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文明開化とエイリアン

2014年の習作。明治時代?大正時代の次に大好きです。きょうだいの話?大好物ですとも。内容は今でもお気に入りです。つづきが書きたい。

 人 物
チエ(18)町娘・仏人とのハーフ 
ダニエル・竹二・ベルゴー(20)チエの兄 
長屋の子供たち 

○チエの長屋前(夕)
簡素な木造長屋から、チエ(18)の着物の裾と下駄の足が出てくる。
軒先の薪を集めているチエ。チエは頭に布を巻いて髪を隠している。
子供2人がチエのほうに走ってきて、チエの布を引っ張って剥がす。
チエの豊かな金髪が露わになる。そこに砂を浴びせる子供たち。
子供1「やーい、妖怪ヤマンバー!きっもちわりぃ髪!」
子供2「まだ夜じゃねーぞー。妖怪はさっさと消えろー!」
井戸端の女たちがその様子を遠目に見ているが、止めずに視線を逸らす。
髪を隠すように蹲るチエ、ただ、唇を噛む。
子供たち、はしゃぎながら去っていく。
構わず作業を続けるチエだったが。
子供1の声「う……うわあ!!妖怪だあー!!」
チエ、うんざり、イラついた顔で立ち上がるが。
そんなチエの横を、血相を変えた子供たちが血相を変えて逃げ走っていく。
チエ「……?」
チエの背後から足音がする。
ダニエル「(仏語で)汚ねぇガキだ」
チエ、振り返る。
そこに立っていたのは、ダニエル・竹二・ベルゴー(20)。顔は異人風だが、身長はチエと同じくらいで低め。眉間に皺を寄せている。
ダニエル「(日本語で)おい」
チエはいつの間にか薪の陰に隠れている。
ダニエル「……おい。そこの」
チエ、ぷるぷる震えながら、ちょっとだけ顔を覗かせる。
チエ「(驚愕して)き、金、髪……!?」
ダニエル「じゃあお前は何なんだ金髪」
チエ「なっ……!あたしは日本人だ!」
ダニエル「ああ混血か。それは奇遇だな」
チエ「え」
長屋の前で互いを見る金髪の2人。2人にはどことなく日本人の面影がある。
T・明治24年8月

○チエの長屋・内(夕)
土間と居間しかない窮屈な長屋内。
ダニエル、革靴のまま上がり框を踏む。
チエ「ちょ、ちょっと靴!」
ダニエル、土足で居間まで踏込み、
ダニエル「こんなくそ汚い床を靴を脱いで歩けってのか?冗談だろ?」
ちゃぶ台を手で浚い、そこに腰掛ける。
ダニエル「どこもかしこも汚ねぇなこの国は。道路も舗装されてないとは」
ポケットからハンカチを取り出し、ズボンについた砂をはたくダニエル。チエ、ダニエルの腕を掴み床に座らせる。
ダニエル「おい、床に座らせるな!」
チエ「床に座れ!一体どういう神経してるんだあんた!(息を吐いて)で、誰だい?」
ダニエル「お前こそ誰だ。俺はここに住んでる【たえ】という日本人女性に会いに来た」
ちゃぶ台の上に仏語で書かれたメモ用紙を乗せるダニエル。
チエ、驚き目を泳がせる。
ダニエル「7年がかりでやっと見つけたんだ」
チエ「……その人があんたの何だってんだい」
ダニエル「母親だよ」
チエ、絶句。
ダニエル「……。(気づいて)まさかお前」
戸惑い、ダニエルに背を向けるチエ。
同じく戸惑いちゃぶ台を叩くダニエル。
ダニエル「(仏語で)あのクソ親父……。俺の後にもう1人仕込んで帰国してやがったのか。早死にして当然だ。(日本語で)おい妹。ママはどこ行った」
無言のチエ。ダニエル、ため息をついて立ち上がる。
ダニエル「帰ってくるまで待たせてもらうぞ」
革靴のまま、室内をドカドカ歩き出すダニエル。視線を落とし続けるチエ。
ダニエル「帽子掛けくらいないのか、気の利かない家だな。あぁこれでいいか」
ダニエル、棚の上の適当な物に帽子をかけて、チエの前に戻る。
ダニエル「俺はダニエルだ。明日からこっちの領事館で通訳をする。お前は?」
チエ「……。チエだ」
ダニエル「……。ちえ?」
チエ「チエだ」
ぶーっと噴き出すダニエル。
ダニエル「(引き笑いしながら)チエ、チエって……(笑い止んで)え、本当にチエ?」
チエ「チエだっつってんだろ」
再び噴き出し笑いまくるダニエル。
ダニエル「(仏語で)信じられない、傑作だな。Chie、Chie(おねしょ)って!」
だんだんむっとしてくるチエ。
チエ「黙れこの……ダニが!!」
立ち上がりダニエルの股間をけり上げるチエ。ダニエル、倒れ、蹲る。
ダニエル「(仏語で)くそ、野蛮人め……!」
ふとチエ、棚を見て目を見開く。
ダニエルを放って棚の前まで行くチエ。
その背中が怒りに震えている。
チエ「もう帰っとくれ」
ダニエル「だから、母さんが帰ってくるまで待つと」
チエ「お母ちゃんならここにいる!」
ダニエルの帽子を投げ捨てるチエ。
ダニエルが帽子掛けにしていたのは、たえの位牌だった。

○チエの長屋前(夕)
ダニエルを追いだすチエ。
チエ「二度そのツラみせんな、毛唐!」
引き戸がバン!と閉まる。
ダニエル「おい!」
と、ダニエルの後ろからひそひそと声。
周辺の住人達が集まり、ダニエルを遠巻きに見ている。舌打ちするダニエル。

○チエの長屋・内(夕)
戸を閉め、戸に背を向けるチエ。
室内の床には無数の革靴の足跡。
ちゃぶ台の上には仏語のメモ。
位牌に金の髪が一本くっついている。
チエ「お母ちゃんの言う通りだ……異人なんて最低だ!」
ダニエルの声「じゃあお前は何なんだ、異人もどき」
反対側の引き戸が開いていて、そこからダニエルが覗き込んでいる。時間差で驚くチエ。
ダニエル、息を吐いて、土足で居間へ上がる。
チエ「なっ、なんだよ!もう帰れよ!!」
チエの声には耳を貸さず、棚から位牌をひったくるように手にする。
ダニエルは母の位牌を悲しげに見つめた後、表情をひきしめ。チエのもとに戻り、チエを肩の上に担いで歩きだす。
チエ「うわっ!お、おい!!」

○橋の上(夕)
街中の小さな川にかかる橋の上。位牌を胸に抱いたダニエルが、チエを担いで歩いている。暴れまくるチエ。
チエ「離せ!離せよ!人攫い、人攫い!異国に売られちまうー!」
舌打ちするダニエル。周りの目を気にしてチエを橋の上に落とす。
尻餅をつくチエ。ダニエルに手を伸べ、
チエ「お母ちゃんを返せ!」
ダニエル「返して欲しかったら一緒に居留地まで来い」
チエ「……きょりゅうち?」
ダニエル「横濱の外国人居留地だよ。お前、あんなとこに独りで住み続けるのは、限界があるんじゃないか?」
ダニエル、ポケットから何かを出す。
チエが髪に巻いていた布である。
チエ驚き、それをひったくる。
ダニエル「居留地に住め。ここいらの連中は異人に慣れてない。俺達みたいな中途半端な【異人もどき】なんか、もっと怖いだろうさ」
チエ「……」
落ち込むチエにダニエル、付け加えるように言う。
ダニエル「……今はまだ、な」
ダニエル「居留地の連中なら、ミックスにもある程度理解がある。形はどうあれ、お前は俺の妹だ。俺には家長として、家族を守る義務が──」
チエ「っ……。ふざけんな!お前みたいな異人どもなんかと一緒に住めるか!」
ダニエル「じゃあお前は何なんだ異人もどき?」
チエ「(叫び)日本人だ!!」
チエの勢いに圧され驚くダニエル。
チエ「お母ちゃんずっと言ってた!チエは日本人だ、日本人だって!血も涙もない異人の血なんてこれっぽっちも入ってないって!ずっと、ずっと!何度も!死ぬ直前まで!!」
ダニエル、無言でチエを見つめる。
日が沈む。2人の姿が影になっていく。
帽子の中に表情を隠すダニエル。
ダニエル「……よくわからんが。相当異人を憎んでたんだな、あの人」
チエ「ああ、そうだよ──!」
ダニエル「それじゃあ」
ダニエルの声が沈む。
ダニエル「異人の血が入った子供を生んだこと、よっぽど後悔しただろうな」
はっとするチエ。
ダニエル「……」
母の位牌を弱々しく持つダニエルの手。
ダニエル「最悪だ。来るんじゃなかった。こんな国」

○横濱・外国人居留地中心部
T・数日後
モダンな建物が立ち並び、洋装の外国人が行き交う。

○ダニエルの家・玄関前
ドアを開けているダニエル、驚いた顔。
たえの位牌と、風呂敷に入った大荷物を背負うチエ。目を逸らして言う。
チエ「せ、線香ぐらいなら、あげさせてやろうかなと思って……」
ダニエル「じゃあその大荷物は何だ?」
顔を赤らめ無言のチエ。かぶりを振るダニエル。
ダニエル「……物置でいいな?」

○ダニエルの家・玄関内
花柄の壁紙に囲まれた異国造の玄関内。
チエは落ち着かない様子で室内を見回す。
エントランスには日本で言う玄関、上がり框がなく、真っ直ぐな廊下が居間まで伸びている。
チエ、下駄を履いたままの自分の足を見て、ごくりと唾を呑む。下駄を履いたまま、意を決して歩き出そうとする。
と、ダニエルが追い越し様にチエの頭をぱかんと叩く。
チエ「いって!何すん──」
はっとするチエ。
ダニエルは素足でぺたぺたと室内を歩いている。ダニエルの革靴はドアの前に置かれたまま。
居間へと消えるダニエル。
チエ「……」
チエ、手早く下駄を脱ぎ、ほうり出して、素足で廊下を走ってダニエルを追いかける。
チエの頬に笑みが浮かぶ。

【了】

Photo : ©clearether

いただいたご支援は、今後の更なる創作活動のために活用したいと思っています。アプリゲーム作ったり、アニメ作ったり、夢があるの!(>ェ<)