才能の食い合いと「たりないふたり」

 「サシで一晩呑めば、どっちがハングリーか?みたいな勝負になる」「どれだけ相手から多くの者を得られるか?みたいな勝負」
出典:「音楽と人」2016年6月号

 これはback numberのボーカル・清水依与吏が敬愛するストレイテナーのボーカル・ホリエアツシと対談した際に語った言葉である。こんな勝負の究極体が、先日行われた「さよならたりないふたり」だと思った。

 人と対峙すれば、その人がどれぐらい"できる"人で、自分より上か、下か、直感的に目星をつける。その予想に従って、緊張したり、見下したり、親近感を抱いたりする。これは人間の"性"だと思うし、この直感は案外外れることが少ないなぁと自分は思う。大学生になって、就活やSNSを通じての交流や、様々なタイプの人と交流するようになって、余計にそう思うようになった。
 真正面からぶつかれば、自分より上の相手には「食われる」かもしれないし、自分より下の相手は「食う」ことができる。これもまた確かと思っている。できるだけこの勝負を避けるように、立場やら何やらを使って虚勢を張ったりしてしまうこともある。
 そして、お互い信頼し合えるような相手は、自分と"同格"な相手からしか作れないと思う。食い合ってしまわない相手だからこそ、信頼できるのだと思う。

 「たりないふたり」の若林さん、山里さんにとっては、まさにお互いがそんな相手だったんだと思う。経緯は違うもののお互い怪物タイプの相方を持ち、ネタは自分で100%作り、コンビの頭脳と言われる二人が、「飲み会帰りたい」と言った共通の悩みをキッカケに惹かれ合い、漫才を始める。パワーバランスが50-50の、剛腕ボケにテクニカルツッコミ。お互いが相手を「食ってやろう」と狙っても、食ってしまえない力関係だからこそ、全力をぶつけ合うような漫才が出来るんだと思う。

 そんな2人が、2度の1クールレギュラー+ライブ開催を経て、お互いが立場を上げ、令和きってのMCとして実力を高く評価されるようになり、若林さんが良い恋をして、山里さんが令和の奇跡婚しての5年ぶりの漫才ライブ。しかも打ち合わせなしの即興。
 勿論面白くならないはずがない。若林さんの暴走、山里さんの「最強手札」的ツッコミとそれを見越した若林さんの計算による先回り、山里さんの滲み出た感情、何より楽しそうにボケる若林さんと「立ち続けられれば」と言いながらも負けずにツッコミで食らいつく山里さんという漫才する2人の姿が最高だった。特にホームランを打つ下りは良く出来た形だったし、SMゾーンはくだらなかったし、山里さんの武器の話は熱かった。放送でオンエアされるかもしれないので詳しくは述べないが、結婚発表後の不毛な議論のように覚悟を決めた山里さんの語りはカッコ良かった。即興で80分+おかわりの30分も漫才し続けるなんて、天才的としか言いようがないでしょ。
 まるでライバル関係のような側面もあるからこそ、お互いがぶつかり合って高め合っていく。自分も、本気で才能をぶつけ合えるような「相棒」が欲しいと思った。

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