品にフォーカスしたマース・エッジを設立。両者の利益がちょうど重なる形で今回のExitは成立しました。
ちなみに、foodspringは2018年にも総額2200万€の大型資金調達を行っています。そのラウンドのメイン出資元はニュージーランドの大手食品メーカーフォンテラグループでした。この出資はフォンテラが新たに開始したベンチャー投資の一発目です。
大企業が出資先を探しているタイミングに合わせて、売上を伸ばせていたこと、さらに適切なドメインであったことが大きな成功要因と言えるでしょう。
foodspringのExitに関しては以下の記事で詳しく取り上げているので、興味のある方はご覧下さい。
3. 3つの注力ポイント
これまで集めたインタビューや記事情報によると、今後さらに注力していくのは以下3点のようです。
①セグメントの拡大
創業者はインタビューの中で、創業時から現在に至るまでにコンセプト変化があることを認めています。
最初はスポーツ栄養のニッチを抑えることに注力し、現在は少しずつターゲットを広げ、コンディショニングや健康生活という領域からも売り上げを見込めます。
ここで注目すべきはまずはニッチを抑えており、現在は幅広い商品展開をしていることです。従来のサプリメントやプロテインバーに加え、プロテインを多く含むピザ生地やパンなどに塗るチョコレートクリームなど日常食品の代替を用意。これにより健康意識の高い非トレーニー層を獲得します。
また、それらの製品を使ったレシピ数を公開しており、より健康を意識した食事の提案をしています。
②国際化
2019年には16ヵ国と国際展開を進めていますが、今後も引き続き市場の拡大を目指します。米国企業マースによる買収でアメリカ進出が注目されますが、まずはヨーロッパに集中すると創業者は述べています。
③販売チャネルの拡大
②の国際化に伴って、オンラインショップの展開を広げることは必須です。しかし、それ以上に注力しているのがオフライン店舗だと言います。具体的にはドラッグストア、スーパーマーケット、またフィットネススタジオやガソリンスタンドとも非常に相性が良いです。ドラッグストア大手のDMではすでにトップセラーの仲間入りを果たし、スーパー大手のREWEでも2019年から販売されています。
4. 経営に関して
ここでは、創業者がインタビューの中で答えている経営に関することをピックアップします。
・まずfoodspringの事業に関して
付加価値のある高品質な食品を開発・販売しています。私たちの目標は、常にお客様をより快適に、より幸せに、より生産的にすることです。例えば、バキューム新しいプロセスで果物を乾燥させます。その結果、カリカリで美味しいドライフルーツになり、少なくとも1.5年間は長持ちし、ビタミンの80%が含まれています。これは外出先や自宅に何も生鮮食品がないときに最適です。
・ビジネスモデルはどのように機能するのか?
最初のステップでは、私たちは新しい顧客を獲得し、特にブランドと当社の製品としてのfoodspringの品質とサービスを通じて顧客を説得します。これらの顧客は通常私たちに忠実であり、定期的に購入します。このようにして、コストのかかるパフォーマンスマーケティングなしで買い戻す忠実な顧客ベースを構築します。これは、時間とともに増加し続ける成長と収益性の両方で私たちを助けます。
徹底して顧客ロイヤリティを高めることで、マーケティングのコストをかけないのが特徴。薄利多売ではなく、他のブランドと比べてやや高価格帯のものを販売。その品質とサービスの高さを通して、世界観に共感した顧客はLTVも高く、エヴァンジェリストとしての役割を担うこともあります。
・会社の規模について
一部の読者はもはや私たちをスタートアップと呼んでいないかもしれません。ただし、私たちは、特に私たちの仕事のやり方を通じて、スタートアップの精神とその強みを維持したいと考えています。常に現状、高度な個人的責任、そして一歩先を行く意志に疑問を投げかけています。私たちの意見では、これは正確な名前よりも重要です。
日本語風に言えば当事者意識でしょうか。スタートアップの精神を大事にしています。
・強みとは?
実行は確かに私たちの強みの1つです。私たちは通常、私たちが着手したことを迅速かつ効率的に実行します。これが違いをもたらすことをロケットですでに学びました。
上述のスタートアップ精神に関連して、効率的でスピード感のある実行に強みがあります。また、Philipp Schremppは元ロケットインターネットのマネージャーであることもアドバンテージに違いありません。
※ロケットインターネットはベルリンに拠点を置く、オンラインビジネスのスタートアップインキュベーターでこれまで50ヵ国、100社以上のスタートアップ立ち上げ実績があります。
まとめ
端的にまとめると、成長市場へ大企業が投資先を探している適切なタイミングで既に売上拡大を証明することができ、その資本と共にさらなる急拡大を成し遂げます。その背景には、洗練されたブランドコンセプトがあり、それに応じたアプローチで根強い顧客を獲得してきた創業者の戦略がありました。
欧州という立地と国際展開のしやすい商品であるという前提で、資金調達を効果的に行えたことは注目に値するでしょう。
とは言え、資本力勝負では分の悪いスタートアップとして、利益率の低くない商品でまずはニッチから抑えてファンを獲得していく王道スタイルであったことは忘れてはいけません。
消費者目線で言えば、人は何かを購入する際にその理由を探します。例えば、栄養価の高い材料やこだわりの製造方法などその数が多いほど、購入しようと自分を納得させ、さらには人に勧めたいと思うのではないでしょうか。
これまで調べてきて、ファン獲得は、市場×マーケティング×共感で成り立つのではないかという仮説を立てました。
市場で将来的にターゲットとなりうる母数が決まります。新興企業と大企業で最も差が出るのがマーケティングの部分。当然、資金力があるほどリーチできる数が増えます。それは施策の手段、規模、頻度、継続期間に差が出るためで、その差を埋めるため金額に比例しないマーケティングハックが考案されます。一方で、幅広い商品展開をしているブランドよりも、軸となるコンセプトと共に限定的な分野に特化しているブランドの方が共感されやすい傾向があります。
つまり、スタートアップ企業は市場と共感の部分を最大化することが理論的には最も効率の良い戦略です。
それゆえにD2Cと呼ばれるモデルが特に米国で注目され、ある一定の規模までは、実店舗というチャネルが少ない状態でも急拡大できたのだと思います。今回取り上げたfoodspringも大方これに当てはまり、市場と共感の部分を優先的に最大化し、次のフェーズとして国際化、オフラインチャネルを拡大していくと明言しています。
最後に、情報はドイツ語で集めたため不自然な言い回しがあるかもしれません。また、主張の大部分が主観に基づいているので、ご意見ある方はコメントいただけると幸いです。
それではまた!
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