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「チェアリング / ウォーキング以上ソロキャンプ未満」

チェアリングという言葉をご存じだろうか?自分もつい最近この言葉を知った。チェア(椅子)に座る(ing)という意味合いの和製英語であり、持ち運べる軽量の折り畳み椅子(主にアウトドア用チェア)に座って、自分の好きな場所(野外)で酒を飲むというのが「チェアリング」の始まりだという。一番敷居の低いアウトドアアクティビティーとして、1~2年前からテレビ等でも取り上げられている非常にニッチな分野の趣味である。コロナ過で1度目の緊急事態宣言が出た4月頃、自宅のベランダにテントを張ってアウトドア気分を楽しむ「ベランピング」というものが注目された。ステイホームしながらキャンプできるという、なんとお手軽で素晴らしいアイデアなんだとひどく関心した。よーし、俺も家のデッキにテント張ってやってみよう!と試してはみたものの、なにせ狭いデッキにテントを張るともう空間的容量がいっぱいいっぱい。しかもそのデッキは洗濯物も干すし、エアコンの室外機が2台も設置されている超過密スペース。洗濯物が干されている時間はテントを張れず、室外機の音と風が「どこかの飲食店の裏」感を勝手に演出してしまい、数回やって心折れフェードアウトした。

キャンプは敷居が高い

ではデッキではなく本当にキャンプへ行けばいいじゃないか。ということで近場のキャンプ場を探して回ったのだが、どうもしっくりこない。キャンプって道具が多くて準備と撤収がある程度面倒くさい。自然の中でその「不便さ」の過程を楽しむのがキャンプの醍醐味なのは重々承知しているつもり(筆者は南米のパタゴニアで数日間野営しながらトレッキングした経験あり)だが、今さら面倒なことはもうしたくないからたぶん数回やってフェードアウトしそうだと感じた。そして、キャンプの一番の違和感は「キャンプ場という決められた場所でお金を払ってキャンプさせてもらうということ」だ。他のキャンパーやグループでBBQする人々が集う局地的なエリアでキャンプしなければならないということ。このシステムには正直グッとこなかった。やはり自分だけの気に入った場所を探し出し、そこでキャンプしたい。とは言うものの、やはり現実問題としてこの国でそれをやるのは簡単ではないということがわかった。山を買って誰にも干渉されずにキャンプを楽しむ人まで出てきたらしいが、気持ちは痛いほどわかるなあと。そうこうしているうちに冬になり、グッとくる「何か」を見つけられないまま時間だけが過ぎたころ、突然事態は大きく動いた。そう、「チェアリング」との出会いだ。

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入り口はステイホームでの運動不足解消

もともと自分の会社はコロナが始まるずっと以前から好きな場所で好きな時間に仕事をするシステムを採用している。出勤は週に一度だけ。それ以外はリモートワークが基本だ。在宅勤務の一番のリスクは1日中家に籠っていることから生じる閉塞感と極度の運動不足。平時であれば、近くのモールに出かけたり気軽にご飯を食べに行ったりして仕事の合間の適度な息抜きができた。だが、「普通が普通じゃなくなった」ウィズコロナ時代は平時のようにはいかない。人との接触を極力避けた外出を兼ねて運動不足解消を手軽にできないか、ということで往復5キロ前後(7000歩程度)のやや遠出の犬の散歩を始めることにした。そういえば学生の頃、バックパックでアメリカやヨーロッパを周っているとき、地球の歩き方に載っている小さな地図だけを頼りに街中を歩き回っていたことを思い出した。交通機関をあえて使わず、自分の足を使うことでしか発見できない景色や人にたくさん出会えた。そうだよ、俺、昔は歩きまくってたじゃん。そんな懐かしい感覚に想いを馳せながら、意外と知らないご近所界隈を歩き回ること30分、出会いは突然やってきた。なんと自宅から歩ける場所に「グッとくるポイント」を見つけてしまったのだ。その場所は誰でも気軽に散策できるよう土地の所有者の協力を得て市が管理する武蔵野の面影を残した広大な原生林だ。森の外の市街地の雑音が完璧に遮断され、旧軽井沢あたりの誰もいない静かな森の奥にお手軽瞬間ワープできる空間。俺が求めていたのはこれだよこれ!こんなクールな場所でちょっとゆっくり座って暖かいコーヒーやスープでも飲みながらまったりできたらいいじゃん!お手軽で運動もできてサイコー!ということで、早速家に帰って散歩に持っていける椅子と森で暖かい飲み物を飲める方法をネットで探すことにした。

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軽いは正義

道具選びをする際に一番大事なことは、その道具を使って何をするのかという本質的な部分がブレないことだ。ネットでギアをポチる前に、まずは目的をクリアにしておく。

・5キロ前後(7000歩以上)を歩き、220カロリー程度を消費すること。

・グッと来る場所をゴールとし、その場所で持参した椅子に座ってコーヒー やスープを飲んでまったり(チルアウト)すること。

・ローコストでシンプル、お手軽にすることで持続性を持たせること。

以上3点をプライオリティーとし、道具選びを始めることにした。まずある程度の距離を歩くということが前提なので、持ち歩くものは徹底的に軽量化されたものを基準に選んだ道具は3つ。500mlペットボトルと同じくらいの重量の超軽量折り畳みチェア(ヘリノックスゼロ)とお湯を入れる魔法瓶(スノーピーク)、そしてそのお湯でインスタントスープを飲むためのマグチタンカップ(スノーピーク)。この3つの道具さえ持っていれば、最低限事足りると判断した。

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グッと来る自分だけのポイント探し

道具が揃ったら、あとはチェアリングする場所の選定だ。自分の住む街は都心まで電車で1時間程度の通勤30キロ圏だ。武蔵野の最北端に位置し、都内に無理なく通勤できるギリギリのライン(都内からもっとも近い田舎暮らし)だと思っている。のどかな田園地帯が広がり、武蔵野の農村文化を色濃く残した土地であるから、自宅界隈でチェアリングできる場所も難なく3ヶ所ほど確保することができた。チェアリングポイントの選定基準はシンプルに「グッとくるかどうか」だ。その場所でしばらく椅子に座ってまったりとした時間をすごせるかどうかが一番大切である。運動不足解消という側面から、そのポイントまで往復5キロ前後を歩くことが前提となる。

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さあ、椅子を持って外に出よう

学生時代住んでいたアメリカ中西部では、昼間から家のポーチに椅子やソファーを出して小瓶のバドワイザーを片手にチルアウトしているローカルの姿をよく見かけた。誰かと一緒にというより、むしろ一人でまったりしている感じだ。たぶんあれこそチェアリングの原型なのかもしれない。形はどうあれ、自分が一番落ち着く気持ちのよい場所に座ってまったりする。誰にも気兼ねせず、自分が良いと思う場所で椅子に座ってみる。設営も撤収も楽だからいつでも身軽に移動できる機動性はまさにフリーダム。キャンプは敷居が高いけど、もっと手軽にアウトドア気分を味わいたい。リモートワークでの運動不足を楽しみながら解消したい。道具の購入を最低限に抑えてローコストで持続可能な趣味を持ちたい。ウォーキング以上ソロキャンプ未満。ニューノーマル時代の1人で完結できるアクティビティー「チェアリング」、皆さんも是非試してみてはいかがだろうか。

香川県父母ヶ浜で撮ったチェアリング動画               
“With just one chair, the world becomes your living room.”


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