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売れるアートと画像映え、アーティストのプロモーションについて考える

タグボート主催の新しいアートイベント「アート解放区 EATS 日本橋」が2021年3月19日から始まります。5月9日までの長丁場なのはうれしいですね。

作品の入れ替えは適宜行ってよいとのことだったので、ときどき様子見に行こうと思っています。

18日午前中段階の搬入の様子はこちらです。

17日にほとんど設置は終わっていて、18日はちょっと修正と写真撮影のために寄ったのですが、17日に別の作家さんとじっくり話す機会がありました。

作品づくりのことだけでなく、プロモーションも含めて学ぶところが多かったので、その対話から考えたことをまとめておきたいなと思います。

アート系の記事って検索する人がほとんどいないせいか、他の記事と比べるとほとんど読まれてないんですが、展示を見に来た人や他のアーティストさんには「記事読んでます」と言われることも多くて、業界内だとちょっぴりは気づいてもらってるのかもしれないですね。ありがたいことです。

音は言葉 (1)

オンラインでは画像映えする作品が強い説

そのアーティストさんが言っててなるほどな!と思ったことなんですが、オンラインギャラリーだと「画像映え」する作品が強いんじゃないかという話をしました。

確かに、写真画像で分かりやすくすごい作品と、写真だと良さがよく分からない作品ってあるんですよね。アートコンペやレジデンスの審査も、展示審査じゃない場合は一次審査はだいたい写真とかポートフォリオで審査されることが多いので、写真映えする作品っていうのは、強みと考えることもできます。

ただ同時に、画像映えしてなくても素晴らしい作品はたくさんあって、オンライン化が進むとみんな画像映えする作品ばかりつくるようにならないか、というのはありますよね。どこかでそうじゃない評価方法があって、画像で伝えるのが難しい作品にも光が当たらないと、業界としては画一化してつまらなくなっていくような気もします。

だって、画像映えしたほうが売れやすい、注目されやすい、声がかかりやすいだとして、そういう作品がつくれるんだとしたらそっちばかりを創りたくなりませんか。「そんなんじゃだめだ」って言うことは簡単なんですが、やめちゃう人がほとんどの世界で、アートの多様性をアーティスト個人に丸投げ状態になってしまうとしたら、業界全体としては健全でない気がしますね。

ちょうど近いことを箕輪さんがツイートしてたので、参考に張っておきます。

私がよく使っているサービスで作業中をライブ配信するっていうものがあるのですが。このサービスに最近、撮った映像をタイムラプス動画にまとめるという機能がつきました。

タイムラプスにまとめると、こんな感じになります。

ただ、これもタイムラプスに適した作業ってあるんですよね。タイムラプスが「映え」る作業というか。たぶん、テキストとかだとあんまりおもしろくはないです。なんでかというと、テキストのタイムラプスって誰のを見ても同じ感じになるから。オリジナリティを感じにくいんですよね。

絵とかマンガだとタイムラプスは分かりやすく映えます。出来上がりまでの変化がタイムラプスだと分かりやすいですよね。作曲とかも厳しそうですね。音楽だったら聴けるようにしたほうがいいですし、テキストや作曲の場合、作業をのぞき見る楽しさは「つくってる人の試行錯誤」が見られるところなんじゃないかなって思うのです。

ロシア元

たとえば、小説家になりたい人や、小説を読むのが好きな人がいた場合、村上春樹さんが小説を書いているところとかのぞき見たくないですか? どのくらいの早さで書いているのかとか、どこで悩んでいるとか、推敲はどのくらいやり直してるのかとか、そういうのはとても興味があります。

特に自分もそのジャンルをやりたい場合、どのくらいのレベルの修正や試行錯誤が必要なのかがわかるというのは、自分のクリエイティブの質を上げると思うのです。

私は元が獣医で今はアートをやっているのですが、診療もアート制作も、他の人がやっていることを見聞きして学んでいるんですね。現場から学ぶっていうのは、上達のコツだと思っています。

00:00 Studioではたとえば、マンガ家さんの作画のしかたとかはかなり勉強になっています。トレースのやり方とかパレットをどうカスタマイズして使いやすくしてるかとかですね。たぶん、このへんはもともとアシスタントをしながら身に着けてた流れがあったんじゃないかと思うんですが、デジタル化の流れでアシスタントがそんなに必要じゃなくなった時、プロの技を見て学べる状況があるっていうのは、業界全体を助ける気がしています。

作家は総合力で戦う、とはいえ…

現代だと、作家が自ら発信できるようになってきて、ギャラリーよりも影響力のある個人とかもぜんぜん出てきてますよね。

とはいえ、SNSが得意な作家もいれば、そうでない作家もいます。コミュニケーションがうまい作家もいれば、ビジュアルが良くて「写真映え」する作家もいます。

私は作家は自分の総合力で戦えばいいと思っているので、コミュニケーションが得意だったり、ファッションなどを駆使して見た目を整えられたりするなら、ぜんぜんやったらいいと思っている派です。そもそも私だって、文章で自分の作品を紹介しつづけていますし。

コミュニケーションだって見栄えだって文章だって、生まれた時から全部完璧だったわけではなく、工夫しながらレベルアップしたことだと思うんですよね。努力してもできない人もいるわけだから、それを考えると才能を自ら伸ばしたとも考えられます。

ただ、作品づくり以外のことが上手だと「作品で売れてるんじゃなくて〇〇で売れている」と揶揄されることもありそうな気がするんですね。その声を恐れて強みを封印しちゃうのは違うと個人的には思っていますが。

パサデナ

売れていない作品はダメなのか問題

それと、作品が売れると分かりやすく「さすが売れっ子」と言われますが、そうでない作家や売れなかった作品は「ダメ」なのかと言うと、それも一概には言えないはず。

同じ作家で作品Aは売れたけど、作品Bは売れなかったとして、BはAよりダメなのかと言ったら、作家目線ではそんなことはないはずです。また、そもそも「売れる」こと自体も、100人が大嫌いな作品でも1人が好きで買ってしまえばいいことなので、売れたものが売れてないより必ずいいわけでもないです。

ただ、この売れる売れないについては、売れない作家が言っても、ひがみにしか取ってもらえないことがあって、人気があるかどうかはやっぱり作品が売れてるかどうかで判断されるものなんだろうなっていうのも思います。同時に、芸能人と同じように数年前まで売れてたけど、売れなくなったというケースもあって、それは作品がダメになったわけではなく、作家が新たなチャレンジを始めただけかもしれないのに、売れたかどうかという「点」で評価されることで、世の中にある作品が凡庸になっていくとしたら、とても残念な気がしますね。

これについては「売れてるとすごい」って考えちゃう文化がすでに根付いてしまっているのが問題なのかなと思っていて。

売れるのはすごいです。それは確か。でも「すごいの全て」ではなくて、「すごいの一部」なんですよね。アート作品には他にもすごい部分がたくさんあって、いろんな「すごい」をアートにそこまで詳しくない人でも見つけられるようになってると素敵だなと思っています。

少なくとも、私は文章を通じて「無数のすごいを自ら見出す文化の醸成」に貢献したいですね。特に私はインスタレーションと呼ばれる売れにくいジャンルの作品や作家さんが好きだから。

オンラインギャラリーの信頼度はどこにあるのか

あと、オンラインギャラリーって、複数のサイトにまたがって同じ作品を出してもいいところが多そうなんですが、自社で売れてなくてもSOLD OUT表記にしてるところもあるようなんですよ。なので、サイトAでいっぱいSOLD OUT作品があるから、このサイトは顧客を抱えているっていうのは言えないようでした。

SOLD OUTになってると、お客さんからしたらそのプラットフォームで売れてるように見えてしまうので、アーティストにとっては「売れてる」感が出せていいかもしれないですけど、プラットフォームとしてはどうなんだろうという感じがします。他社のサイトで売れたのに、自分のところで売れた感を出してるのってズルくないですかね? 誰もそういうこと思わないのかな。

SOLDになってると、お客さんだけでなく、新規のアーティストがサイトを見た時にも「このサイトは顧客を持っているな」って考えそうですよね(実際、自分もそう思ってましたし)。顧客を持っているならここと一緒にやろうって考えるアーティストがいるかもしれない。そうして労力を割いたけど、実はサイトに顧客はおらず、そこに出しても売れなかったってことが起こりかねないんじゃないかなーと。それは誰のためになっているんだろうって思っちゃうんです。

ちなみに、タグボートのSOLD OUTは全部、タグボート経由で売れたものです。

オンラインギャラリーはそのサイトで売れたからSOLDになってるっていうのが分からない以上、SOLD表記が表しているのは、サイトが顧客をもっているかじゃなくて作家が売れているかどうかの指標なんだなっていうのを覚えておくといいかもしれません。あるいは、契約や登録の前に自社で売れてるものなのかを確認したほうがいいかもですね。

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後は、作家さんと話したことをきっかけに、どこに労力を割くのが一番効率が良いかというのを考えてみたことのまとめです。総合力で戦うといっても、作家は作品がすべてだと私は思っています。作品以外のもので、見てもらえる機会が増えるとか、ちょっとチャンスの巡りがよくなることはあると思うんですが、最終的にチャンスをつかむのは作品の力で、そこはとても平等なんじゃないかと思っています。

ということは、一番労力を割くべきは作品制作についてで、それ以外のことはなるべく減らせるのがいいですよね。その辺りの効率化について、自分のために考えてみます。

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