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手紙との想い出

母と喧嘩ばかりしていた。
中学から高校までの間は、会話がない時期もあった。
反発を繰り返していた。

大学に進学。一人暮らしをはじめ、
母と顔をあわせることがなくなった。
けれど、寂しいなんて、
これっぽっちも思わなかった。

5月。母の日。
手紙を書こうと思った。

母との関係は、まだわだかまりが残ったまま。
だからこそ、全部ぶつけてみようと思った。

もちろん感謝もある。

私が選ぶ道を1度も否定せずにいてくれたこと
やりたいことを、そっと支援してくれたこと
「すごいね」とたくさん言ってくれたこと

顔が見えないからこそ、
素直になれた。

ところで私は、中学2年生のときに万引きをしている。
もっと私を見てほしい、そんな想いから
スーパーでお菓子を盗もうとした。

店員に見つかった。
父親が迎えにきた。
帰りの車内は無言。

帰ったら怒られることを覚悟した。

けれど怒られなかった。

翌日、家族が揃う朝のリビング。
怒られると覚悟した。

けれど怒られなかった。

昨日までと同じ毎日が始まった。

“なんで?私、万引きしたんだよ?”
何もなかったかのように扱われて、
私はいないのと同然なのだ、と受け取った。

そこから5年間、
「万引き」という単語が家で響くことはなく
私もざわっとした気持ちとともに経験に蓋をした。

手紙で、このことを聞いてみようと思った。

「私が万引きしたこと、どう思ったの?
なんであの時、何も言わなかったの?」

2ヶ月がたっても返事はこなかった。

7月。ようやく手紙がきた。
分厚い封筒。

たくさんのごめんね と
たくさんのありがとう。
ところどころ文字が滲んでいる。

万引きについての返事はこうだった。

「あなたは賢い子だからことの重大性は
わかっていると思ってたから、
だから何も言わなかった。
それよりも、お小遣い少なかったかな、とか
負担かけたかな、とか心配になった。」

母なりに考えてくれていたらしい。

あの時そんなこと考えてたんだね、気づかなくてごめんね。
こんな環境なのに、まっすぐ育ってくれてありがとう。

私の涙も重なった。

この手紙のおかげで私は
5年のわだかまりをほどくことができた。

手紙だからこそ、素直になれる。
手紙だからこそ、想いをのせられる。

私と手紙との想い出。

私は今日も手紙を書く。

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