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『これからの男の子たちへ』はじめに先行公開!

8月末発売の『これからの男の子たちへ〜「男らしさ」から自由になるためのレッスン』、著者の太田啓子さんが予告ツイートをしたところ大反響! 累計57万PVを達成し、Amazonで「ジェンダー」部門1位、総合ランキング50位以内を1週間継続という快挙となりました(発売前なのに!)。
コメント付きRTやリプライで寄せられたこういう本を待っていた!」「夫や子育て中の家族にも読ませたい!」という声の熱さに、著者ともども嬉しい驚きを感じています。
とはいえ、まだ刊行まで1か月。待ちきれない!という声にお応えして、このnoteで少しずつ情報をお知らせしていきたいと思います。
まずは、本文の「はじめに」を先行公開します!

はじめに

こんにちは。
太田啓子といいます。神奈川県で弁護士をしています。
弁護士というのは、世の中にあるいろいろなトラブルについて当事者からご相談を受けて、法律を使って解決するお手伝いをする仕事です。
ひと口に弁護士といっても、人によって日常的に扱う仕事はだいぶ違うのですが、私の場合、いまは離婚事件の扱いがいちばん多いです。女性の離婚専門というわけではありませんが、まだ女性の弁護士は多くはないので(全弁護士の2割弱ほど)、女性弁護士を希望するご依頼が集中し、結果的に依頼者の7〜8割が女性となっています。
また、セクシャルハラスメントや性暴力被害に遭った方の代理人の仕事も、他の弁護士と比べると多いと思います。ハラスメントについては、大学などの組織からの依頼で、第三者的な立場でハラスメント被害の申告を聞き、事実関係を調査するような仕事をすることもあります。
また、「憲法カフェ」(出張憲法勉強会)などの講師としての講演活動もしています。

私生活では、小学6年生と3年生の2人の息子を育てる母親でもあります。
ちなみに、彼らの父親とは離婚をしており、いわゆるシングルマザーです。完全ワンオペ育児歴は、今年でほぼ8年になります。
息子たちの生活や勉強の面倒をみながら弁護士業務もする毎日は、楽しいながらもけっこう壮絶です。
まして、これを書いている現在は、新型コロナウイルスの流行にともなう一斉休校で、常に家に息子たちがいます。暇とエネルギーを持てあました彼らは、すぐに兄弟げんかを始めます。そんな息子たちをなだめたり叱ったりしながら、三食の世話をし、健康を管理し、勉強もさせようとすると、とても時間が足りず、毎日が嵐のようです。
そんな中で日々感じているのが、「男の子の子育ては、女の子の子育てとは違うな」ということです。

私はなぜか子どものころから「女らしさ」「男らしさ」の押しつけには反発があり、「女の子だから」「男の子だから」という理由で違う扱いをしてはいけない、と思ってきました。たとえば「女の子にはそんなに勉強を頑張らせなくても、人から愛されるように育ってくれればいい」とか、「女の子だから数学は苦手で」「うちの子は男のくせに引っ込み思案で」のような言い方には、いまでも引っかかりを覚え、「そういうの違うと思います!」「性別だけで決めつけるのは、子どもの可能性を邪魔してしまうんじゃないでしょうか!」と言いたくなってしまいます。

だから、本屋さんでよく見る「男の子の育て方」のような性別で分けるタイトルの本にも、反射的に身構える人生を送ってきました。それなのに、なぜわざわざ「男の子の育て方」をテーマにした本を書こうと思ったのか、ということをこれから書こうと思います。

私自身は3人姉妹の長女で、同居家族の中で男性は父親だけという環境で育ちました。父は海外出張も多い忙しい会社員で、母は主婦でした。夏休みなどによく遊んでいた同年代のいとこも3姉妹。男きょうだいがいない私には、「男の子」が成長する過程を身近で見る機会は少なかったのです。もちろん、学校などで男子と遊んだりというつきあいはありましたが、多くはありませんでした。
そんな私が、32歳で長男、35歳で次男を授かって男の子2人の親になり、「男の子の育ち方」という、それまで縁がなかったテーマに日々直面することになりました。
ママ友と話していると、もちろん個人差はあるのですが、母親自身に男きょうだいがいたかどうかは、男の子の育ち方についての情報量にけっこうな差をもたらすものだと感じています。
兄や弟がいる女友達は「お兄ちゃんはこうだった」「弟はこうしていた」「男の子ってこういう遊びをするよね」などと話すのですが(ちなみに、娘である自分と、息子である兄や弟に対して親の態度が違ったという愚痴や嘆きを聞くこともよくあります)、私にはそういうことがありません。
そういうこともあって、私は、息子たちの行動を見ながら、自分の子ども時代とあまりに違う「男の子の生態」に驚いたり、「男の子って世の中からこういう扱いなの?」と違和感を覚えたりしやすいのかもしれません。

「男の子の生態」と書きましたが、人間の行動や考え方が、生まれついた性別に基づいて(たとえば遺伝子とか脳の構造といったレベルで)決まっているわけではありません。
性別による大きな傾向があるかもしれないことまで否定するつもりはありませんが、たとえば「男脳・女脳」などという言葉を使って、男女の行動や考え方の違いを脳の性差で説明しようとすることは、科学的根拠に欠けていると思います。このような説明は「ニューロセクシズム(神経性差別主義)」とよばれ、近年学術界でも問題視されているそうです。
むしろ、息子たちを見ていて感じるのは、周囲の大人やメディアの情報を通じて「学び」、外から「刷り込まれ」、彼らの内面に無意識に根差すようになるものが、かなり大きいのではないかということです。

フランスの作家シモーヌ・ド・ボーヴォワールの「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」という有名な言葉があります。私自身、自分の女性としての生きづらさを人生の折々に感じるとき、この言葉を思い浮かべたりするのですが、新生児だったころからの息子たちの成長を身近で見ていると、男の子もまた「男に生まれたというよりも、“男になる”のだな」という気がしてくるのです。

子育てをするなかで、人間というのはほんとうに、ごく幼いうちから社会の中で生きる「社会的存在」なのだとつくづく感じます。当然のことではあるのですが、よちよち歩きのころからそうなのだということは、子どもが生まれて日々一緒に暮らすようになるまで、私にはあまりピンときていませんでした。
絵本やマンガからテレビから、保育園や幼稚園の友達や先生から……子どもはほんとうに幼いうちから、親や家庭以外からもいろいろな影響を受けながら育っていくものなのですね。
そして、そうした社会からのメッセージは、「女の子」に対するものと「男の子」に対するものでは明らかに異なっています。
たとえばテレビのおもちゃのコマーシャルを見れば、どんな商品が「女の子向け」「男の子向け」としてアピールされているかは一目瞭然です。赤ちゃん人形のテレビCMは、女の子がその人形を使って「お母さんごっこ」をしているようすとともに「あたしのかわいい妹」と女の子の声でナレーションが入るなど、明白に女の子をターゲットにしています。
もちろん、それを見ても興味をもたない女の子もいれば、「僕もあれがほしい」という男の子もいるでしょうが、しかしこういうことが世の中に積もり積もれば、その集積として、社会が発する「女の子向け」「男の子向け」のメッセージに違いが生まれることは明らかだと思います。

このような違いは、程度の差こそあれ、女の子と男の子の価値観や感受性の形成にもかかわるだろうと感じます。実際、メディアにおいてどのように女性性や男性性が描かれ、そのイメージが構築されているのかを分析した学術研究は数多くあります。
息子たちとの毎日の中で、社会が彼らに投げかけてくるメッセージを感じると、たとえ親が家庭で「女らしさ」「男らしさ」を押しつけるようなことはしなくても、子どもは社会から発せられる性差別的な価値観や行動パターンを身につけてしまうのではないか、と真剣に考えるようになりました。

これは女の子についてももちろん同様なのですが、性差別構造においてマイノリティ属性である女の子と、マジョリティ属性である男の子では、そのあらわれ方も違うのだから、子育てにおいて意識すべきことも違うのはむしろ当然だと、いつしか感じるようになったのです。

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これまで弁護士としてかかわってきたDV離婚事案やハラスメント事案での男性の言動や、報道される性暴力事件の加害者の行動を見ると、自分の行動を反省するどころか、開き直って被害者を非難するような態度を見ることがあまりに多いと感じます。
そのような男性たちの言動を見ていると、どうしてこの男性はこのような性差別的な考え方を身につけてしまったのか……と思う一方、中年や初老になってそのようなふるまいを改められない男性に、根本的な考え方を変えさせることはもはや難しいのではないか、と感じざるをえません。加害者が変われることを信じたい気持ちはありますが、それを説得や教育でうながすには、途方もない労力と時間がかかるのでは、と思ってしまいます。
むしろ、彼らを反面教師として、これから成人する男の子たちがそうならないためには、どういうことに気をつけて子育てする必要があるのかを、まさに男の子を育てる私自身が緊急に考えなくてはいけないのではないか――。そんなふうに考えるようになりました。

そんな問題意識をもつひとりの母親として、日々の試行錯誤を書きとめ、また「男の子問題」に共通の関心を寄せる方々にもお話をうかがいながら書いたのがこの本です。
「男の子の育ち方」に関心をよせるお母さんやお父さん、子どもの将来を思うさまざまな立場の大人の皆さんと、「社会から性差別をなくすために、男の子の育て方こそが大切じゃないの?」というテーマを考えるきっかけになったらと思います。また、これから大人になっていく男の子たち自身が、性差別や性暴力という問題に、自分が当事者としてどうかかわっていくかを考える入り口にもなれば、とても嬉しいです。

(続きは書籍をお楽しみに!8月末発売です)
「これからの男の子たちへ」目次
はじめに
1章 男の子の日常にかかるジェンダーバイアスの膜
2章 男の子にかけられる呪い
 清田隆之さん(桃山商事)に聞く 男子って、どうしてああなんでしょうか?
3章 セックスする前に男子に知っておいてほしいこと
 星野俊樹さん(小学校教員)に聞く 多様性が尊重される教室をつくるには?
4章 セクハラ・性暴力について男子にどう教える?
5章 カンチガイを生む表現を考える
 小島慶子さん(タレント・エッセイスト)に聞く 母親として、息子・娘たちに何を伝えられますか?
6章 これからの男の子たちへ
あとがき



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