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【エッセイ】姪って、すごい。(1131字)


鼻からスイカ


二ヶ月前、僕の弟、次男の娘が無事に誕生した。

無事に、と言っても、そこには男の僕には計り知れないような痛みが伴う。

それは想像してもしきれないものだと思った。

『鼻からスイカくらいの痛み』とは、よく聞くものの、その絵面はどう転んでもギャグ漫画の一コマにしか思えなかった。

このスイカは体内のどこで育生し、どういうルートを通って鼻までやってきたのか。

もしも気管とかだったら、鼻よりももっと痛いとこありそうだよな。

でも収穫するならやっぱり夏だよね。

とか全然関係ないことが気になってしまう。



小さな姪


そんなスイカちゃん(仮名)は僕にとって姪ということになる。

僕が彼女に対面することができたのは、誕生から一週間が経ったころだった。

そのとき、胸にあふれた感情。

まだ満足に声も出せず、ぼんやりとこちらをみつめ返すだけの小さな生き物に、こんな愛おしさをおぼえるなんて。

一緒に来ていた、三番目の弟が言った。

「生きとるなあ」

その通りだと思った。

それから二ヶ月が経った。

姪は会う度に、変化している。

されるがままだった手足の力は強くなり、一日中じたばたしている。

産まれて間もないころにはずっと「世界のすべてが不思議でたまらないわ」という表情をしていたのに、このあいだはもちもちほっぺを緩ませ、拙いながらも笑顔を見せてくれるようになった。

先日なんか、僕がなにか言うたびに「あー」とか「うー」とか声をだしてくれるので、世界の素晴らしさについてたくさんおしゃべりができた。

姪、素晴らしかった。



姪って、すごい。


僕は自他ともに認める知的人間なのでわかるのだが、おそらくうちの姪に匹敵するかわいさをもつ赤ちゃんはこの世界に存在しない。

もしも全人類がうちの姪だったなら、間違いなく世界は平和になるだろうと言うことができた。

もしもヴィランが「おまえの姪と、見ず知らずの十人の命、どっちが大事だあ?」とよくあるトロッコ問題を提示してきても、僕は姪を助けたあと、なるべく迅速にもう一方の十人を助けにいくだろうと言えた。

「スイカ。実は僕、おまえに黙っていたことがあるんだ」

「なあに、お父さん」

「お父さんはな……おまえの本当のお父さんじゃないんだ」

「嘘つき! お父さんなんて大っ嫌い!」

ということになったら嫌なので、僕のなかに「スイカちゃんを連れ去ってしまいたい」という欲求が湧き上がっても、なんとか踏みとどまれている。

彼女がどんな声で怒り、どんなときに笑い、どんな考え方をするようになるのか。

それは誰にもわからない。

彼女は今、無限の可能性を秘めているのだ。

ほとんど宇宙みたいなものなのだ。

姪が泣いているとき、宇宙が泣いている。

姪を抱っこしているとき、宇宙を抱っこしている。

つまり『鼻からスイカ』ではなく、『鼻から宇宙』なのだった。

姪って、すごい。



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