サインカーブに浮かぶ日

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記事

サインカーブに浮かぶ日(終)

それから二日が過ぎたころに、ようやく重い腰を上げて洗濯機のメーカーに電話をした。別にまだ急がなくても良いのだけれど、そろそろ連絡くらいはしておいた方が良い、とも思った。フリーダイヤルにかけて、自動音声のあと、要件別に番号を押すと、『ただいま電話が混み合っております』というアナウンスのあとに、ビートルズの『let it be』が、気の抜けた電子音で奏でられた。三、四巡目あたりで、ふと、こういう音源は

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サインカーブに浮かぶ日⑩

ベッドに戻り、目を閉じる。レイジがいなくなったこと、それ自体は特に気にならない。なんとなく、いつかこうなるだろうと予想はしていた。というより、意識して気にしないようにする。そう自分にそう言い聞かせる。それでも、浅い眠りに落ちかけるたびに、彼のイメージが思い浮かび、朝の光が気になり始める。何度か、そんな微睡みの中で瞬きをし、そういえば、玄関の鍵はかかっているのかと、気になった。
 もうほとんど目は覚

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サインカーブに浮かぶ日⑨

翌朝は、どちらともなく起きて、テレビを見ながら順番に顔を洗った。僕は食欲が湧かなくて、マサラチャイを普段よりも濃く作って飲んで、何も食べなかった。ニュースを見ながら、感想めいたことをぽつぽつと話すレイジに相槌を打ちながら、彼が昨日のことを一切話題に出さないことに、ちょっと感謝した。僕は不機嫌というわけではないけれど、いつもより口数が少なく(もともと多くはないけれど)、端から見たらムスッとしているよ

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サインカーブに浮かぶ日⑧

夜が明けると思いの外、体調が良かった。僕にしては、まぁまぁお酒を飲んでしまったから、もっと二日酔い的なものを覚悟していたのだけれど、なんとなくの怠さみたいなものはあるものの、それもシャワーを浴びたらほとんど消えてしまった。レイジの方もそんな感じのようで、昨夜の話が話だっただけに、どこか気まずい感じになってしまうのかとも思ったけれど、ケロッとした表情で、テレビを見ながら他愛もないことをつぶやいていた

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サインカーブに浮かぶ日⑦

目をさますと、そこそこお腹が空いていて、時計を見るとすでに十二時を過ぎていた。ソファの方に目をやると、レイジが横になったまま、スマホを見ていた。寝転がりながら、背伸びをする。
 ベッドから出て、テレビでも見てて良いよ、と声をかけて、僕はバスルームに入ってシャワーを浴びた。そういえば今朝、ヒゲは剃っていたんだよな、と思い出し、変な感覚だな、と思いながらも気にしないことにした。
 バスルームを出ると、

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サインカーブに浮かぶ日⑥

一ヶ月以上経っても、甲斐からの電話を折り返せずにいた。そもそも、どうして彼女がこの番号を知っているのだろう。彼女がこの家に来たことはないから、冴島やレイジのような手段で知ったわけではないはず。
 出来れば忘れたかった過去が、ようやく忘れかけていた途端にまた現れた。いや、忘れてなんかはいない。目を背けていただけなのかもしれない。ただ、今はまだ向き合うことはできない。もしくは、今更向き合うことなんてで

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サインカーブに浮かぶ日⑤

どうすれば良いのだろう、としばらく考える。でも、どうしようもない。ソファの上で丸くなり、タオルケットに包まっているのはレイジで、まだ起きる様子はない。うーん、と唸ってみても、考えているフリにしかならない。話は単純で、昨夜飲み過ぎた僕は、この子に家まで送ってもらったのだ。記憶が曖昧だけれど、もしかしたら僕が、泊まっていっても良いよ、などと言ったのかもしれない。基本的に、僕がそんなことを言うことはない

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サインカーブに浮かぶ日④

駅の近くのカフェでコーヒーを飲んだあと、新宿まで戻り、夕食がてら飲んでいくことにした。新宿まで戻ったのはお互いに帰りが楽だからという理由だったけれど、日曜の夕方とはいえ新宿はやっぱり新宿で、なんとなく混みすぎていないお店が良かったのと、これまたなんとなく普通の居酒屋というかチェーン店的なお店もなんだかなぁ、という気分でいろいろ歩き回るうちに、少し疲れてしまって、結局東口のキリンシティに入った。それ

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サインカーブに浮かぶ日③

洗濯を終えて昼食を食べたあと眠たくなってしまったのは、先週までの寒さがテレビでも花冷えなどと言われて話題になるくらい、この時期にしては珍しいもので、それに比べ今日はようやく春らしい暖かさが戻ったような陽気で、この時間に昼寝をすると夜に時間を持て余してしまいそうで、なんとなく迷ってはいたものの結局眠ってしまった。何か夢を見ていたはずなのに、その詳細どころか大枠も思い出せないけれど、なにかのアラームが

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サインカーブに浮かぶ日②

毎朝、七時頃には目が覚める。目覚まし時計をかけているわけではないのに決まってこの時間なのは、朝の光が差し込むのと、寝る前に暖房を切ったせいで、部屋が冷たくなってしまうからだろう。目を開けて、時間を確認したあと、リモコンに手を伸ばして、エアコンをつける。部屋が温まりだすまでの十分くらいのあいだ、また目を閉じる。そのまま、二度寝をしてしまう日もあるけれど、今朝は妙にすっきりしていて、ベッドの中で背伸び

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