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大月書店通信*第130号(2019/11/29)

「大月書店通信」第130号をお届けいたします。

気づけば今年も残りひと月。毎年のことですが、時の過ぎる速さに愕然とします。
今年2月に沖縄で行われた「辺野古」県民投票をご記憶でしょうか。
埋め立ての是非をめぐり、若者たちが署名を集め実現した県民投票の結果を、日本政府は完全に黙殺しました。
沖縄に対する政府の態度は、冷淡を超えて「敵意」の域に至っているように感じます。その心性は、歴史的なものでもあるかもしれません。

今月の新刊『沖縄 記憶と告発の文学』(尾西康充著)は、沖縄出身の作家・目取真俊の作品群から、戦前・戦後を通じた沖縄への差別と支配の諸相を読み解く批評集です。
ただし、そこには単純な善悪で済まないものが横たわります。
ナチ時代のユダヤ人についてアーレントが指摘したのと同様に、沖縄社会にも「ヤマト」支配に迎合し積極的に皇民化に与する動きがありました。その中で複雑に折り重なった支配と暴力の記憶が戦後も引き継がれ、沖縄社会に深い傷を残している様を目取真文学は描きます。
人間性を失わせる「戦時」の暴力が「戦後」も世代を超え共同体を蝕んでゆくとすれば。沖縄戦の生存者たちが、頑なに基地を拒む理由も想像できる気がします。

新刊案内:『沖縄 記憶と告発の文学』ほか

11月の新刊です。お近くの書店にてお求めください。

●沖縄から日本を問う目取真文学に対峙する
『沖縄 記憶と告発の文学――目取真俊の描く支配と暴力』尾西康充[著]

基地反対闘争の最前線に身を置き続ける芥川賞作家・目取真俊は、小説の中では沖縄の地域共同体に内在する権力・差別・暴力を鋭く描きだしてきた。その作品群と向き合いながら「本土」と沖縄の関係を問い直そうとする批評集。
試し読みできます


●企業の経営やはたらき方にはきまりがある
『くらす、はたらく、経済のはなし 3 会社のなりたちとはたらくルール』
山田博文[文] 赤池佳江子[絵]


株式会社のはじまりから、企業合併、独占禁止法や社会的責任などの企業の規則と、そこで働く労働者の労働時間や休暇、賃金、パワハラ、労働組合などの権利をやさしい文章とイラストで子どもたちにていねいに解説していきます。

●韓国経済の特質に迫る本格的研究
『グローバリゼーション下の韓国資本主義』大津健登[著]


奇跡的といわれる急成長や、経済危機からのV字回復が称賛される一方、少数の財閥による支配、市場原理の急激な導入といった歪みが注目される韓国資本主義。そうした特徴を構造的・歴史的に分析する。
試し読みできます


●特集=日本語指導が必要な子どもの“育ち”を保障する
『月刊 クレスコ』12月号 no.225

外国にルーツがあるなど、日本語教育を必要としながら、それが十分に保障されていない子どもが増えている。保護者の経済的な困難も重なっていることが多い。子どもたちと保護者を支える教育実践と多様なとりくみを紹介。

話題の本:『この国の不寛容の果てに』書評続々

9月に刊行した『この国の不寛容の果てに――相模原事件と私たちの時代
(雨宮処凛 編著)。主要紙誌をはじめ、続々と書評が出ています。大好評につき、早くも3刷決定。まだの方はぜひ。
試し読みできます

☆『朝日新聞』11月2日付 評者:本田由紀さん
「旅先で乗ったタクシーの運転手の人が、『みんな、おかしくなってるんですよ』と静かに言った。……」


『文藝春秋』11月号 評者:中島岳志さん
「現代日本社会を見つめるための必読書」


お知らせ:note 好評配信中★

「話題の本」欄でご紹介した『この国の不寛容の果てに』も、一部をウェブ連載として配信してきました。その最終回、向谷地生良さん(浦河べてるの家ソーシャルワーカー)と雨宮処凛さんの対談は、大月書店note開始以来の大きな反響をいただいています。noteで「今週もっとも読まれた記事」にも選ばれました。

「無差別殺人したい」という青年について相談を受けた向谷地さんがとった対応、そしてその結末とは……? ぜひご一読ください。


ほかにも、こんな記事を公開しています。

☆私の出会った先生――素直に伝えていいんだよ
 望月衣塑子(東京新聞記者)

☆先生が先生になれない世の中で――「私たちの教育マニフェスト」
 鈴木大裕(教育研究者・土佐町議会議員)


今後も更新していきますので、ときどき覗いていただけますと幸いです。

編集後記

タピオカを一粒も食べたことがない私には、流行語大賞ノミネート語の半分ぐらいはわからないのですが。「肉肉しい」が流行っていたのですか。英語でもmeaty と言うそうですが、私は「肉林的」という新語を提案したい。(Q)



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