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だれが日韓「対立」をつくったのか(1)偽りの「対立」を克服するために

日韓関係が「戦後最悪」といわれる局面におちいった今年2019年。でも、その「対立」は本当に避けがたいものだったのでしょうか。日本のメディアだけにふれていると「韓国がすべて悪い」というのがあたかも正論のように思えてきますが、果たしてそれで問題は解決するでしょうか。12月刊行『だれが日韓「対立」をつくったのか』から、一部を抜粋して集中連載します。
岡本有佳(編集者、Fight for Justice運営委員、「表現の不自由展」実行委員)

日韓「対立」を煽るような報道が多すぎる、この状況に対抗する本をつくれないかと大月書店編集部の角田三佳さんから連絡をいただいたのが、あいちトリエンナーレ2019(以下、あいトリ)開幕直前でした。「ぜひやりましょう」と返事をしてから名古屋入りしました。
ところが、開幕3日目の8月3日、あいトリに出品していた〈表現の不自由展・その後〉中止事件が起きました。同展実行委員である私はまさに当事者としてその後2か月、再開のための活動にすべての生活をかけることになってしまったのです。
それでも角田さんはすぐ「こういう状況を生む今の日本だからこそ、本が必要だ」と連絡をくれました。8月中旬、束の間東京へ戻って具体的な内容を相談し、加藤圭木さん(一橋大学大学院社会学研究科准教授・朝鮮近現代史)に共同で編者になっていただくことになりました。その後ますます余裕がなくなった私のせいで、加藤さんと角田さんには多大なご負担と迷惑をかけることになってしまい、この場を借りてあらためてお詫びします。

とはいえ、あいトリの現場で、「日韓関係の悪化」が展示中止に追い込まれた理由にまで都合よく使われるなかで、本書刊行の意味を実感しました。
開幕するや、日韓メディアからたくさんの取材を受けましたが、こうした状況だからこそ、展示の意味はいっそうあると答えてきました。残念ながら日本メディアではまったく報道されませんでしたが、韓国ではかなり報道されました。

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「表現の不自由展・その後」展示風景

韓国でもっとも信頼されるニュース番組JTBC「ニュースルーム」は開幕当日、《平和の少女像》が展示されたことを伝え、「日本の観客の反応は、私たちが考えていたのとは少し違いました」と報じました。隣に座って少女像のように拳を握る男の子、手を重ねる子どもを抱いた母親、「反日」と思っていたが作品に込められた意味を知ったという若い男性など、少女像を見て共感する観客の姿をカメラは収めています。
「日韓関係最悪」と言われる状況で、こうしてお互いを知る可能性のあった展示だったとあらためて思います。さらに、《平和の少女像》との交流についての取材が、限定再開後にも自由にできていたらと思うと残念でなりません(あいトリによる報道規制で不可能でした)。

もう一つは、中止決定前に発せられた、河村たかし名古屋市長の発言です。「日本人の、国民の心を踏みにじるものだ」という発言ばかりが報道されましたが、見逃してならないのは、日本軍「慰安婦」について「そもそも事実でないという説も非常に強い」「強制連行の証拠はない」という発言のほうです。さらに8月5日には、記者会見で「強制連行し、アジア各地の女性を連れ去ったというのは事実と違う」と言っています。この発言の何が問題かは、ぜひ本書Q4とQ5を読んでいただきたいと思います。

この発言を問題にし、検証する全国紙の記事を見たことがありません。書かないのか、書けないのか、理由はわかりませんが、やはり90年代に歴史修正主義者が台頭して教科書から「慰安婦」問題の記述がいったん消えてすでに20年近くとなっていることと深く関係しているでしょう(最近ようやく学び舎の『ともに学ぶ 人間の歴史』だけが「慰安婦」について記述して、採択されました)。
日本人の多くは歴史教育で加害事実をあまり教えられていませんし、マスメディアでも加害の実態はなかなか取り上げられないのが現実です。
そのため本書は10代から読めるようなものにしようと心がけました。重要なことは、「はじめに」で加藤さんが指摘しているように、徴用工問題や「慰安婦」問題、植民地支配の問題を、人権問題として見るという視点です。これは、歴史を知らされてこなかった若者たちだけの問題ではありません。
他者の苦痛への想像力をもって日韓の歴史と現在に向き合える日本社会に変えていくために、報道だけを鵜呑みにせず、一度立ち止まって本書を読んでいただけたらと願っています。

『だれが日韓「対立」をつくったのか』目次
はじめに――泥沼化する日韓関係を読み解く(加藤圭木)
PART1 徴用工問題――「韓国はルール違反」の真相
Q1 なぜ徴用工は損害賠償を求めているのか?(加藤圭木) 
Q2 「韓国は国際法違反!」と、断言できるのはなぜ?(川上詩朗)
Q3 韓国はなぜ話を蒸し返すのか?(金昌禄)  
〈topic1〉日本の軍事動員と皇民化政策(金庾毘)
PART2 主戦場としての「慰安婦」問題――「少女像は反日」か?
Q4 日本軍の強制連行はなかった?(吉見義明)  
Q5 「慰安婦」は、ビジネスで、「性奴隷」ではない?(金富子) 
Q6 なぜ米国にも「慰安婦」の碑を建てるのか?(金美穂)  
Q7 日本はお金も払って責任を果たしたのに、なぜ韓国は「合意」を無視するのか?(板垣竜太)
〈topic2〉 《平和の少女像》(平和の碑)の願い(岡本有佳)
PART3 韓国はなぜ歴史問題にこだわるのか?
Q8 「韓国併合」のどこが問題なのか?(加藤圭木)  
〈topic3〉 三・一運動と現在(加藤圭木)  
Q9 日本人もひどい目にあったのに、なぜ朝鮮人は被害を言い立てるのか?(加藤圭木)
〈topic4〉 関東大震災下の朝鮮人虐殺(加藤直樹)  
Q10 文在寅政権はなぜ、歴史問題(徴用工・「慰安婦」)にこだわるのか?(金富子) 
〈topic5〉 韓国の民主化と過去清算(藤永壮)
PART4 なぜ、これほど日韓関係は悪化したのか?――メディアのズレを読む
Q11 日本のマスメディアは《少女像》撤去・移転をどう報じているか?(岡本有佳)  
Q12  日本のマスメディアは徴用工問題をどう報じたのか?(土田修) 
Q13 日本のマスメディアは日韓関係の悪化をどう報じ、何を報じていないか?(土田修)
Q14 韓国メディアは日韓関係の悪化をどう報じ、何を報じていないか?(吉倫亨)
〈topic6〉 韓国特派員が見た日本のメディア(金鎮佑)  
〈topic7〉 韓国・市民によるメディア監視(モニタリング)(岡本有佳)
PART5 解決への道はあるのか?
Q15 「戦後生まれ」が責任を問われるのはなぜか?(加藤圭木)  
〈topic8〉 朝鮮民主主義人民共和国で出会った人びと(加藤圭木)  
Q16 植民地支配の責任にどう向き合うのか?(梁澄子)  
〈topic9〉 日韓交流がつくる未来――「#好きです韓国」から見えた無自覚の偏見と日韓連帯の鍵(阿部あやな)
『誰が日韓「対立」をつくったのか』は12月18日発売です。note集中連載は、これから年明けにかけて週1回更新でお届けします。お楽しみに!

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