僕らと命のプレリュード 第27話
一方、天ヶ原町郊外にある霊園で、白雪はある墓の前に佇んでいた。
「姉さん、久しぶり」
白雪はそう言って菊の花を飾る。空を見上げると、夕焼け色が辺りに広がり始めていた。近くの桜の木は満開で、花びらが散り始めている。
「……もうすぐ桜も終わりだね」
白雪は墓にむけて話しかけ続けた。
「……姉さん、僕、姉さんが目指した、みんなが笑顔でいられる世界にするために、命を懸けて戦うから。見守っていてね」
白雪は静かに微笑みながら、物言わぬ石に向かって口を開く。
……その時、背後からジャリジャリと地面を歩く音が聞こえて、白雪は振り返った。
すると、そこには、千秋が花束を片手に立っていたのだ。
「……来ていたのか」
千秋は白雪から目を逸らし、静かに呟く。
「総隊長……おつかれさまです」
それに対して、白雪はいつものように柔和な笑みを浮かべた。
「姉さんに会いに来てくれたんですね」
白雪が笑顔を貼り付けて言うと、千秋は黙って頷いた。
「……きっと姉さんも喜んでますよ」
その時、白雪のスマホが鳴った。白雪は花琳からのメッセージを確認する。
「仲間に呼ばれているので、失礼します」
そう言って立ち去ろうとする白雪に、千秋は声をかけた。
「……白雪、君は春花にはなれないんだぞ」
すると白雪は笑顔は崩さずに、しかし冷たく言った。
「分かってますよ。そんなこと」
白雪は千秋の脇を黙って通り過ぎ、霊園を立ち去った。
「……春花、君も恨んでいるのか」
千秋は1人、墓に向かって尋ねる。勿論、返答はない。
「……今の僕を君が見たら、きっと呆れてしまうな」
千秋は、1人呟く。
彼の肩に、桜の花びらがひとひら舞い落ちる。それに気づかないまま、千秋は墓に向かって歩み寄り、その墓石に触れた。
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